強豪アルゼンチンとの2連戦を受けて各ポジションの勢力図を整理【写真:Getty Images & 浦正弘 & Noriko NAGANO】

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強豪アルゼンチンとの2連戦を受けて各ポジションの勢力図を整理

 東京五輪世代のU-24日本代表は、U-24アルゼンチン代表との国際親善試合2連戦に臨み、26日の第1戦には0-1で敗れたものの、中2日で行われた29日の第2戦では3-0と快勝を収めた。

 新型コロナウイルスの影響により様々な制限があるなか、MF久保建英(ヘタフェ)やDF板倉滉(フローニンゲン)ら6人の欧州組を招集。東京スタジアムでの第1戦では、南米予選1位となった強豪の球際の強さに圧倒されたが、メンバーを大幅に入れ替えた北九州スタジアムでの第2戦では見事に修正し、互角以上の戦いを繰り広げた。

 この結果を見る限り、どうしても2戦目に先発したメンバーが評価を高めたように映るが、A代表と兼任する森保一監督も、この2連戦で監督を務めた横内昭展コーチも、チームとしての成長を加味するはず。本大会を見据えた格好のシミュレーションとなった2試合の結果を受けて、残り4カ月を切った東京五輪出場を目指す選手たちの状況はどのように変化したのか。アルゼンチン戦に出場した選手の“アピール度”を3段階で評価(◎→○→△)したうえで、これまでの活動における実績や所属クラブでの状況などを加味しながら、ポジションごとの序列を探っていく(複数ポジションで出場した選手は各ポジションでのプレーを評価)。

   ◇   ◇   ◇

【GK】
○ 大迫敬介(広島)
○ 谷 晃生(湘南)
△ 沖 悠哉(鹿島)
― オビ・パウエル・オビンナ(横浜FM)
― 波多野豪(FC東京)ほか

 1戦目に出場した大迫もGKとして致命的なミスがあったわけではない。確かに失点シーンの直前に、FK直後で左SBの旗手が一時的に右サイドをカバーしていた状況でロングキックを蹴り、セカンドを拾われてからの速攻でやられた責任の一端はあるが、そもそも守備の切り替えが遅く、直接的には板倉が突破を許したことで招いた失点だった。

 ただ、それでもフィード面で課題があり、2戦目に出た谷のほうが安定していたことも事実。谷に関しては攻守両面の安定感に加えて、3-0になった後のゲームコントロールでも最後を引き締めたことはプラス材料だ。ただ、チーム全体が良かったことに引っ張られた側面もあり、1試合だけでいきなり大迫を逆転とまではいかないだろう。

 現状ではほぼ横一線で、出番のなかった沖も逆転は可能だ。また、年末の合宿に呼ばれていた波多野はクラブでの規律違反が代表にも響くか。オビもよほど横浜FMの躍進を支えるような活躍がなければ2枠が想定されるGKでの逆転は難しい。

冨安はCBで“オーバーエイジ級”の存在感、瀬古がアピールに成功

【センターバック】
― 冨安健洋(ボローニャ)
△ 板倉 滉(フローニンゲン)
◎ 瀬古歩夢(C大阪)
○ 渡辺 剛(FC東京)
○ 町田浩樹(鹿島)
― 橋岡大樹(シント=トロイデン)
― 田中駿汰(札幌)
― 立田悠悟(清水)
― 伊藤洋輝(磐田)
― 大南拓磨(柏)ほか

 鉄板なのは今回U-24で唯一A代表に招集された冨安だ。韓国戦、モンゴル戦でも安定したプレーで無失点勝利を支えた。森保監督も冨安に関しては連係面に全く不安はないと強調しており、存在感はオーバーエイジ級だ。

 18人枠で純粋なセンターバック(CB)に割かれるのは3バックを想定しても3枚まで、あとは他ポジションとのマルチでカバーする可能性が高い。今回のシリーズで最もアピールに成功したのは瀬古だ。現在20歳で、昨年の成長がCBの中では誰より大きかった。29日の第2戦ではFW林の先制点をアシストしたスーパーパスに加えて、的確なカバーリングで何度もチームを救っており、デュエルでも相手の194センチFWアドルフォ・ガイチに競り負けなかった。

 板倉に関してはボランチとのマルチで計算できるので、18人枠の序列は高いが、本職のCBをもう1枚選べる。1戦目に出た渡辺剛と2戦目で勝利に貢献した町田は、現時点で甲乙付け難い。渡辺剛は失点シーンでガイチをフリーにしてしまったが、そもそも板倉がMFマティアス・バルガスに左サイドをえぐられた影響が大きい。それでも即時の判断で対応はしてほしかったが、チーム全体が低調だったなかでは悪くなかった。

