日本ハム・清宮幸太郎【写真:荒川祐史】

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一瞬の「スピード」身に着けきっかけ掴んだ万波中正

 日本ハム一筋に通算2012安打、287本塁打を記録し“ミスター・ファイターズ”と呼ばれた田中幸雄氏は、3年連続の5位と低迷する古巣に今季「Aクラスはあるかもしれない」と期待を寄せている。ただ新庄剛志監督の就任で注目を集めているとはいえ、戦力不足は否めない。下馬評以上の結果を残すため「キーマンになるかも」と指名したのは、プロ4年目のスラッガー候補、万波中正外野手だ。

 今季の日本ハムについて、田中氏は得点力不足を不安点に挙げている。キャンプ視察前は「最下位もあるかも」と思っていたのを“上方修正”したのは、新庄監督があの手この手で選手の力を引き出していると感じたから。さらに万波がブレークすれば、不安点を埋められる。

 オープン戦16試合で5本塁打した万波も、昨季1軍では49試合で打率.198、5本塁打に終わった。2軍での17本塁打、打率.280と比べると「1軍の壁」を感じさせる数字だ。それがオープン戦前半に見せた爆発には、はっきりとした理由があるという。

「スイングスピードが速くなりましたね。高卒選手は体を作り上げて4、5年目くらいでポンと出ることがありますけど、そんなところまで来ましたね。昨季2軍の試合を見ていても、振りの強さは目立っていました。身長もパワーもあるし、長距離砲になってほしいと思っていました。ただ、当てるのが上手くなかったんです。それがバットにボールをしっかり当てられるようになりました」

 田中氏が選手を見る時に重視するのが「スピード」だ。単純な走る速さだけではない。しっかりした体幹による、一瞬の爆発力が生むスピードだ。万波にも、その感覚が備わり始めているという。

「体にキレが出ると、全てのスピードが上がるんです。そうすると打つポイントが近くなってくる。変化球にくるくる回っていたのが、しっかりと見極めてバットを止められるようにもなる。当たる確率が上がって、打つべきものを仕留められるようになった。それがオープン戦の最初は結果につながっていた感じですよね」

 昨季、日本ハムでチーム最多の本塁打を記録したのは近藤健介外野手で11本。ここに20本以上打てる和製大砲が現れれば、話は変わってくる。打線に警戒される選手が増えれば、本人の打撃成績以上だけではない影響をチームに与える。昨季優勝したオリックスでも、本塁打王に輝いた杉本裕太郎外野手の大ブレークがあった。

清宮幸太郎は「ふにゃふにゃ」から変われるか?

 一方、田中氏が気にしているのが5年目を迎えた清宮幸太郎内野手だ。昨季は入団以来初めて1軍昇格がなかった。2軍では19本塁打する一方で、打率は.199。113個の三振も喫した。高校通算111本塁打の大砲という期待に、応えられずにいる。

「ここまでの4年間、正直成長が見られなかった。去年は2軍のレベルでも打率が2割なかったわけです。自分の中でも色々考えているでしょうが、極端に何かを変えてみないといけない時期かもしれません」

 昨秋、新庄監督にも指摘されたことで清宮はダイエットを始め、約9キロの減量を果たして自主トレ、キャンプと過ごしてきた。ただ、体重を落とすのはスタート地点に過ぎない。ここでも身につけなければいけないのは「スピード」だという。

「守って、走ってという選手ではないから、とにかく打つ方で結果を出すしかない。見ていても体が『ふにゃふにゃ』に見えるんですよね。体を絞って、ウエートトレーニングをして筋量を増やして、体幹を強くしてスピードを上げないといけない。体幹がしっかりしていないから、ボールになる変化球にもバットを止められなかった。スイングする力も、逆に止める力もなかった。何のために痩せたのか、続いて何をすればいいのかを理解しないといけません」

 清宮は打法改造にも取り組んでいる。キャンプでも特殊な練習用のバットを用いたりして、手首を返さずに打つ練習を繰り返していた。年明け、柳田悠岐外野手(ソフトバンク)の自主トレに参加し、ヒントを得たようだ。

「結果さえ出せばいいんですよ。『不思議なことをしているな』ってみんな思うでしょうけどね。柳田がああいう打ち方をできるのは、インパクトの瞬間の並外れた強さがあるからだと思いますけど、清宮もやるならそこまで行ければいいんです」

 日本ハムは今春のキャンプに、アテネ五輪のハンマー投げ金メダリストでもあるスポーツ庁の室伏広治長官を臨時コーチに招き、一瞬の「爆発力」を選手に伝授してもらった。田中氏の指摘する「スピード」と共通する部分だ。万波と清宮だけでなく、選手の進化に注目のシーズンが始まる。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)