市川海老蔵のリフレッシュスタイルから学ぶ 現代人が取り入れるべきストレスフリーな生活習慣
何かと多忙な現代人。長引く自粛生活の中で、ワークスタイルにも変化が生まれ、生活習慣が乱れてしまったという方も多いのではないでしょうか。そんな時代だからこそ、自分のライフスタイルを崩さずに生活している人をみると、「デキそうだな」と思ってしまいます。そこで今回は、気になるあの人の生活習慣を紐解いてみることにしました。歌舞伎役者の市川海老蔵さん。仕事にプライベートに充実した姿を見せる海老蔵さんのライフスタイルの極意を是非参考にしてみてください。
インタビュアー:
市川海老蔵(歌舞伎俳優)
監修医師:
久住 英二(医師)
監修トレーナー:
井上 暁仁(トレーナー)
久住先生
お仕事柄、不規則になることも多いと思いますが、どんな生活をおくっていますか?
海老蔵さん
実は不規則じゃないんですよ。舞台中は、時間割に1分のズレもないので、生活リズムは安定しているんです。
久住先生
どんなタイミングで食事を摂っていますか?
海老蔵さん
1日1食で、あとは役柄によって変えています。午前中からパフォーマンスを上げていく必要があるときは、朝からお肉を食べ、その後は比較的自然のものだけで構成されたプロテインを飲んでいます。一方で、それほどカロリー消費を伴わない役柄のときは、朝食は摂らずに、昼の部が終わる15時ごろに食事を摂っています。
久住先生
なぜ1食にしたのでしょうか?
海老蔵さん
胃腸を長く休ませた方が、体が楽だということに気づいたんです。以前は3食しっかり摂っていましたが、体が重かったり、頭が冴えなかったりして、クリーンなイメージが持てませんでした。そこで1食にしてみたところ、思った以上に調子がよく、私にはそれが合うのかなと思いました。
井上トレーナー
次に海老蔵さんの運動習慣を教えてください。普段はどんな運動をしていますか?
海老蔵さん
舞台中はケアが中心ですが、舞台がないときは体幹を中心にトレーニングしています。重い衣装を着ることも多いので、体幹で支えられないとズレが出てくるんですよ。
井上トレーナー
そんなに重い衣装を……。ではケアをする際には、どんなことを意識していますか?
海老蔵さん
舞台では、知らないうちにアザや切り傷ができていることがあります。すると、そこから筋膜の癒着が起こり、別のところにひずみが生まれます。ですので、痛みが出たところよりも、痛みを引き起こしている根本的な部分にアプローチするケアを心がけています。
井上トレーナー
素晴らしいですね。ケアやトレーニングを継続するために、心がけていることはありますか?
海老蔵さん
「継続する」という発想自体をやめています。ご飯を食べたら必ず歯を磨くのと同じ感覚ですね。
久住先生
素晴らしいですね。では次に睡眠習慣について教えてください。普段は何時頃に就寝、起床していますか?
海老蔵さん
舞台中は23時ごろに寝て、6時ごろに起きてます。
久住先生
食事と同じようにご自身の感覚で決めたものですか? それとも周囲のアドバイスがあったのですか?
海老蔵さん
睡眠データを海外の方に解析してもらっています。わたしの場合、本来は8時間寝ないといけないようなんですが、あえてストレスをかけるなどして、7時間にしています。
久住先生
良い睡眠をとるために、取り組んでいることはありますか?
海老蔵さん
特にありません。日常から生活習慣がうまく回っていると良い睡眠がとれる気がします。
久住先生
毎日規則正しく過ごしていると、睡眠も取りやすいのかもしれませんね。睡眠において感じている課題はありますか?
海老蔵さん
ないです。ただ、体の向きには興味があります。わたしは右向きに寝るのが一番ストレスを感じないんですけど、これはなぜなのでしょうか?
久住先生
なぜ人によって好みが変わるのかはわかっていません。現段階では「個人差」としか言えませんが、ストレスを感じないということが大切だと思います。
海老蔵さんは、サウナがお好きだと伺いましたが、どのくらいの頻度で通っていますか?
海老蔵さん
時間があれば行きます。今朝も行ってきました。切り替えって大事ですよね。ランニング、サイクリング、スイミング、それに加えてサウナがわたしのリフレッシュスタイルです。
久住先生
サウナの入り方にこだわりはありますか?
海老蔵さん
ストレスの度合いによって変えています。ストレスがないときは、友達とくだらない話をするだけですが、ストレスがあるときは限界まで耐えて、シャワーを浴びたら2分くらい冷水に入り、体をふき取った後に、外気、もしくは静かな空間で瞑想して、いま流行りの「整える」という形を取ります。脳内に残留物がなくなるまで3回ほど繰り返しますね。
久住先生
標準的には何分くらい入っていますか?
