ジム・ロジャーズ「移民を恐れる残念な日本人」
京都・二条城の「香雲亭」で講演するジム・ロジャーズ氏。「移民を恐れれば、かえって日本は貧しくなる」と警告する(筆者撮影)
ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。世界3大投資家の1人であるジム・ロジャーズ氏が、最新刊『日本への警告 米中朝鮮半島の激変から人とお金の動きを見抜く』をモチーフにした講演を東京、京都、大阪で行いました。その講演の中から、印象的な日本人へのメッセージをお伝えしたいと思います。
国を閉ざせば貧しく、開けば豊かになる
ロジャーズ氏は、歴史的に見れば鎖国をした国は貧しくなり、開放した国は豊かになる、と言います。
国を閉ざして貧しくなった例として、かつてのビルマ(現ミャンマー)を挙げることができます。東南アジアでも有数の豊かな国であったビルマは、1962年に軍事クーデターで政権奪取した党に支配され、1980年代末まで鎖国的社会主義体制が敷かれました。その間、アメリカによる経済制裁やインフラ不足を背景に転落の一途をたどり、現在ではアジア最貧国の1つです。
逆に、国を開放して豊かになった例としてアメリカやシンガポールを挙げることができます。
「アメリカの場合、グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブックに代表される刺激的な企業のほとんどは、移民にルーツを持つ人物が創業したものだ」
移民受け入れを進めると、「外国人に仕事を奪われる」と懸念する人もいますが、ロジャーズ氏は逆に、移民が雇用を生み出すと言います。
「もし今、アメリカからグーグルやアマゾンといった企業がいなくなれば、どれだけの雇用が失われるかを考えると、そのインパクトがわかるだろう。私が暮らすシンガポールも、世界各国の人材を受け入れた結果、今の地位がある。歴史を振り返っても、移民は子どもを積極的につくるため、少子化問題の解決にも貢献してくれるはずだ」
ロジャーズ氏は、移民人口比率などをコントロールすれば、社会は不安定にならないと言います。シンガポールでは短期間にあまりにも多くの移民を受け入れたことから、その比率がアンバランスになってしまいました。
そのため、現在は外国人の受け入れや永住権の取得を厳しく制限するようになりました。このように政府が「蛇口」を適切に開け閉めすれば移民を恐れることはない、むしろ移民が新しいアイデア、仕事、資本を持ってくるというのです。
日本は「2025年問題」を抱えています。日本社会に押し寄せる高齢化の波は、まだまだ「序の口」です。2025年ごろになると団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に達します。さらに、団塊ジュニア世代の高齢化の波も続き、2070年ごろまで苦しい時代が続くと予想されています。それに伴い、要介護高齢者も増加するでしょう。介護や家事を移民に頼らなければいけない時代が迫っているのです。
新しい投資対象となる「移民向けビジネス」
日本人にとって、移民は新しい投資対象になるとロジャーズ氏は言います。政府がさらに多くの移民受け入れを認めるようになれば、移民向けの住宅供給や移民エージェントなど、新たな成長ビジネスが生まれるからです。
移民向けビジネスで真っ先に思い浮かぶのは「不動産だ」とロジャーズ氏は言います。
「例えば、日本の古民家は安いうえ、外国人の目には魅力的な場所に映る。とりわけ主要都市の物件はグレード感があり、少なからぬニーズがありそうだ。そうした物件の運営について、外国人従業員を雇用して行うだけでも、利益を見込めるだろう」
現在、空き家問題が深刻化していますが、空き家をリノベーションして付加価値を創出し、外国人に賃貸したり売却したりするビジネスも利益を見込めるかもしれません。海外では、老朽家屋をリノベーションして売却する手法は、ごく一般的です。
介護や家事労働者を教育して派遣するようなエージェントビジネスも利益を上げられるかもしれません。教育ビジネスにもチャンスがあるとロジャーズ氏は言います。日本の大学は18歳人口の減少で経営が圧迫されつつありますが、世界を見渡せば、インドなどのように大学が不足している国はたくさんあるからです。
ロジャーズ氏は、外国人向けの飲食ビジネスも見込みがあると考えています。例えばシンガポールにはハラルやヴィーガン(動物性食品も食べない完全菜食主義者)対応の飲食店はたくさんありますが、日本ではまだまだ不足していると思います。ニッチなフィールドで移民向けビジネスを起こし、財産を築ける可能性もあると言うのです。
エリート駐在員は日本よりもベトナムで働きたい
世界有数の金融グループHSBCホールディングスは今年7月、「各国の駐在員が働きたい国」の最新ランキングを発表しました。日本は、調査対象の33カ国・地域でなんと下から2番目の32位。ベトナム(10位)、フィリピン(24位)、インドネシア(31位)といった国の後塵を拝しています。項目別で、賃金、ワークライフバランス、子どもの教育環境については最下位。外国人の目に、日本は、魅力の乏しい国に映っているようです。
私が以前働いていた外資系金融機関では、外国人の営業スタッフでも日本語ができなければならないといった奇妙なルールがありました。現在、日本政府や企業の多くは外国人労働者に対し、非常に高度な日本語能力を求めています。しかし、外国人を選別するような余裕はないのではないかと思います。むしろ、日本人のほうが英語などの外国語を学び、歩み寄るべきでしょう。
このままでは日本は、旅行者などの一時滞在者を除いては誰も住んでくれない国になってしまうかもしれません。ロジャーズ氏は、半恒久的に日本に住んでくれる外国人が増えなければ意味がない、と言います。
10月1日から消費税が10%へ引き上げられました。日本の財政から考えると、さらなる増税は不可避ですが、切り札として考えられるのが、移民というカードなのです。これからは女性、高齢者だけでなく、移民も財政の担い手になってもらわなければ、私たちの年金だっておぼつかないでしょう。
ロジャーズ氏は、日本食や日本文化などを愛しています。もし日本が中国語など外国語を話すような国であれば、住んでもよかったと言います。日本が大好きだからこそ、日本のぶざまな姿など見たくないのでしょう。