円盤投げを通じて理想のフォームを模索する中川楓 [写真=北野正樹]

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◆ 猛牛ストーリー 【第1回:中川颯】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す2022年のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第1回は、槍投げ用の器具を使って調整するエース・山本由伸とともに自主トレを行い、アンダースローに合った体の回転を習得するため、円盤投げを練習に取り入れた2年目の中川颯投手(23)です。

◆ 無駄な動きのない、正しい体の使い方を

 「無駄な動きをなくし、アンダーハンドで150キロを出したい」と意気込む中川颯(2020年ドラフト4位/立教大)。チームメートで日本のエース・山本由伸が実践する槍投げ練習用の器具(ジャベリング)などを使って調整する練習方法を取り入れ、円盤投げでフォーム改造に取り組んでいる。

 中嶋聡監督になってから全体練習後に設けられた、午後の自主練習。サブグラウンドの奥には、連日黙々と円盤を投げる中川の姿があった。

 “弟子入り”は、偶然だった。

 昨季、ウエスタン・リーグでは先発・中継ぎとして41試合に登板し、2勝2敗で防御率1.12。ストレートの最速は135キロ前後だが、スライダーなどの変化球で打たせて取るだけでなく、40イニングで48奪三振と安定した投球を披露した。

 しかし、優勝争いを繰り広げているチーム事情もあって、一軍での登板機会は1試合のみ。球速はシーズン後半には138キロまで上がったが、一軍に定着するには「今の投げ方では球速も球威も限界だった」という。

 そんな時、知人から「下手投げの練習には、腰を使って体を回転させる円盤投げが合っているのでは」とアドバイスを受け、紹介されたのが、山本も指導を受けている先生だった。

 体の動きを正しく学び、負担のかからない、無理なく無駄のない基本的な練習。器具が注目されがちだが、これはあくまで無駄な体の動きをなくし、正しい体の使い方を固め、日々確認するためのツールだ。器具を使うのが目的ではなく、目的のために器具を使う。探し求めていた練習方法だった。

◆ 球団のレジェンドから得た新たな気付き

 昨年オフから本格的に取り組み、自主トレも山本に誘われて一緒に汗を流した。

 エースの助言もあり、短期間でジャベリングを習得。今は円盤投げとゴム製の丸い器具を使って、腰を使った横回転の体の動きを確認している。

 キャンプでは、初日と3日目にブルペン入り。38球、71球と投げ込んだが、周囲をうならすほどの変化は見られない。

 しかし、中川は「まだまだ、完成には程遠いが、感覚はこれまでと180度変わっている」と、新しい練習方法の手応えを感じ取っている。

 大きな違いは、右腕の使い方だという。腕の振りが大きくなり、これまでより軌道も変わった。入来祐作コーチからも、「今までショートカットしていたが、使うべきところが使えている」と、うれしい指摘があったという。

 新たな気付きもあった。

 入寮直後の2021年1月10日に放送された、NHKのBS1スペシャル「レジェンドの目撃者〜サブマリン山田久志〜」。アンダースローとしてNPB最多の284勝を挙げた、球団OBで球界のレジェンドの特集だ。

 「山田さんがおっしゃっていた『下手投げだが、オーバーハンドを横に傾けているアンダースロー』という意味が、初めは理解ができなかった。今は、アンダースローだけどオーバースローのつもりで投げることが大事なことだと分かってきた」という。

 目標は、アンダースローでの最速150キロ。NPBでは、ソフトバンク・高橋礼が2018年の日本シリーズ・広島戦で146キロをマーク。MLBでは93マイル(約150キロ)が最速と言われており、下手投げでの世界最速を目指す。

◆ 「シーズンが終わったころには違ってくると信じている」

 山本は、中川について「ハヤテは練習をすごくやり込む性格。一緒に自主トレをさせてもらったが、やりだしたら止まらず、すごくいい刺激をもらった。そんなところは尊敬できる」という。

 また、今回の取り組みについては「今やっている練習はすごく時間がかかるし、すぐに結果が出るものではない。答えが明確に見えないままにやる練習なのだが、そこはハヤテの性格には合っているのでは」。

 さらに「やっている人が少ないので、否定する意見も多い。でもそれに負けず、ブレずに強い気持ちでやり続けることが大切。ブレていろんなトレーニングに走る人で良い選手はいないと思う。途中で、もしかして違うかもしれないけれど、やり込むことが非常に大事」とも。

 自身もケガなくシーズンを送るために取り入れた練習で導き出したフォームについて、「あの投げ方では…」と指摘されたこともある。それでも、大きな目標があるからブレずに信念を貫き、今がある。

 すぐに結果が出ないのは、中川も理解している。

 「この練習を続けることで、今シーズンが終わったころには違ってくると信じている」と先を見据える。

 地道なトレーニングを続け、「オリックスのエース」から「日本のエース」へと高みを目指し続ける先駆者を、中川も愚直に追い続ける。

取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

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