海老蔵さん
温度によりますね。90~100℃の場合は10~12分、調子がいいときは約16分ほど入ることもあります。逆に調子が悪いときは6分くらいで切り上げてしまいます。その日によって耐久時間に差が出るのはなぜなんでしょうか?
久住先生
熱さに順応する自律神経の働きが弱っているのかもしれませんね。普段、どんな時にストレスを感じますか?
海老蔵さん
あまり感じない方だとは思いますが、事実と異なることを報道されたり、自分が望まない方向に周りが動いてしまったりすると、ストレスを感じることもあります。
久住先生
そんな時もやはり、先ほどのようにサウナなどでリフレッシュを?
海老蔵さん
根っこからストレスを取り除くために、酵素風呂に入ることもあります。あとは、自宅でひとりで無我夢中になって歌舞伎をやっているときですね。それを俗に稽古と呼ぶのかもしれませんが、わたしにとっては、子どものときから慣れ親しんでいることだから、稽古という感覚ではないんですよね。
久住先生
何かに集中して無の境地になることは大切ですね。
海老蔵さん
忙しい人でも手軽に栄養摂取ができる食品・食材を教えてください。
久住先生
オススメは、鯖缶、ヨーグルト、フリーズドライの味噌汁の3つです。鯖缶は、DHAやEPA、良質の油、タンパク質が多いということ、ヨーグルトは腸内細菌を良い状態に保つ役割があるということ、そしてフリーズドライの味噌汁は、食物繊維を摂れるということ。どれも手軽に不足しがちな栄養を摂取できるのが良い点です。
海老蔵さん
イワシやサンマの缶詰もありますが、鯖が一番いいんですか?
久住先生
鯖は水揚げ量が多いため、価格帯も手頃なのでオススメしています。
海老蔵さん
なるほど。あとヨーグルトとおっしゃいましたが、「乳製品」ではなく、ヨーグルトが良いのはなぜですか?
久住先生
例えば、牛乳に含まれている乳糖が、大人になると消化できなくなってしまうため、下痢を起こしてしまうことがあります。ヨーグルトは、乳糖が細菌によって消化されており、お腹を下すことなく乳タンパク質を摂れるというメリットがあります。私たちは細菌の世界の中で生きていますが、腸内細菌叢の乱れが様々な病気の原因になるため、体に良いとされる菌を摂ることが大切になります。
海老蔵さん
ラーメンやコンビニのお弁当をよく食べているような現代人にオススメの食べ物はありますか?
久住先生
そのような方は、脂質と炭水化物が中心の食事になってしまい、ミネラル、ビタミン、食物繊維などが不足しがちです。それらを補うために、コンビニのお弁当にフリーズドライの味噌汁を加えたり、ラーメンにたまごを入れたり、サラダチキンを加えたりすると良いと思います。
海老蔵さん
間食に、オススメの食材はありますか?
久住先生
ナッツ、果物、チーズをおすすめしています。ナッツは、同じカロリー量でも、食物繊維が多く含まれているので吸収が遅く、腹持ちが良い食材で、ミネラルも多く含まれてます。果物は糖質を取りすぎないように、柑橘類やキウイをおすすめしたいです。チーズは「さけるチーズ」が手軽に摂れるので良いと思います。
海老蔵さん
次に、睡眠について教えてください。人間に必要な睡眠はおよそ何時間程度でしょうか?また自分に適した睡眠時間の見つけ方はありますか?
久住先生
30~40代の方に必要とされる睡眠時間は、7~8時間と考えられています。ただ、人によって個人差があるので、目覚まし時計をかけずに起きてみてください。それが最適な睡眠時間の目安です。
海老蔵さん
目覚まし時計を使って起きるのは体に悪そうですよね。
久住先生
睡眠が深いときに起こされると一日中眠気が残ってしまうことがあります。最近は、睡眠が浅いときに起こしてくれるスマホのアプリもあるようですが、自然と目が覚めるのが理想的ですね。
海老蔵さん
ショートスリーパーの方は、健康に悪影響を及ぼさないのでしょうか?
