就活生のリクナビ離れ加速?3割「利用しない」
データ提供問題を受けて就活生の「リクナビ離れ」が加速しているようだ(写真:NOV/PIXTA)
リクルートキャリアが運営する就職ナビ「リクナビ」の閲覧履歴に基づく内定辞退率予測データの提供問題は、提供を受けた契約企業37社にも、政府の個人情報保護委員会に引き続き、厚生労働省も職業安定法違反であるとして東京労働局などを通じて行政指導を行う事態になった。
また、個人情報保護委員会は、Webブラウザのロゴイン情報をためた「Cookie(クッキー)」情報について、現行の個人情報保護法では「個人情報」にも「個人データ」にも当たらないとしている。
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しかし、法律改正に向けた骨子案では、「提供元では個人データに該当しないものの、提供先において個人データになることが明らかな情報について、個人データの第三者提供を制限する規律を適用する」としている。
「Cookie」は、リターゲティング広告をはじめ、さまざまな分野で利用されている。今回のリクナビ問題を契機とした規制は、就職ナビにとどまらず、Webサービス全体に影響を及ぼす可能性がある。個人情報の保護はもちろん重要ではあるが、拡大解釈するのではなく、規制は必要最小限にしてほしいものである。
3割の就活生はリクナビを「利用しない」
リクナビの内定辞退率予測データの問題が表面化した際、いち早く非難の声をあげたのは大学キャリアセンターだった。中央大学をはじめ複数の大学が、リクルートキャリアへのガイダンス講師依頼を取りやめるとともに、学生にリクナビを紹介しないと三くだり半を突きつけた。
これまでマイナビと就職ナビ2強を形成し、9割ほどの就活生が利用してきたリクナビだが、当の就活生は今回の問題をどう見ているのだろうか。
HR総研では、11月上旬に就活クチコミサイト「就活会議」(運営・リブセンス)と共同で実施した、2021年卒業予定の就活生を対象とした「就職活動とインターンシップに関する意識調査」の中で、「リクナビ」の利用意向についても聞いてみた。就活生のフリーコメントとあわせて見ていこう。
全体では68%の就活生が「引き続き利用する」としている一方、「(すでに利用していたが)利用を控える」就活生が17%、「利用予定だったが控える」が3%、「利用予定なし」が8%となっており、合わせて3割近い就活生は「利用しない」としている。
もともと利用するつもりはない就活生はともかくとして、「利用を控える」「利用予定だったが控える」とする2割の就活生は、今回の問題を契機に「リクナビ」離れを起こしたことになる。
文系、理系別に見てみると、文系は32%の学生が「利用しない」としているのに対して、理系では「利用しない」とする学生は23%にとどまる。ライバルのマイナビと比較した場合、理系学生での利用度はリクナビのほうがわずかながら上回る傾向があり、ここでも理系学生からの支持は根強いものがある。AIやCookieに対する理解度の違いもあるのかもしれない。
「利用する」派の意見
利用する派と利用しない派のそれぞれの理由も見てみよう。まずは利用する派から。
サービスの利便性を考えたら使わざるをえない、就職関連サービスはほかにもあるものの、ほかでは代替できないと考える就活生は少なくない。リクナビも巨大IT企業GAFAにつながる側面を持っているといえる。
「リクナビにしか情報を掲載していない企業もあるため」(慶應義塾大学・文系)
「利用者にとって有益なサービスには変わりない」(京都大学大学院・理系)
意外だが、そもそも内定辞退率データの提供の何が問題だったのかがわからないという就活生もいる。
「情報漏洩は問題だがとくに重要な情報とは感じないから」(山口大学・理系)
「別段何も気にならないから」(東京工業大学大学院・理系)
「正直何が問題だったのかわからないから」(立命館大学・文系)
8月の記者会見で内定辞退率予測データの提供問題で謝罪をするリクルートキャリアの幹部 (撮影:尾形文繁)
さらには、リクナビに限ったことではないのではないかと考える就活生も。
「リクナビの件がたまたま表に出ただけであり、裏ではどのサイトでも行われていると考えているから」(岡山大学大学院・理系)
「どうせ個人情報は漏れているものだと前から思っていた。他のサイトも漏れていると思っている」(九州大学・文系)
問題となったのは2019年卒と2020年卒の学生データであり、自分たちが被害に遭ったわけではない、あるいは、問題を起こしたからこそ、自分たちを対象としたサービスにおいて同じことを繰り返すことはありえないと考えている就活生も多い。
「自分の就活にはあまり関係ないと思うから」(横浜国立大学・文系)
「逆に、今はなにもしてないと思われるので、信用できる」(関西大学・理系)
「問題が発覚した今だからこそ、逆にリスク管理が一番高い状態にあると考えるから」(上智大学・文系)
企業に「理解」の声も
中には企業側の立場を理解する声もある。
「就職側からの意見としては、不利になるかもしれないので、辞退率を勝手に見せられていたのは困る。しかし、企業側として考えると、目安として知ることは大切だとは思う。選考に関係づけるのではないと割り切って使うならいいと思う」(成城大学・文系)
大学キャリアセンターは、リクナビの一方のユーザーである学生の利益を顧みることなく、もう一方のユーザーであるスポンサー企業にばかり目を向けた、営利に走りすぎたリクルートキャリアの企業姿勢自体に「ノー」を突きつけたわけだが、利用する就活生は「企業」ではなく、あくまでも「サービス」としてしか見ていないように感じる。
次は利用しない派の理由を見てみる。
利用しない理由として、「信用できない」を挙げる声が最も多い。前述の利用する派の理由とは逆で、「サービス」ではなく、「企業姿勢(企業体質)」そのものを問題視している。
「信用できないと感じたため。問題発覚以降、アプリは起動していない」(秋田県立大学大学院・理系)
「倫理観が欠落した行動であり、今後も同じようなことが起こりうると判断したため」(東京工業大学大学院・理系)
「情報の扱いに関して管理が行き届いていないところに自分の情報を登録し、就活においてマイナスの影響を与えられたくないため」(慶應義塾大学・文系)
「その他の個人情報も企業側に提出している可能性もなきにしもあらず、と考えられるため」(京都大学・文系)
広告を出す企業にも変化?
リクナビにこだわらなくても、マイナビをはじめとする他のサービスで十分だとする就活生も少なくない。中には、今回の問題で、広告を掲載する企業側にも変化があることを指摘する就活生もいる。
「マイナビで十分だから」(金沢大学・理系)
「学生側だけでなく企業側もマイナビ等の他のサイトへの移行を開始している企業が散見されるため」(青山学院大学大学院・理系)
「ナビサイト全体に不信感を持ったので、やや使用を控えている」(大阪芸術大学・文系)
今回の問題の影響がリクナビだけにとどまらず、他のサービス全体が同じ目で見られてしまう懸念もある。これまで長らく就職ナビの2強を形成してきたリクナビとマイナビではあるが、今回の一件で就活生の利用度の点では2者の間に大きな差がつくことは間違いないだろう。
この差は一時的なもので、再び2強時代に戻ることができるかどうかは、今後のリクナビの信頼回復にかかっている。次に何かあった場合には、今度はリクナビだけにとどまらず、就職ナビ業界全体への不信感に広がりかねない。二度と学生を裏切るようなことがないことを祈るばかりである。