短時間の試乗でクルマの走りを見極めるのは至難のワザ

 クルマ好きにとってディーラー試乗は、新車購入プロジェクトのなかでもとくに重要、かつ楽しみなイベントだ。セールスマンの対応が良く、値引きなど納得できる条件が提示されていたとしても、肝心のクルマの乗り味が自分の好みに合わなければ、購入意欲も薄れるというもの。

 予想外の値引きの大きさに多少心がグラつくことはあっても、やはりクルマ好きは、お目当のクルマの走りの良し悪しがもっとも重要な要素となる。それゆえに試乗は大事だ。

 そのディーラーで何台も購入しているなど、すでに一定の信頼関係が築けていた場合は、セールスマンの同乗がなかったり、比較的長い時間の試乗が許されるなどして、クルマの走りの細部を徹底的にチェックできることもある。近くに高速道路があれば、高速走行を試させてくれるディーラーも少なくない。

 しかし、一般的な商談ではセールスマンが同乗のうえ、ディーラーの周辺を20〜30分ほど走る程度となる。試乗経験が豊富か、感覚が鋭い人でもない限り、短時間の試乗でクルマの走りのすべてを確認することは難しい。

 スポーツモデルなら、加速やブレーキ、ハンドリング性能が確認できる走りを試したいところだが、都市部ではそれも難しい場合がほとんどだ。時間的にも状況的にも限られた試乗で、優先的にチェックすべきポイントを挙げてみたので、参考にしてほしい。

1)ライバル車にも「ハシゴ」試乗する

 ハンドリングや乗り心地、静粛性などの性能や、個性をチェックする際は、単体だけで判断するよりも、比較対象がある真実がわかりやすい。検討候補のクルマは、なるべく印象が新鮮なうちにすべて試乗して、それぞれのフィーリングを比較しよう。

「A車はハンドリングが期待通り素晴らしく、十分満足できると感じたが、B車はさらに良くて考えが変わった」

「A車の静粛性はまずまず高いと思えたが、B車に乗るともっと静かであり、余計なノイズが遮断されている。B車に乗ったことで、A車の静粛性はそれほど高くはないことがわかった」

「A車もB車も甲乙付け難いほど良かったが、A車は予想以上に走りが硬派で、より自分の好みであることがわかった」

 といった感じで、各部のフィーリングを2台以上で比較すると、それぞれの優劣や特徴が浮き彫りになるのでわかりやすくなる。それぞれの印象や記憶が薄くならないよう、なるべく短時間のうちに乗り比べたい。できれば同じ日に試乗のハシゴをするのがオススメだ。数日以上間があくと前に乗ったクルマの印象は薄れるし、脳内補正がかかったりして、公正な比較ができなくなることも。幸い、新車ディーラーは近いエリアに集中している場合が多いので、試乗のハシゴは意外と難しいことではない。

 また、欲しいクルマはすでに決まっていて、それ以外のクルマに興味がない場合でも、競合車の乗り味を試しておこう。セールスマンは危機感を抱いて値引きの拡大を引き出す効果があるし、他車と乗り比べることによって、意外な発見がある可能性もある。

セールスマンは車両研修などで乗っている可能性も!

 さらに、同じ車種でグレード違いが用意されていれば、遠慮なく乗り比べよう。欲しいのはAグレード一択だったとしても、スペックが低いはずのBグレードの方が意外と気持ち良く感じたり、乗り比べた結果、希望のA車に想定外の美点、あるいはネガを発見することもある。

 気持ちは一切揺るがずとも、狙っているクルマのフィーリングや個性が浮き彫りになれば、購入意欲がさらに高まって、新車購入という大イベントがより楽しくなる効果も。

2)試乗中セールスマンに質問をしまくる

 ディーラー試乗で同乗するセールスマンは、単なるお目付役ではなく、走行インプレッションの情報源として活用したい。ディーラー試乗の場合、ハンドリングやフル加速/フル減速のフィーリングはなかなか試せず、試せたとしてもわずかな範囲にとどまるものだ。

 そこで、セールスマンを質問攻めにしよう。

 客:「街乗りではソフトに感じるサスペンションだけど、峠道ではどうなの?」

 セールスマン:「基本的にはソフトな設定ながら、意外と峠でスポーティに走らせるとコーナーでのロールが抑えられまして……」

 などといった感じで、気になる走りの細部について、根掘り葉掘り尋ねるのが効果的だ。

 有能なセールスマンなら競合車の走りもチェックしているものだし、会社の研修で自社製品をクローズドコースで走らせた経験があったりする。試乗では試せない限界領域の性能やフィーリングが語れるようなら、これを利用しない手はない。セールスマンの商品知識レベルや人柄がわかりやすくなるという効果も。