久住先生
ショートスリーパーとは、一般的に、睡眠時間が4時間以内で足りてしまう人のことを言います。しかし睡眠時間が短くなればなるほど、脳卒中、心筋梗塞、脳梗塞、心不全など、心臓や血管にダメージを受けて患う病気が増えるというデータがあります。一方、9時間以上寝ないと体調が整わないという人もそのような病気のリスクが高くなることもわかっていて、その死亡率が一番低いところが7時間程度だと言われています。
海老蔵さん
確かに、以前「やりすぎたな」と感じた時、心臓の音が聞こえてくるように感じたことがありました。それは心臓や血管に負担がかかっていたのかもしれませんね。
久住先生
ご自身の体の声に向き合うことが大切ですね。
海老蔵さん
睡眠の質が上がる方法があれば教えてください。
久住先生
睡眠環境を整備することが大切です。例えば、夕方以降はカフェインを摂らない、睡眠中の消化活動を抑えるため夜の食事は摂らない、部屋は朝の日差しを浴びられるように少しだけカーテンを開けて寝るなど、少しの工夫で睡眠の質は変わってきます。
海老蔵さん
暗い方が良いわけではないんですね?
久住先生
人の体は、明るくなると、朝を迎える準備を始めるようにできています。目覚めたときに体の活動が始まるわけではなく、活動の中に「目覚める」というプロセスがあるだけです。だから、レースのカーテンなどを使い、外が明るくなってきたら自然に起きられるような環境にした方が睡眠の質が向上するんです。
海老蔵さん
なるほど。睡眠において「明るい」というのはネガティブなものだと思っていました。私は、舞台中には回復を重視するため、スキマ時間を睡眠に使うことが多いのですが、一般の会社員の方の場合は、オフィスなどでスキマ時間を使って簡単にストレス解消できる方法はありますか?
久住先生
おすすめはストレッチです。特に肩周りを中心に行うのが良いです。あと、もう1つおすすめしたいのが腕立て伏せです。筋肉をほぐすことが目的なので、机や壁を使っても良いと思います。
海老蔵さん
立ち仕事の多い人、デスクワークの多い人など、職業のタイプ別に、疲れがたまりやすいポイントを教えてください。
井上トレーナー
立ち仕事が多い方は、足腰に疲れがたまりやすいですし、デスクワークが多い方は腰から背中に疲れがたまりやすいと思います。人の体は、長い時間止まるようにはできていません。だから止めるために使っている筋肉には疲れがたまりやすいんです。
海老蔵さん
よくわかります。歌舞伎では、停止する動きが多いんですが、動いているときのポジティブな疲れとは異なり、停止しているときはネガティブな疲れなんですよね。これはどのように改善すれば良いのでしょう?
井上トレーナー
適度に動くことです。常に動いていると「落ち着きがない」と見られてしまいますが、「止まっていることは毒である」ことをもっと多くの人が知るべきです。
海老蔵さん
日本人は朝に走る人は少ないですが、海外に行くとみんな朝から走るじゃないですか。あれは文化の違いなんでしょうか。走ることは、アンチエイジング、凝り固まった体をほぐす、ポジティブな感情になるといった効果があると思います。
井上トレーナー
おっしゃる通りですね。スポーツの世界では「アクティブレスト」という、血液を循環させながら回復を図る手法があります。これは科学的には証明されていないんですが、オリンピック選手も取り入れています。実際、ハードに運動した次の日に寝すぎてしまうと、その次の日に体がだるくなります。だから、軽く体を動かした方が、その次の日の体が楽だという実体験の感覚が大切にされているんです。
海老蔵さん
適度に動くことは回復に効果があるんですね。ちなみに運動習慣がない人でもできるオススメのセルフストレッチはありますか?
井上トレーナー
肩甲骨を寄せて背骨を動かしたり、お尻を伸ばしたりすることですね。体の動きを〝止める為に使っている″背中やお尻にストレッチを入れるのが大事だと思います。
編集部より
「まるでアスリートのように、ストイックでハードなトレーニングをしていのではないか」。そう思っていた海老蔵さんの私生活は、思った以上に自然体で、思った以上に自分の心や体の声に従っていることを知りました。「継続するという発想をやめてる」と話す海老蔵さんの泰然とした姿から、「ありのままに生きる」という意思のようなものを感じました。自分に合った生活習慣について、もう一度考え直してみたいと思いました。
書き手:瀬川泰祐(せがわたいすけ)
ローソンチケット、ヤフーなどを経て、株式会社カタルを創業。ファルカオFC久喜代表。Yahoo!ニュース個人オーサー。ライブエンターテイメント業界やWEB業界で数多くのシステムプロジェクトに参画し、サービスをローンチする傍ら、2016年よりスポーツ分野を中心に執筆活動を開始。リアルなビジネス経験と、執筆・編集経験をあわせ持つ強みを活かし、スポーツライターとして活動。取材テーマは「Beyond Sports」。スポーツを活用した社会課題解決を目指し、子どもの居場所となるスポーツ施設「FALCAO SPORTS BASE」(埼玉県久喜市)を運営中。公式サイトhttps://segawa.kataru.jp