87歳、古い団地で一人暮らしを満喫。コロナ禍で始めた新しい挑戦も
87歳の多良美智子さんは、築55年の古い団地でひとりで暮らしをしています。夫は7年前に亡くなり、3人の子どもはそれぞれ家族を持って、独立しています。ひとり暮らしは寂しくないの? ごはんはどうしているの? そんな多良さんの日常を綴った著書『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)が発売されました。87歳のひとりの時間の過ごし方を紹介します。
87歳、家を居心地良くして、ひとりの時間を愉しむ
多良美智子さんは27歳で結婚して、専業主婦になりました。子育てがひと段落してからは、パートに出たり、ボランティアや習い事をしたりして過ごしてきました。
現在住んでいる団地は、夫の仕事の都合で長崎から55年前に引っ越してきました。以来、ずっと同じ家に住んでいます。広さは50平米ほど、ひとり暮らしの今は十分な広さですが、家族5人で住んでいたときは、「それはもう、狭かったですよ」と、多良さんは笑います。
「でも、私は、家族の様子がすぐにわかる、“狭さ”が良かったんです。ここに来る前は、夫と私の地元・長崎の大きな家に住んでいました。そのときは、なんとなく家族がバラバラだったように思っていました」
●夫の死をきっかけに、ひとりを満喫しようと決めた
夫が亡くなったとき、「自分もいつ死ぬかわからない。今はひとりの自由を満喫しよう」と思うようになったそう。
「長男が一緒に住もうと言ってくれました。気持ちはうれしいけれど、住み慣れたこの団地がいいんです。お友達もいるし、趣味の習い事も続けたい。それに、家族といえども、離れて暮らしているから、良好な関係が築けていることがあると思います」
子どもの頃は恥ずかしがり屋で、友達に話しかけることもできなかったとか。そんな性格のためか、編み物、読書など家ですることが好きでした。大人になってから新しい趣味を始めましたが、やっぱりどれも1人でコツコツできることでした。
「新型コロナウィルス禍で外出できないときも、読書、針仕事、録画した古い映画やYouTubeを見るなど、やりたいことがたくさんありました。だから、家時間も退屈しないんです」
●好みのインテリアで、家にいる時間がますます楽しく
インテリアが好きで、若いころはよく模様替えをしていたそう。7年前に、夫が亡くなってものを整理したとき、家全体のものを見直しました。アルバムを処分して、写真を靴箱1個分にしたり、使っていない食器を娘と長男のお嫁さんに譲ったりもしました。そして、いつもは見ているだけの近くの骨董屋さんで、思い切って古い箪笥を購入しました。
それから、リビングの窓を出窓風にしたいと思い、ぴったりの長椅子を置いて草花を飾るようにしました。箪笥や長椅子は古い家によく合い、好みのインテリアが完成。家にいる時間がますます楽しくなったそうです。
●ひとりの食事は簡単に。好きな器に盛って見栄えよく
ひとり暮らしになると、どうしても面倒になるのが日々のごはんづくりです。
「家族と住んでいたときは、手間をかけたこともありますが、今はより簡単に。例えば、ホウレンソウのゴマ和えは大好きなのですが、和え衣をつくるのが面倒。そこで、ゆでたホウレンソウを器に盛り、直接、すりゴマ、しょうゆ、砂糖をかけて混ぜてしまいます。今は、これで十分です」
切り干し大根は、戻し汁をだしがわりに使って煮物にします。鍋で戻してそこに調味料を加えれば、洗い物も減ります。それから、切るだけ、もしくはさっと調理するだけで食べられる大豆製品や練り製品もよく食べています。年齢とともに気になるタンパク質不足を補うためにも、重宝する食材です。
「調理は簡単ですが、好きな器に盛りつけるとおいしそうに見えます。私は、昔から器が大好き。もちろん、主婦なので高いものは買えませんでしたが、少しずつ気に入った器を買い集めていました」。
今でも大事にしている器は、ひとりの食卓に彩りを与えてくれます。生前整理で、娘と長男のお嫁さんに使っていない器は譲りましたが、一番のお気に入りは手元に残してあります。切っただけのちくわも、立派な一品になる、美智子流器マジックです。
●85歳からの挑戦!コロナ禍でもYouTubeで世界が広がった
コロナ禍のひとり時間を家で過ごしていた、多良さんにちょっとした変化が訪れました。なんと、85歳のときにYouTuberになったのです。
10万円の給付金が出たとき、機械に詳しい長男から「家にいる時間が長くなるから、スマートテレビを買ったらいいよ」とすすめられました。今あるテレビは壊れていないのにと思ったけれど、操作が簡単で、インターネットにつなぐこともできるので高齢者には良さそうです。貯金したら経済が回らないと考えて、スマートテレビを買うことにしました。
パソコンに詳しい孫(当時中学生)に、スマートテレビでYouTubeの見方を教えてもらいました。インテリア好きの多良さんにとって、普通の人の家を色々見ることが楽しみになりました。そのうち、「私もやってみたい」と思うようになり、孫に相談。「一緒にやろう!」ということになり、始めたのが『Earthおばあちゃんねる』です。
「最初は、コロナ禍でなかなか会えない親族に宛てた手紙みたいな感じです。そして、趣味で作ってきた、絵手紙、水彩画、モラ(パナマの手芸)が映像で残ったら、私が死んだあと、子どもたちが時々見て思い出してくれるかなと思いました」
始めたころは、見てくれたのは親族だけでした。それが、2か月後にアップしたお部屋紹介の動画が160万回以上再生され、登録者数が一気に増えました。YouTubeを見てくれる人のコメントに励まされながら、高校生になった孫とときには喧嘩をしながら(笑)、動画製作を続けています。