“推し剣”に会いたい刀剣女子が殺到! 『刀剣博物館』で味わう恍惚と達成感
「『国行』を目当てに来ました。めっちゃきれいです! ゲームからのファンで、ミュージカルはまだですけど映画は見に行きました。日本刀自体には知識はないんですけど(笑)、好きなキャラクター(刀剣)が展示されていたら実際に見に行きますよ」
【写真】美しい国宝の太刀「国行」をはじめ『刀剣博物館』の見所
東京・両国にある『刀剣博物館』に来ていた、20代の女性2人組がガラス越しに熱い視線を送るのは日本刀。今、全国にある刀剣に関する博物館や展示会に、彼女たちのような若い女性が殺到している。
「女性の来館者は圧倒的に増えて、今や7:3の割合で女性が多く、女性は30代以下、男性は50代以上が中心です。ゲームがブームになる前は、来館者数も1日100人ほどでしたが、現在は年間で約5万6000人。1日200人近くといったところです」
そう話すのは刀剣博物館を運営する、公益財団法人日本美術刀剣保存協会の荒川史人さん。荒川さんや、冒頭の女性らが話す“ゲーム”というのが、ブラウザゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』だ。
昨年のNHK紅白歌合戦に出演していた、きらびやかな衣装を身にまとい不思議な話し方をしていたイケメンたちを覚えているだろうか。彼らはゲームから派生した「ミュージカル『刀剣乱舞』」に出演する「刀剣男士」たち。例えば名前を『三日月宗近』と、実在する日本刀をモチーフとしたキャラクターなのだ。
’15年のサービス開始後、アニメ、マンガ、舞台、ミュージカルなどさまざまなコンテンツが展開され、各所で熱狂的なファンを生み出している。もともと歴史好きで刀に興味を持っていた“歴女”に加え、刀剣乱舞をきっかけに“推し剣(ケン)”に会いたい女性が急増。今や“刀剣女子”が、うんちくを語るオジサンを凌駕(りょうが)しているのだ。
そして、今回訪れた刀剣博物館では『日本刀の見方 パートI姿』展が開催中で、国宝でゲームにも登場する『明石国行』が展示されている。実際、ほとんどの女性が国行の前で足を止め、真剣な眼差(まなざ)しで見つめては、その姿を写真に収めている。
「昨年の企画展では『太鼓鐘(たいこがね)貞宗』を展示したのですが、2か月で約1万5000人といちばんの来場者数でした。キャラクターの人気や組み合わせによって、来場される方の人数が大きく変わることを実感しました」(荒川さん)
初めての刀剣鑑賞
そして貴方に触れる
さて、あらためて展示場を見て回ると、『国行』のほかにも、平安時代末期から幕末・明治時代まで約40振が並ぶ。もちろん国宝、重要文化財に指定されているものなど名刀ばかりだ。照明が落とされて少し薄暗い中で、ライトアップされた日本刀は幻想的、神秘的な美しさ。
実は、この演出にも理由がある。日本刀のこだわりの部分である「刃文(はもん)」や「地鉄(じがね)」がよく見えるようになっているのだ。「刃文」とは、刃の白っぽい部分に浮かび上がる模様で、これは刀工が意図してつけているもので、個性が強く出る部分だそう。まっすぐなもの、細かく波を打ったものなど、それぞれに違った模様が浮かび上がっている。
「地鉄」は、刃の黒っぽい部分で、鉄を何万層にも折り返して作る、鍛錬の仕方によって出るもの。木の年輪のような杢目(もくめ)模様、板のような板目模様が見て取れる。刃文とはまた違う美しさで、知っていると“通”気分になれる。
「そして“姿”。姿とは全体のバランスや反り格好、厚みや身幅。これを見るとだいたいどの時代の日本刀かがわかります。初めて日本刀をご覧になる方は、ぜひ“姿” “刃文” “地鉄”の3つを見てください」(荒川さん)
じっくりと鑑賞したあと、今回は特別に日本刀を持たせてもらった。入念に手を洗い、飛散した唾で錆(さ)びてしまう可能性があるためマスクを着用。緊張感に震える手を抑えつつ、まず一礼。「ふくさ」を左手に、その上に刀をのせるとずっしり。金属バットと同じ1キロくらいというが、名だたる武将たちは、さらに馬に乗って振り回していたのか……と考えると、その勇ましさがよりリアルに感じられた。
そして、自分で光を当てて角度を探し、ようやく浮かび上がった「刃文」をとらえたときは、その美しさに見惚れると同時に、何とも言えない達成感が。
事前にHP上からの申し込みが必要だが、刀剣博物館では毎月(8月と12月を除く)第2土曜日に行われているマナー講座で、実際の日本刀を手に取り鑑賞することができる。また博物館1階でも、重さを体感できるコーナーが常設されているので、気軽に日本刀体験を楽しみたい。
その美しさを1度見て、手にすれば刀剣女子ならずとも、日本刀の魅力に引き込まれること間違いなし。“刀剣ラブ”してみる?
刀剣女子デビュー
見るべき3つのポイント
ポイント1:姿全体の大きさやバランス、身幅、厚み、反り方でどの時代のものかわかる。所持していたのはどんな人? なんて想像するのも楽しい!
ポイント 2:刃文刃の白い部分にふわっと浮かび上がる模様で、流派や職人によって形はさまざま。自分のお気に入りの模様を見つけてみるのもいいかも♪
ポイント3:地鉄刃の黒い部分に光を反射させると見える模様。玉鋼を何度も折り返すことによってつくられた模様は、刀工のこだわりが感じられる。
■刀剣博物館
東京都墨田区横網1−12−19
開館時間9:30〜17:00(入館は16:30)まで
休館日 毎週月曜日(祝日の場合開館、翌火曜日休館)
通常展入館料 大人1000円 学生500円 中学生以下は無料
その他詳細、展示情報は https://www.touken.or.jp/museum/
(取材・文/佐々木清夏 撮影/坂本利幸)