SDGsな家づくりの考え方として、二酸化炭素を排出しない「ゼロエネルギーハウス」があります。一体、どんなもの?  SDGsに詳しい時事YouTuberのたかまつななさんが、建築とエネルギーの専門家である三浦秀一さんを直撃。「環境にいい=不便」というイメージがありますが、じつは住み心地についての心配は無用のようです。太陽光パネルの気になるコストについても、聞いてみました。

 

寒い冬も楽しみになる、ゼロエネルギーハウス

今日のポイント

1.ゼロエネルギー住宅は「快適さ」が命
2.費用対効果は「10年単位」で考える
3.「わからない」からといって諦めない

 

たかまつ:三浦さんが住んでいる「ゼロエネルギーハウス」とは、どのような住宅なのですか?

三浦:ポイントは「省エネ」と「再生可能エネルギー」です。わが家は高断熱住宅にしたことで、一般的な省エネ基準程度の家に住んでいた頃と比べ、暖房のエネルギー使用量が 3分の1になりました。そのうえで、太陽光発電、薪ストーブ、太陽熱温水器といった再生可能エネルギーを利用することで、「ゼロエネルギー」を実現しています。

たかまつ:実際の住み心地はどうですか?

三浦:家族はとにかく冬の暖かさに喜んでくれています。高断熱の住まいでは、薪ストーブのように輻射による暖房だと風が発生しないので乾燥しないし、暖房している感じもないのに家全体がポカポカと暖かい。お客さんが来たときも、玄関ドアを開けた瞬間に「温度が全然違う」と驚かれますね。

たかまつ:それはうらやましい。私は実家がそこそこ大きな家だったのですが、部屋によって気温の差が大きく、冬は廊下に出るのがストレスでした。

三浦:「日本の家あるある」ですね。暖房を入れている部屋は暖かいけれど、玄関や廊下がとにかく寒くて、トイレやお風呂に行きづらい。

たかまつ:そうなんですよ。私もそろそろ自分の家庭を持ちたいと思う年頃になってきたのですが、家を買うなら三浦さんのお宅のように、ストレスフリーな家がいいですね。家族みんなが円満に暮らせそうです。

環境性能はもちろん「住みやすさ」に注目を

たかまつ:ゼロエネルギーハウスに対する世の中の関心は、どのくらい高まっているのでしょうか?

三浦:SDGsも含めて、環境のことが気になっている人が増えるなかで、注目度は高まっていると感じます。ただ、「どんな建材を使えばエコなんですか?」といったことを気にする方が多く、そこは少し誤解があるのかなと思いますね。省エネを実現するには、シンプルに断熱材の厚みを増せばいいので、建材にこだわる必要はありません。また、「古民家に住むような、昔ながらの暮らしに戻るのがエコですよね」という話になることも多いですが、「環境にいい=不便さに耐える」というイメージが根強く、ゼロエネルギーハウスの「快適さ」が、あまり理解されていないように思います。

たかまつ:たしかに、暖かくて快適だということと、環境にやさしいということを結びつける発想は、あまりないかもしれません。

三浦:こういう感覚は、なかなか言葉では伝わらないんです。なので、ゼロエネルギーハウスが浸透するには、実際にそのよさを体験することはもちろん、国のあと押しも必要になってきます。従来、日本の住宅政策は地震対策が中心で、それ以外の領域にはあまり力を入れてきませんでした。とはいえ、人は地震だけで亡くなるわけではなく、ヒートショックといって家の中の温度差で亡くなる方もたくさんいます。こうした問題がクローズアップされるようになって、ようやく断熱性や省エネの分野でも、法整備の議論が進むようになりました。

たかまつ:まさにこれから、といったところなんですね。

三浦:普及という意味では、新築だけだと一部の人にしか行き渡らないので、リフォームがカギになってくるでしょう。耐震リフォームですら実施率はまだまだ低いのが現状ですが、それなら耐震リフォームと断熱リフォームを一気にやってしまえば、費用的にも効率がいい。壁の中の構造を強化するときに、断熱材も一緒に入れればすむ話ですから。今後はそうした工事を国が積極的にサポートしていくべきだと考えています。

 

太陽光パネルは、10年でもとが取れる

たかまつ :コスト面はどのように考えればいいでしょう? これまでになかったオプションをつけるという意味では、どうしても「ぜいたく」というイメージはついて回りますよね。

三浦:ゼロエネルギーハウスを「断熱性能を高める」「太陽光発電パネルをつける」というシンプルな形に分けると、太陽光発電のコストについては10年ほどでもとが取れる(設備代を電気代で相殺できる)計算です。「10年は長い」と感じるかもしれませんが、「利回り10%」と考えると、今どきそんな高利回りの商品はなかなかないですよね。それでも高いと感じるのであれば、リースで設置するという手もあります。断熱材については、どこまで手厚く施すかは人それぞれですが、プラス100万〜200万円くらいで考えるといいでしょう。さすがに10年でもとが取れるとはいいにくいですが、今後数十年にわたって快適で健康的な環境が約束されるのであれば、光熱費だけでは換算できないメリットがあるといえるのではないでしょうか。

現状では消費者にリテラシーが求められる

たかまつ:環境保護の話に移ると、エネルギーの問題についてはなにが本当に環境によくて、なにが悪いのかが判断しづらいというのが正直な感想です。たとえば太陽光パネルについても、製造時に排出される二酸化炭素の問題が指摘されていたりしますよね。

三浦:パネル製造時のCO2排出量については、太陽光発電によって 1〜2年で相殺できるので、ほとんど問題はないでしょう。とはいえ、投資目的でメガソーラーを建設するために、あちこちの山が削られるなど、かえって自然破壊になってしまっているケースがあるのも事実です。手放しで「自然エネルギーがいい」とはいえない現実にも目を向けるべきではあるでしょう。ただ、太陽光パネルに限った話ではありませんが、普及して間もない製品にはさまざまな問題が浮上するもの。最初から完璧を求めるとなにも進まないので、普及の過程で修正を重ねていくことが大切なのかなと思います。

たかまつ:なるほど。それにしても、消費者が勉強しなくてはならないことが多すぎて、ついていけないと感じる人は多そうです。環境にいい家を買いたいと思ったときに判断基準になるような情報が、もっと簡単に手に入ればいいのですが。

三浦:それは本当にそう思います。日本ではどうしても、企業側が丁寧な説明を行うというより、消費者のほうにリテラシーを求めてしまうところがありますよね。とはいえ、それで消費者が「判断できないのは自分が勉強していないからだ」と諦めてしまってはもったいない。企業に対してわかりやすい情報提供を求める声を、もっと積極的に上げてほしいと思います。

たかまつ:今の時代、消費者の声はかつてないほど力を持っていますから、そこから少しずついろいろなことが変わっていくかもしれませんね。

三浦:たとえば、賃貸の物件情報には、「築〇年」や「南向き」といった情報に加えて、「環境性能」や「省エネ性能」がどうなのかといった項目も入ってくるべきだと思っているんです。実際、EUでは不動産取引にも環境ラベルのようなものの表示が義務づけられています。日本の不動産会社も、ぜひこれにならってほしいですね。

たかまつ:個人的には、結婚式でいうところのウェディングプランナーのように、第三者として中立的なアドバイスをしてくれる人がいてくれるとうれしいですね。

三浦:それは今、いちばん必要なことだと思います。これからはそういう仕事が増えてくるのかもしれませんね。

※情報は「住まいの設計2021年12月号」取材時のものです