ショートプログラム『グラディエーター』を披露した坂本花織

 日本代表エキシビションの「ドリーム・オン・アイス2021」がKOSE新横浜スケートセンターで行なわれ、日本のトップスケーターたちが北京五輪シーズンに向けて作ってきた競技用のプログラムを披露した。

 代表作となったフリー『マトリックス』を2シーズン継続して演技した坂本花織は、シニア5年目となる今季、ショートプログラム(SP)、フリーともに新らしいプログラムを作るという。この日のアイスショーでは、新SP『グラディエーター』を初披露した。

 シニア1年目からタッグを組む気鋭の振付師ブノワ・リショー氏が振り付けた新しいプログラムは、スピード感ある伸びやかなスケーティングが持ち味の坂本にぴったり。独創的な振り付けと世界観を十二分に発揮しており、坂本の演技にぐいぐいと引き込まれた。見終わった後は、爽快感が広がるような感じがした。

「『グラディエーター』の曲は、ブノワ先生が決めてくださいました。『花織のためにいいSPの曲を見つけた』ということでこの曲が送られてきました。いつもながら難しそうだなと思ったのが第一印象でした」

 新SPも『マトリックス』同様、男性が主人公の映画音楽。力強さとダイナミックさを坂本のキレのあるスケートと融合させて、魅力あふれるプログラムに仕上がっていた。

 コロナ禍でイレギュラーだった昨季は、ローカル大会のようになったNHK杯で優勝、全日本選手権は2位、世界選手権は6位だった。坂本自身は「いい感じのシーズンだった」と振り返り、今季も「引きつづき、いい感じにできるように精一杯頑張ります」と抱負を語る。

 平昌五輪は6位だったが、自身のポジションをさらにアップさせ、トップ争いに加わるためには、女子でも必須の武器となる高難度のジャンプを習得することが課題となる。それは本人も重々承知している。昨季はシーズン途中で断念した大技ジャンプについて、その進捗状況をこう話した。

「一応、いまトリプルアクセルと4回転ループをやっています。最近1週間くらいは不調が続いていて、あまり練習できていないんですけど、国別対抗戦とスターズ・オン・アイスが終わってからは、ちゃんと(大技の)ジャンプ練習はしていました。


新しいフリー『タイタニック』を踊った紀平梨花

 4回転ループは、タイミングとか上がり具合がよければ、結構いいところまで回れるんですけど、まだ跳べてはいません。トリプルアクセルはまだ回転は足りてはいないんですけど、いままでは回ることを重視していて、いまは跳び上がるほうに考え方をチェンジしたら、立てるようになったので、前よりかはちょっと進歩したかなという感じです」

 五輪シーズンを迎えた坂本の目標は、2大会連続となる北京五輪出場。そこに向けての気持ちは、前回の平昌五輪とはまったく次元が違うという。

「平昌はシニア1年目だったので、シニアの大会に慣れることがスタートで、とにかく一番下っ端だったので、上にいる人たちを追いかけようという意識でいっての結果でした。今年はシニア5年目だし、成長しているなというのを見せられるようにしないといけないなと思っています。

 昨季よりも今季は試合があるので、試合を重ねて、全日本選手権でしっかり選んでもらえるようにして、五輪代表になったら平昌以上にいい演技をしたいです」

 新SPで予想以上にすばらしいプログラムを作ってきたことからも、これから振り付けるというフリーの出来栄えにも期待がかかる。

「フリーは最近、曲が決まって、まだ振り付けていません。『ドリーム・オン・アイス』が終わった次の日から振り付けをする予定です」

 一方、昨季に坂本と全日本女王争いを演じた紀平梨花は、武器のトリプルアクセルに加え、4回転サルコウの大技ジャンプも成功させ、2連覇を達成した。今季、初の五輪出場を目指して戦う18歳は、正念場のシーズンに向けて、こう意気込みを語っていた。

「一番大事なシーズンになるので、健康第一で、ケガをしている腰を治して、オリンピックシーズンをプレッシャーに感じないで楽しめるようにしていきたい。(代表選考会の)全日本選手権が一番大事な試合だと思うので、そこにしっかりと(照準を)合わせて、オリンピックに出場できるように頑張りたいなと思います」

 注目の新しいフリープログラムは『タイタニック』(デビッド・ウィルソン振付)となった。この日の公演では、緊張した面持ちで硬さが見られたが、映画『タイタニック』の女性主人公がスクリーンから飛び出してきたような白と黒のコスチュームを纏い、荘厳な音楽に合わせて華麗に踊ってみせた。

◆羽生結弦「何かを感じてもらえるのではないか」。シーズン初演技から全開、4回転アクセルへの決意も語った

 今回の選曲は「使いたい曲だな」と思って決めたそうで、「コレオステップシークエンスからステップシークエンスが続いていて最後に盛り上がりがあるので、『タイタニック』の物語を、体を大きく使って表現したいです」と振り付けのコンセプトを説明する。

 可憐で美しい滑りができる紀平のスケーターとしての魅力を最大限アピールできるプログラムになっているので、滑り込んでいけば代表作になりそうな予感だ。

 また、SPは昨季注目が集まった片手側転の振り付けが入っている『ザ・ファイア・ウィズイン』(ブノワ・リショー振付)を継続して使うことになったという。

 気がかりなのは、まだ腰痛が完治していないこと。昨季は後半戦に腰痛を起こすと、世界選手権後に悪化させ、国別対抗戦では痛みを抱えながらの演技となり、得意のジャンプが不発だった。

「まだ治っていないんですけど、国別対抗戦ですごく痛めたので、そこから1回休んでみたり、軽めの練習をしたりして、少しずつ良くなってきていました。6月中はできるだけ痛い動きはしないようにして、この2カ月くらいはジャンプ練習もしていない状態で、普通に練習すると痛みがまだ出てしまうので、ゆっくり治していきたいと思っています」

 このような状況で、新しいジャンプには挑戦できていないという。まずは腰痛を完治させてから、本格的なジャンプ練習に取り組むことになりそうだ。

「4回転を1本にするか、トリプルアクセルを2本入れるか、どちらかにしようかと考えています。オリンピックシーズンは安定感のある自信を持った演技構成でいこうと思っています」

 今季も大技のジャンプを武器に戦うことは間違いない。