3年連続で日本国内の販売台数ナンバーワンとなった「N-BOX」(写真:ホンダ

ホンダの2019年の国内販売台数は合計72万2003台で、そのうち登録車が35万7171台、届出車(軽自動車)が36万4832台であった。

登録車のうち、最も台数の多い「フリード」が8万5596台(自販連)であるのに対し、軽自動車では「N-BOX」が25万3500台(全軽自協)となっており、軽自動車販売の7割近くをN-BOXに依存している姿があらわになる。


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ホンダ車の販売は、そもそも軽自動車の比重が50.5%と高いうえ、それがN-BOXという一車種に大きく依存している様子がわかる。

昨年1年間(1〜12月)のN-BOXの販売台数は、全軽自協の乗用車ベスト15の1位となり、2位のダイハツ「タント」を7万8000台以上引き離す、圧倒的数となった。しかも、登録車で1位のトヨタ「プリウス」(12万5587台)の2倍以上でもある。

数値があらわにする「N-BOX」依存

N-BOXは、ホンダの軽自動車「Nシリーズ」の第1弾として2011年12月に登場した。翌12年には早くも軽乗用車で2位となり、13年には1位になった。14年はタントに1位を奪還されたが、15年以降は1位をとり続けている。この間、2017年に2代目へフルモデルチェンジした。


2代目「N-BOX」は2017年にデビュー。2019年10月に一部改良を実施している(写真:ホンダ

ホンダのNシリーズは、昨年の11月に累計250万台を達成した。Nシリーズには、ほかに「N-ONE」、「N-WGN」、商用のN-VANがあるが、累計250万台のうち169万7210台がN-BOXで67%以上を占め、シリーズ内においてもN-BOXの牽引力の大きさを示している。

ホンダのこうしたN-BOX依存体質は、昨年の全軽自協の統計を見ても明らかだ。ベスト10以内にホンダ車はN-BOXしかなく、対してスズキは4台、ダイハツが3台、そして日産と三菱自が1台ずつの内訳となっていた。

その販売台数は、スズキが4台で38万6308台、ダイハツが3台で39万2654台となっており、25万台超のN-BOXと軽自動車販売の台数という側面においては、競合他社もそれほど遜色ないことがうかがえる。

多種多様な登録車と違い、軽自動車の販売利益は各社それほど差がないと想定すれば、上位3社はいい競争をしていると言えなくもない。

ただし、たった1車種で戦えているホンダは、いろいろな車種を開発して合計台数で競うスズキやダイハツに比べ、車種の少ない分、開発や生産準備のための投資は抑えられているとみることもできる。


2019年に発売された2代目「N-WGN」(写真:ホンダ

とはいえ、ホンダもN-BOXのみに依存していてよいとは考えておらず、昨年、同じプラットフォームを活用したN-WGNをフルモデルチェンジして商品力を大幅に高め、ベスト15で12位の3万2382台を売った。

自動車メーカーとしての企業規模の側面で見ると、ホンダの世界販売は年間約530万台、スズキは約340万台、ダイハツは約100万台である。

なかでもスズキやダイハツは、軽自動車を主軸としながら、登録車でも小型車を中心に販売する形態であるのに対し、本来ホンダは世界的にも登録車主体のメーカーであるのだから、国内においても登録車の販売をより伸ばすことが望まれるだろう。

時代を築いたヒットモデルの衰退

国内の登録車販売において、「フリード」や「フィット」、「ヴェゼル」など、5ナンバー枠やそれに近い車種は、それぞれハイトワゴン、小型2ボックス、小型SUVという具合に国内で人気の高い分野であり、販売は好調だ。


2020年2月に発売となった10代目「アコード」(写真:ホンダ

一方、3ナンバー化した「シビック」や「アコード」、また人気の5ナンバーミニバン市場で戦う「ステップワゴン」、ミニバン時代を築いた「オデッセイ」、SUVの「CR-V」、上級セダンの「レジェンド」などといった、ホンダ車の中でなじみが深かったり、かつて名車として高い人気を呼んだりした各車種の存在感が薄れている課題も見えてくる。

名前を聞けば多くの人が知っているクルマが、購入の選択肢に入ってこない状況に陥っているようだ。

それらは高付加価値をもたらす車種でもあり、販売成績いかんでホンダの業績を大きく上下することだろう。では、それら名だたる車種が、軽のN-BOXに比べ、なぜいずれも存在を希薄にしてしまったのだろうか。