 それでもアルゼンチン戦のアピール度に限れば、町田がやや上回る。町田の場合は左利きというスペシャリティーがあり、3バック左など戦術的な幅を広げる効果は大きい。アルゼンチン戦では立ち上がりこそ守備面で難しい状況を招くシーンが見られたが、後半は安定しており、そこの印象は良かったはずだ。

 橋岡は防疫の事情で招集できなかったと想定されるが、このチームでは4バックのCBでテストされる機会がなかなかなかったので、現在もサイドバック(SB)枠なのか難しいところ。ただ、いずれにしてもマルチなポジションをこなせることは18人枠を考えるうえで大きなアドバンテージであり、彼の主戦場がCBとされるとスペシャリストの渡辺剛あたりも黄色信号になる可能性はある。

 怪我で離脱した田中駿汰は4バックではボランチがメインになるので、CBで起用されるとすれば3バックの場合。SB候補の菅原や古賀も3バックならCBのチョイスに入ることで、枚数を確保することになりそうだ。

田中碧はボランチの軸になりうる存在、マルチな板倉も当確に近い1人

【サイドバック】
○ 古賀太陽(柏)
○ 菅原由勢(AZ)
― 橋岡大樹(シント=トロイデン)
― 中山雄太(ズウォレ)
△ 旗手怜央(川崎)
○ 原 輝綺(清水)
△ 中野伸哉(鳥栖)
― 森下龍矢(名古屋)
― 中村帆高(FC東京)
― 東 俊希(広島)
― 菅 大輝(札幌)
― 岩田智輝(横浜FM)ほか

 現時点で太鼓判を押せる選手は左右ともにいない。右の格付けでは菅原が最も近いかもしれない。第1戦も個人としては決して悪くなかったが、アルゼンチンのプレッシャーのなかで、ボランチや2列目との連係には苦しんでいた。さらに快勝した2戦目のピッチに立たなかったことで、原に差を縮められたかもしれない。ただし、今回は招集できなかった橋岡も有力な存在だ。

 一方で、年末の合宿で追加招集ながら猛アピールした森下は名古屋で左SBの控えになっており、その状況を打破しないと再浮上は難しい。左は絶対的ではないが、3バック左や必要なら右SBもこなせるマルチ性を考えると、古賀の立場は限りなく当確に近いポジションにいる。

 左SBで新境地を開拓中の旗手も2戦目にはセカンドトップで途中出場しており、クラブでよほどパフォーマンスやコンディションを落とさない限り、18人枠には高確率で入ってきそうだ。成長著しい17歳の中野は2戦目の終盤でデビューしたが、残された期間で数段階評価を上げていかないと18枠に残るのは難しい。

 そのほかにも中村、東、菅、岩田と有力な選手たちはいるが、現状では厳しい立場にいると言わざるを得ない。

【ボランチ】
◎ 田中 碧(川崎)
△ 中山雄太(ズウォレ)
◎ 板倉 滉(フローニンゲン)
― 田中駿汰(札幌)
― 齊藤未月(ルビン・カザン)
△ 渡辺皓太(横浜FM)
― 松岡大起(サガン鳥栖)
― 山本悠樹(G大阪)
― 高嶺朋樹(札幌)
― 金子大毅(浦和)
― 安部柊斗(FC東京)ほか

 田中碧は中盤の軸になりうる存在だ。懸案事項だった出場停止もアルゼンチンとの1戦目で消化され、2戦目で好パフォーマンスを見せ3-0の勝利に大きく貢献した。本人はゴールやアシストがなかったことを悔やんだが、正確なパスや気の利いた展開、さらにインターセプトに加えて全身を使いながらコーチングする姿が頼もしかった。

 板倉も久しぶりというボランチで1戦目の面目躍如となった。やはり中盤の守備では無類の強さを発揮する。攻撃では相手の2ボランチの間に立つことで、田中碧に前を向いてボールを持たせるなど連係面の補完関係も良かった。ただ、本職はやはりクラブでもやっているCBであり、1戦目と2戦目でポジションが逆であれば、CBでポジティブなプレーをしていたかもしれない。いずれにしても2ポジションでき、3バックにも適応できるので、マルチな評価も加味して18人枠の当確に最も近い1人だ。

 キャプテン候補の中山も、1戦目の前半こそ守備で腰が引けたところを見せてしまったが、攻撃面のボール捌きは一昨年末のコロンビア戦の頃よりは安定していた。攻め上がりからのミドルシュートという武器もあり、左SBもオプションであることから、18人枠から外れることは考えにくい。ただし、ボランチに遠藤航など本職のオーバーエイジを使用した場合に、序列が下がる可能性はある。

 今回不参加だったなかでは怪我という理由がはっきりしている齊藤や松岡、直前までクラブが活動停止中だった山本などは今後のアピール次第で滑り込みのチャンスは残されている。一方で波多野と同じく、クラブで規律違反があった安部はかなり苦しい状況だ。

熾烈な2列目で軸となった久保、相馬もアピールに成功…堂安、三笘の立ち位置は?

