4月18日、降格圏で残留を争うヘタフェは、本拠地にレアル・マドリードを迎え、0−0で引き分けている。主力の大半がケガや体調不良、コロナ濃厚接触で欠場した「レアル・マドリードB」を相手に勝ち切ることができなかった。守護神ティボー・クルトワの牙城を崩すには、攻撃力が不十分だったと言える。

 そして大事な一戦、日本代表の久保建英は、最後まで出場機会が与えられなかった。

「レアル・マドリードの選手としてプレーする」

 久保はそんな夢を現実的に描くだろうが、今シーズンは近づくことができたのか?


ヘタフェは今季残り7試合。久保建英はチームを1部残留させることができるか

 久保はここまで、すさまじい勢いで成長してきた。2019年シーズン、JリーグのFC東京で、一気に序列を覆して17歳にして開幕先発の座を奪った。試合を重ねるごとにメキメキと腕を上げ、瞬く間にエースとなって、半年足らずで日本代表に選ばれた。そして同年6月末、18歳でレアル・マドリード移籍を発表。2019−20シーズンはマジョルカに貸し出され、35試合出場4得点と、スペイン1年目で勇躍した。

 こんな日本人選手は過去に例がない。久保は前に突き進むことで、道を切り開いてきた。挑戦心が旺盛なのだろう。そして、目標を達成するだけの技術と気概もある。

 しかし、2020−21シーズンは、立ち止まることになった。

 マジョルカでの活躍で、スペイン国内でも強豪の部類に入るビジャレアルに入団。ヨーロッパリーグ(EL)では先発で出場していたが、リーガ・エスパニョーラでは交代出場が定位置だった。不遇にしびれを切らし、ヘタフェ移籍を決断した。

 その危うさについては、筆者は当時も指摘したが、シーズン途中での移籍は勧められるものではない。プレシーズンを戦っていないだけに適応が難しく、少し結果が出ないだけで評価が大きく下がるからだ。

 ビジャレアルのウナイ・エメリ監督は「(久保の)守備や強度に不満」と言う人で、久保はサッカー観の違いを感じたのだろう。しかし、ELでは決勝ラウンド進出も決まり、リーガでも戦力のひとりだった。エメリと共通点があるホセ・ボルダラス監督のヘタフェに移籍するよりも、残留することで得られるものは大きかったはずだ。

 事実、久保はヘタフェでも同じ問題を抱えることになった。エルチェ、ウエスカ、カディスといった戦力的に劣る相手には先発を任され、存在感も示したが、格上相手には「守備の不安」という判断で先発を外れるか、実際に出場しても低調な試合になっている。ボルダラス・ヘタフェは長いボールを蹴り込むサッカースタイルで、フィジカル的強さを要求されるだけに、久保にとって然るべきポジションがないのだ。

「タケ(久保)は試合最初こそ苦しんでいたが、その後はとてもいいプレーをしていた」

 レアル・マドリード戦の前節、カディス戦後、ボルダラスは一定の評価をしながらも、後半5分でベンチに下げた理由について、久保への物足りなさを滲ませていた。

「(久保交代の理由は)前線での動きが足りず、戦術的な交代だった。FWのハイメ(・マタ)はいい仕事をしていたが孤立し、パートナーが必要だった。スコアを見ると交代が当たらなかったように見えるが(久保交代後にオウンゴールを献上して黒星に)、悪くはなかったと思う」

 だからレアル・マドリード戦でのベンチも、何ら不思議なことではない。久保は十中八九、ヘタフェを退団することになるだろう。昨シーズンと比べて市場価値は下がり、レアル・マドリードへの道としては一歩後退と言える。

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 ただ、実力が落ちたわけではない。ボールを持った時の技術は出色で、攻め崩す役としては今も引く手はあまただと言える。新しい挑戦の場では、1年間は腰を据え、成熟することが求められるだろう。最後の10代となる来シーズン、じっくりとサッカーに向き合えるか。一心不乱に駆け上がってきた久保だが、ここでは"粘り"も求められているのかもしれない。

 残りのシーズン、久保はまず、全力を尽くすしかないだろう。チームは15位で、降格圏18位のバジャドリードとの勝ち点差はわずか4。2年連続で所属クラブを降格させることになったら、スペインでは思った以上に不名誉なこととなる。

 一方、残留争いに直結するようなパスやシュートで、嘘のように評価は上がるだろう。終わり良ければすべてよし、ではないが、マジョルカでの大久保嘉人の1年目もそうだった。最後の5試合の活躍で得点やアシストを叩き出し、大久保は「救世主」と崇められている。

 久保の現在の仕事は、「ヘタフェ残留の救世主」になることだ。