ホンダは、創業時より市場を開拓し、存在感を示してきた自動車メーカーだ。自転車にエンジンを取り付けた初期の2輪車はもちろんのこと、大型バイクが主流であったかつてのアメリカに「スーパーカブ」を持ち込むことによって、女性や若者が2輪に乗るという新たな流行を生んだ。


1958年の「スーパーカブ C100」(写真:ホンダ

バイクに乗ることが威容を誇るのではなく、賢い生活を喚起したのである。

4輪事業においても、まず高性能エンジンを搭載した軽トラック「T360」を生み出し、そこから前輪駆動の合理的な軽乗用として「N360」を生み出した。

1970年代には「達成不可能」とされたアメリカの厳しい排ガス規制(通称マスキー法)において、多くの自動車メーカーが後処理による排ガス浄化を目指したのに対し、エンジンの燃焼という根本から解決するCVCC(複合渦流調整燃焼方式)に的を絞って開発を行い、世界で最初に基準値を達成。その技術は、国内外の多くの自動車メーカーから引き合いになった。

アメリカ偏重により国内での存在が希薄に

技術開発の根幹として、レースにも積極的に参戦し、2輪ではマン島TTレースやロードレース世界選手権、4輪ではF1グランプリに国内メーカーとして先駆けて挑戦し、勝利を手にしている。それらはホンダという戦後発の極東の自動車メーカーへの注目を集めさせ、信頼を築いた。


ユニークなコンセプトでヒットした「S-MX」(写真:ホンダ

1980年代後半から1990年代にかけては一時業績を著しく悪化させたが、1990年代半ばからのクリエイティブムーバーと呼ばれる商品群は、今日につながるホンダの礎を築いた。オデッセイ、ステップワゴン、CR-V、そして「S-MX」だ。ミニバン、5ナンバーミニバン、SUV、そしてハイトワゴンという形態は、新たな市場を築き、いまなお国内で売れ筋の車種である。そこへ、他の自動車メーカーは追従した。

しかし、ホンダの主力とみなされる一連の登録車は、昨今では独自性や独創性を希薄にし、競合他車との比較競争の中で埋没しはじめている。

シビックとアコードはアメリカ市場を主力とし、競合他車との比較の中で大型化。国内においては、購入する意味を失わせた。かつて、大型バイクしか価値が見出されていなかったアメリカに、スーパーカブを持ち込んで新たな市場を開拓したことが幻のようである。

オデッセイは、室内の広さというミニバン本来の価値を一時期捨て、走行性能をうたう背の低いスタイルになり、ステーションワゴンとの違いをわかりにくくした。


底床化による走行性の高さをうたった3代目「オデッセイ」(写真:ホンダ

また、ステップワゴンとともにハイブリッド化に遅れたことも、国内ユーザーの選択肢から外れていった理由のひとつだ。さらにCR-Vもアメリカ依存で大型化し、消費者の心から離れていった。

誰もが聞き覚えのあるそうしたホンダの中核車種が、競合を見ながらの開発に陥り、精彩を失ったのである。また、ハイブリッド化など電動化による環境対応に遅れ、運転支援技術でも出遅れが明らかだった。

日本に最適なクルマで世界へ

しかし、ここにきてハイブリッドも方式を絞り込み、電動化を進め始めている。年内には初の市販EV(電気自動車)である「ホンダe」を発売する予定だ。運転支援の「ホンダセンシング」も急速に性能を高め、商品性を上げてきている。

伝統的なホンダの追い上げの強さが、今年は発揮されそうだ。それはまさに、負けが込んだレースを挽回する、モータースポーツ経験を体現するようである。


2020年2月に発売された4代目となる新型「フィット」(写真:ホンダ

さらに、昨年の第46回東京モーターショーで公開された新型フィットが、いよいよ2月に発売となった。

4代目となるフィットは、原点回帰とでもいうべき小型2ボックス車のよさを見直し、初代から3代目まで超えられなかった弱点を一気に解消する斬新さを備えている。

そこには、「新たな開拓」という精神的な後ろ盾もある。新型フィットは、これまでホンダが永年にわたり取り組んだグローバルカーの考えを転換し、日本に最適なクルマを世界的なグローバルカーの基軸にするという構想で生み出されたのだ。

日本のホンダが、日本に焦点を合わせたクルマで世界に挑むのである。これほど日本人の心を燃え立たせる志はないのではないか。この心意気をもってすれば、軽自動車も登録車も、ホンダに乗ることの喜びを再び高めてくれるのではないかと期待している。