【2列目】
◎ 久保建英(ヘタフェ)
― 堂安 律(ビーレフェルト)
△ 三好康児(アントワープ)
◎ 相馬勇紀(名古屋)
△ 三笘 薫(川崎)
○ 食野亮太郎(リオ・アヴェ)
△ 旗手怜央(川崎)
△ 渡辺皓太(横浜FM)
― 遠藤渓太(ウニオン・ベルリン)
― 金子拓郎(札幌)
― 荒木遼太郎(鹿島)
― 森島 司(広島)
― 安部柊斗(FC東京)ほか

 久保が攻撃の中心であることを知らしめたアルゼンチン戦だった。1試合目は三笘、三好との関係を上手く構築できなかったが、それでも個で違いを生み出すシーンは少なくなく、2戦目はボランチや1トップとの距離感も良く、食野とのポジションチェンジなど興味深い工夫も見られた。CKのキッカーとして板倉の2発をアシストできたのも好材料だ。

 その久保に勝るとも劣らない存在感を見せたのは相馬だった。1戦目は負けている後半にタイミングの良い仕掛けでアルゼンチンを脅かし、2戦目は左サイドの飛び出しから多くのチャンスを作った。運動量も豊富だったが、課題はファーストタッチで、そこがピタリと合っていたらゴールやアシストという明確な結果につながっていたはずだ。

 10番を背負った三好は周囲との関係構築が上手くいかず、個人でも突破より回避のドリブルが目立つなど、やや期待外れだった部分はある。しかし、1戦目の問題点を最も的確にコメントしていたのが他ならぬ三好だったので、2戦目に向けた話し合いでは中心的な役割を果たしたのではないか。その2戦目は終盤から久保に代わっての出場だったが、攻めながらリードを維持する最低限の役割は果たした。

 三笘はあまりに期待を背負いすぎてしまった側面もある。周囲も困ったら三笘という形になってしまい、あまり有効ではない状況でボールを持つシーンが多かった。2列目でも個人能力が際立った存在であることは間違いなく、メダル獲得の切り札として強力なオプションとしてチームに組み込めたら良いだろう。ただ、少なくとも組織のパーツとして相馬よりやや序列を下げたのではないか。3バック採用なら、2人のセット起用も面白いが……。

 食野の場合は本質的にストライカーであり、他の2列目の選手とはタイプが異なる。1トップ、右サイド、トップ下のどこでも起用でき、アルゼンチンとの2戦目では久保とポジションチェンジを繰り返しながらフィニッシュにも顔を出すなど器用なところも見せた。前線でスタメンでもジョーカーでも起用できるメリットが重視されれば、18人枠に残る可能性は十分ある。ただ、今回は辞退となった堂安を組み込んだ場合、タイプはともかく、ポジション上は被ってしまうところもある。

 その他では旗手は左SBと、渡辺はボランチと2列目以外のポジションで起用できる強みがあり、全体の編成次第で序列が変わってくるところもある。逆転があるとすれば欧州組の遠藤がウニオン・ベルリンで出色のパフォーマンスを見せた場合か。Jリーグでブレイク中の荒木は、このチームでは未招集ながら興味深い存在。中断前まで常連だった森島や年末の合宿に呼ばれた金子も、自チームでスペシャルなアピールが求められる。

複数の役割をこなせる前田は最有力の1人、1得点の林が序列を大きく上げたか

【FW】
― 前田大然(横浜FM)
○ 田川亨介(FC東京)
◎ 林 大地(鳥栖)
― 上田綺世(鹿島)
○ 食野亮太郎(リオ・アヴェ)
― 小川航基(磐田)ほか

 4バックにしても3バックにしても基本1トップのチームで、本職FWに与えられる枠は2枚だろう。18人枠という意味で外せないのが前田で、1トップのスタメンとジョーカー、さらにサイドでも起用できる。アルゼンチン戦は怪我という理由がはっきりしており、コンディションを上げてくれば最有力の1人だ。

 田川は1戦目のアルゼンチン戦で先発したが、飛び出しに加えて必要に応じて効果的なポストプレーも見せるなど、これまでの代表活動での存在感は確実に高まっている。

 それ以上にアピールしたのが追加招集の林だ。瀬古からのスーパーパスからゴールを叩き込んだだけでなく、前からの守備やスペースメークも効果的だった。攻撃の中心である久保も「やりやすい」と語っており、大きく序列を上げたことは間違いない。ただ、前田と林だと高さのないFW陣の構成になってしまうのがネック。その意味でも負傷から戻ってきた上田の奮起に期待したいところだ。

 もっともボランチと同様にオーバーエイジが使われる可能性の高いポジションであり、この中での競争だけでなく、明確な結果を出していく必要がある。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)