ウクライナの英雄に? 無人機「バイラクタルTB2」大活躍 “バイラクタルの歌”が愛国歌に
ロシア軍に対し抵抗を続けるウクライナ。その国民の支えにもなっているであろう兵器が、無人機「バイラクタルTB2」です。多数のロシア軍兵器の破壊に成功しており、その名をうたった愛国歌が数種類、口ずさまれています。
アゼルバイジャン軍の使用で有名になったバイラクタルTB2
2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから、1か月が経過した現在も、ウクライナは頑強な抵抗を続けています。
ウクライナの頑強な抵抗は、ウクライナ国民の愛国心や、日本を含めた諸外国からの防衛装備品の供与など、様々な要素により成り立っているものと考えられますが、ウクライナ軍が使用している無人航空機システム「バイラクタルTB2」の予想以上の働きぶりも、ウクライナ国民の支えとなっていると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
両主翼に精密誘導爆弾「MAM」を携行して飛行するバイラクタルTB2。写真はトルコ空軍機(画像:バイカル・テクノロジー)。
バイラクタルTB2は、トルコのバイカル・テクノロジーが開発した、ガソリンエンジンを動力とする無人航空機です。同機のように中高度を長時間連続飛行する能力を持つ無人航空機システムは「MALE」(Medium-altitude long-endurance unmanned aerial vehicle)に分類されます。
バイラクタルTB2はMALEの代表格であるアメリカのMQ-9B「リーパー」に比べるとサイズが一回り小さく、ミサイルや爆弾などの最大搭載量もMQ-9Bの1700kgに対して150kgと大きくはありません。ただ、機体が小型であることに加えて、F-16戦闘機などと同様に、主翼と胴体を一体化した「ブレンデッド・ボディ」を採用したユニークな機体形状により、MQ-9Bなどに比べてレーダーや目視による発見がされにくくなっているとも言われています。
バイラクタルTB2は2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でアゼルバイジャン軍によって使用され、アルメニア軍の兵器を多数破壊したことで一躍有名になりました。
ただ、戦闘機戦力、防空システムともに貧弱なアルメニア軍とは異なり、ロシアは豊富な戦闘機戦力と防空システムを保有していることから、ロシアとの戦いでバイラクタルTB2を使用するウクライナは苦戦を強いられると予想されていました。
自由に飛び回るコウモリ? バイラクタルTB2
しかしその予想は覆され、バイラクタルTB2は開戦から現在までに多数のロシア軍兵器を破壊しており、その被害兵器の総額は、6億アメリカドルに及ぶとも言われています。
バイラクタルTB2がロシアとの戦いでも有効に機能している最大の理由は、ロシアがウクライナ軍の防空システムの破壊を思い通りに進められず、制空権を確保できていないことから、ロシア航空宇宙軍の戦闘機の活動が不活発なことにあると筆者は思います。
「鳥なき里の蝙蝠(コウモリ)」(※)という言葉がありますが、本来であれば空を支配しているはずの「鳥」、すなわちロシア航空宇宙軍の戦闘機が空を支配できていないため、「蝙蝠」、すなわちバイラクタルTB2は自由に空を飛びまわれているというわけです。
バイラクタルTB2は最大射程8000mの対戦車ミサイル「UMTAS」、最大射程8000〜3万m以上の滑空爆弾「MAM」シリーズといった、長射程の精密誘導兵器の運用能力を備えており、ロシア軍の短射程空対空ミサイルや対空機関砲の射程圏外から攻撃を行えることも、バイラクタルTB2が戦いを有利に進められている理由の一つと考えられます。
バイラクタルTB2の主要兵装の一つ、最大射程8000mの「MAM-L」(竹内 修撮影)。
ウクライナ軍は2019年からバイラクタルTB2 の導入を開始していますが、ナゴルノ・カラバフ紛争で大きな働きを見せた同機に対するウクライナ国民の期待は高かったようです。2021年秋ごろまでには、男性ボーカルが「バ〜イ〜ラ〜クタ〜ル♪」と連呼する1970年代ロボットアニメの主題歌を髣髴とさせる非公式テーマソングが作られ、Youtubeなどの動画サイトやSNSで拡散されていました。
さらにロシアとの戦いが始まった2022年2月末から3月初頭ごろには、非公式テーマソングとは別の、バイラクタルTB2を主題とする愛国歌もつくられ動画サイトやSNSで拡散されています。
国民が大熱唱!
愛国歌の3番の歌詞は「東から来た羊(ロシア軍)は優れたシェパード(バイラクタルTB2 )によって狩られる」というものですが、この歌詞からもウクライナのロシアに対する強い抵抗の意思と、バイラクタルTB2への大きな期待が感じられます。
この愛国歌もサビの部分に「バイラクタル」というブランド名が出てきますが、YoutubeやSNSには、広場に集まったウクライナ国民がこの愛国歌を流し、サビの「バイラクタル」を合唱する動画もアップされています。『加藤「隼」戦闘隊』や『「赤城」の奮戦』など、兵器の愛称や名称が出てくる軍歌は存在しましたが、ブランド名が織り込まれた軍歌や愛国歌は、筆者の知る限りにおいて過去に例はありません。
今回の戦争でバイラクタルTB2は、条件次第では大国を相手とする戦いでも攻撃能力を持つMALEが有用であることを実証しました。それだけでも兵器の歴史に名が刻まれる存在となったと言えますが、おそらく、世界で初めて歌詞にブランド名が使われる兵器となったという意味においても、やはり歴史に名を残したと言える……かもしれません。
※「鳥なき里の蝙蝠」=鳥がいないところでは、ただ飛べるというだけでコウモリが偉そうにする、あるいは偉そうに見えることから、ある分野に関して、本当に優れた人がいないところでは、ちょっとその分野に知識等があるだけで、その道の権威然とすることのたとえ(ウィクショナリー日本語版より)。