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中学の部活中に男子生徒2人に体罰を加えて、ケガをさせたとして、宝塚市立中学校の男性教諭が10月12日、傷害の疑いで兵庫県警に逮捕された。

男性は9月25日夕、勤務先の中学校の道場で、顧問をつとめる柔道部の男子部員2人に対して、投げ技をかけて両頬を数回殴ったり、寝技をしつこくかけたりしてケガを負わせた疑い。

市教育委員会によると、うち1人は背骨を骨折する全治3カ月の重傷で、もう1人は首にねんざを負った。

道場の冷蔵庫で保管していた「アイスクリーム」がなくなるという問題が発生して、男性教諭が部員を対象に聞き取りをした結果、2人が食べたことを認めたため、部員の前で暴行を加えたという。

学校の体罰問題にくわしい高島惇弁護士に聞いた。

●刑事事件に発展するケースは相対的に少ない印象

――逮捕容疑の「傷害罪」はどんな罪なのでしょうか?

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます(刑法204条)。

ここでいう傷害とは、「他人の身体の生理的機能を毀損するもの」であることを要します。今回のケースでは、1人が全治約3カ月の重傷で、もう1人も首に軽いけがを負ったとの話ですので、傷害罪が成立するのは、異論がないと思います。

――体罰が傷害罪に問われるケースはよくあるのでしょうか?

体罰によって、外傷や後遺障害が残存したことを理由として、学校や自治体に対して損害を賠償するよう請求するケースは多く散見されますが、傷害罪として刑事事件へ発展するケースは相対的に少ない印象を受けます。

また、仮に傷害罪として立件された場合でも、逮捕されずに罰金刑に終わるケースが非常に多いのであって、その意味では、ただちに逮捕された今回のケースは、個人的にめずらしい印象を受けます。それだけ被害の深刻さが表れているのかもしれません。

●体罰に対する処分は「甘い傾向」がある

――今回のケースのポイントは?

刑事事件の結果にもよるものの、この教師に対して、兵庫県教育委員会が懲戒免職処分を下すかどうかは、注目すべきポイントかなという印象を受けています。

文部科学省が毎年公表している「体罰に係る懲戒処分等の状況一覧(教育職員)」において、平成28年度に懲戒免職処分が1件あったものの、平成29年度および平成30年度はいずれも全国で0件でした。平成30年度でみると、「骨折・捻挫など」が10件で、「鼓膜損傷」が4件存在しており、体罰の態様や過去における懲戒処分の有無にもよるものの、スクールセクハラなど、ほかの類型に比べて体罰に対する処分は総じて甘い傾向が否定できません。

また、同じく文部科学省が公表している「懲戒処分に関する処分基準の作成及び懲戒処分の公表に関する取り組み状況一覧(教育職員)」によると、ほぼすべての都道府県または政令指定都市の教育委員会は、懲戒処分基準を作成しているにもかかわらず、兵庫県は飲酒運転に関する懲戒基準しか作成していません(ほかに、67自治体中では滋賀県、香川県及び高知県が一部基準しか作成していません)。

そして、一部基準の作成理由として、兵庫県は「内容が多岐にわたるものについては、その事案毎に判断が必要であると考えており、基準作成の必要性を認めないため」という理由を挙げています。しかし、行為類型によって、ある程度懲戒の幅を定めることは容易なので、基準を作成しないことによって恣意的な懲戒を可能とする点で非常に問題があると考えます。

――宝塚市教育委員会は、処分権限のある県教育委員会に「厳正な処分」をもとめたそうです。

教員の体罰については、年々厳しい目が向けられており、児童の健やかな成育を損ねることが、さまざまな研究からも指摘されています。アイスクリームを食べたからという理由で生徒の背骨を折った教諭については、教育者として言語道断と言わざるを得ません。被害生徒が負った損害を少しでも回復できるよう、民事・刑事行政の各領域において適切な解決がなされることを期待しています。

【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp