犯罪から子どもを守るためにどうすればいいでしょうか? 犯罪が起きやすい場所は意外なところに潜んでいるようです(写真:mariusFM77/iStock)

先日、福岡市の商業施設で21歳の女性が刃物で殺害されるという事件が起きました。銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕されたのは、15歳の中学生。

彼は女性を殺害した後、6歳の女児に刃物を突きつけようとしていたところを取り押さえられたと報道されています。

こうした事件を見聞きしても、私たちはなぜか、「あれは特殊なケースだから」「ウチの子が凶悪事件に巻き込まれることはないよ」と考えてしまいます。はたして本当にそう言い切れるでしょうか?

『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』の著者であり、東洋大学社会学部社会心理学科教授の桐生正幸氏に子どもを犯罪から守るための対策について聞きました。

不審者のイメージは?

全国の学校で夏休みが終わり、新学期が始まりました。強い日差しとコロナウイルスを避けて家にこもっていた子どもたちにも、学校を中心とした日常生活が戻ってきました。 

そんな子どもたちの動きと連動するかのように、活発になるのが「不審者」たちの行動です。

しかし、そもそも「不審者」とはどのような存在なのでしょうか? わが子を暴行事件や性犯罪の被害者にしないためにも、彼らの思考や行動パターンを知っておくことが必要でしょう。

「不審者」という言葉そのものは、すでに一般的になっており、日常的によく聞かれるものです。地域によっては、警察による不審者の出没情報を保護者のLINEグループやメーリングリストで共有しているケースもあります。

ただし、不審者の具体像となると、どうでしょうか。率直なところ、古いイメージが独り歩きしている感は否めません。子を持つ親としては、情報の「アップデート」が必要です。

不審者のイメージを自由にコメントしてもらうと、「挙動不審」「薄汚い服を着ている」「無職」「おじさん」というキーワードが出てくることがよくあります。

これは親同士の噂話や実際に起きた事件の報道、あるいはテレビドラマの描写などが影響しているのかもしれません。もちろん、上のようなキーワードが該当するケースもありますが、実際は必ずしも正しくないという事実を強調しておきたいところです。

例えば、幼児を対象とした強制わいせつ事件の加害者を調べてみると、約7割が10代から30代。つまり、子どもたちにとっては「お兄さん」といってもいい人物が加害者になっているのです。ここは、親としても大きな盲点かもしれません。 

親たちが警戒を解いている年齢層の人たちの中に、最も警戒しなければならない不審者が潜んでいる可能性もあるわけです。

また、不審者は独身で無職というイメージが根強くあるのですが、これも必ずしも正しくありません。強制わいせつ事件の容疑者の40.3%が既婚者、80.6%が有職者だという統計結果が出ているのです(法務省『犯罪白書(平成27年版)』)。

また、「うちは男の子だから大丈夫」と考えている方がいるかもしれません。しかし、男児を対象とした強制わいせつ事件は実際に存在します。不審者の性的嗜好はさまざまですから、性別にかかわらず、わいせつ事件に巻き込まれる可能性は十分にあるのです。

では、彼らはどのようにしてターゲットである子どもにアプローチするのでしょうか。

犯罪はどこで起きるのか?

犯罪が起きやすい場所には、2つの特徴があります。1つは人の気配が少ない場所。

少し話がそれますが、犯罪心理学では「日常活動理論(routine activity theory)」という考え方があります。これはアメリカの犯罪学者・マーカス・フェルソンとローレンス・E・コーエンが提唱したものです。

この理論によれば、犯罪は「加害者」と「標的(被害者)」、そして「監視者がいない状況」の3条件がそろったときに起きるとされています。テナントの入っていない雑居ビル、管理されていない公園、住宅街の中の空き家……。

このように街の中にある人けのない場所は、まさに監視者が欠如した状態であり、犯罪が起きる可能性の高い場所だと考えられるのです。では、もう1つの犯罪が起きやすい場所とは、どこでしょうか? 

それは、不特定多数の人が出入りする場所です。

福岡市の事件が起きたのは、いわゆるショッピングモールでした。一見、犯罪とは最も縁遠い場所のように思えますが、実は誰もが利用する商業施設で子どもが狙われるケースは少なくありません。

2014年に千葉県内で、男児が相次いで被害に遭う連続わいせつ事件が起きました。この事件の現場もショッピングモールのトイレでした。

「なぜ、そんな人の多い場所で……」と不思議に思う人もいるかもしれません。しかし、そこがまさに犯罪者の狙いなのです。 

「人が多い場所」とは、誰がいても不思議ではない場所だと言えるでしょう。人が多ければ、そのぶん他者に対する注意も薄れます。したがって、犯罪者にとっては逆説的に「目立たない」場所になるのです。

目的を達成した犯罪者は、とくに怪しまれることなく、容易に人混みに紛れて逃走してしまうのです。

そうした意味で、商業施設の多目的トイレや非常階段、駐車場などは物理的・心理的な「死角」として、犯罪が起きやすいスポットになるのです。

とくにトイレは、事件現場になりやすい場所。個室の内部(ドアの陰)に不審者が潜んでいる可能性もあります。もし、子どもと買い物をしていて1人でトイレに行かせるような場合でも、外から定期的に声をかけ、大人の存在を知らせることで被害を未然に防ぐことができるでしょう。

無差別殺人を回避することはできるか

わいせつ事件であれば、子どもを1人にしないことで、ある程度危険を回避できるかもしれません。しかし、今回の福岡の事件のように、加害者が不特定多数の人間を無差別に襲う事件から身を守る方法はあるのでしょうか?


無差別殺人犯の多くは、独りよがりの傾向が強く、そのため自分が適応できない社会に深い憎悪を持っているという特徴があります。また、歪んだ自尊感情を持ち、自分が正当に評価されていないのは社会のせいだとして、強い反発心を抱いていることも特筆すべき特徴です。

彼らがどのようなきっかけで「暴発」するのか、事前に察知することはほぼ不可能でしょう。

しかし、対策がないわけではありません。たとえば、効果的なのは、商業施設内の監視カメラを、適切な場所に増設することです。

また、急に人に近づこうとする、同じ場所を何度も往復する……といった異常行動を検知するシステムを取り入れることも有効でしょう。実際、AIを使って、こうした不審行動を検知するシステムがすでに大手メーカーによって開発されています。

一方で、無差別殺人犯を生まない取り組みも欠かせません。彼らがまわりから孤立して、社会に対する憎悪を拡大させる前に、その社会との「接点」をつくることが重要なのです。