過去最高の売上でも利益は大幅減「ホンダ」が中国に買われる日
「世界最大の自動車グループ誕生か−−」。自動車業界に激震が走った。
5月25日、ヨーロッパの複数のメディアは、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)がルノーに経営統合を提案した、と報じた。ルノーもこれに、「前向きに検討する」と応じたという。
FCAはジープやアルファロメオなど、人気のブランドを多く抱える。統合が実現すれば、ルノーと提携している日産自動車、三菱自動車も合流する可能性があり、年間の世界新車販売台数が1500万台を超え、フォルクスワーゲングループを上回って世界最大の自動車メーカーグループとなる。
その背景にあるのは「100年に一度」といわれる、自動車業界の急激な変化だ。
「『CASE※』と呼ばれる新技術や、厳格化する排ガス規制への対応などで、各メーカーは莫大な開発コストを強いられています。1社では負担しきれないので、他社と連携して量産効果を狙っているのです」(自動車業界に詳しいジャーナリスト・桃田健史氏)
自動車業界では、かつてない規模での再編が進んでいる。そのなかで唯一、国内で孤高を保ってきたのがホンダだ。
「ホンダは、いまのところは単独で生き残れないメーカーではありませんが……」
自動車評論家の国沢光宏氏が言うように、ホンダの経営状態は悪くない。5月8日に発表された2019年3月期の連結決算では、売上高は前期比3.4%増で過去最高を記録した。しかしながら、営業利益は12.9%減、当期利益は42.4%減となった。
それを踏まえ国沢氏は、ホンダの構造的な問題点を指摘する。
「以前から悪かった四輪車部門の収益は、まったく回復しておらず、アメリカ、中国は黒字ですが、ヨーロッパは赤字、日本はトントン、つまり収益ゼロでした。営業利益の50%は、東南アジアでの二輪車部門の収益です」
さらに、かつて日本でもトップクラスを誇った同社の技術開発力が、存在感を失っているという。
「自動運転や電気自動車などについては、もちろんホンダも開発を進めているのですが、それをアピールできていません。どの程度、開発が進んでいるのか、外からは見えないんです」(国沢氏)
元ホンダの社員で、自動車評論家の小沢コージ氏が指摘するのは、ホンダの企業文化の変質だ。
「1970年にアメリカで改正マスキー法が成立し、排ガス規制が強化されたとき、ホンダはCVCCエンジンを開発し、世界でいちばん早く規制をクリアしました。
本来、自動運転技術が注目されたら、『うちが最初に自動運転車を作る』と宣言するのがホンダらしさだと思うんですが、いまのホンダにはそういう文化がなくなってしまいました」
もし、二輪車や米国市場の業績が伸び悩み始めたら、ホンダはどうなるのか。
「日産や三菱のように、外部資本を入れるしかないでしょう。その相手は、中国メーカーしかありません」(国沢氏)
実際、ホンダはすでに、中国の自動車メーカーである東風汽車、広汽集団と合弁会社を立ち上げている。
「中国メーカーにとって、ホンダは魅力的な企業です。世界トップレベルのクルマ作り技術、自動運転技術など、中国が欲しいものをすべて持っています。
ホンダの時価総額は約5兆円。1兆6500億円ほどで、3分の1の株を買えます。今の東風や広汽には、潤沢な資金がありますから」(国沢氏)
「技術のホンダ」の凋落を、本田宗一郎が聞いたらどう思うだろうか。
※CASE:「Connected(コネクティッド化)」「Autonomous(自動運転化)」「Shared/Service(シェア/サービス化)」 「Electric(電動化)」の4つの頭文字をとったもので、自動車産業の新たな開発分野
(週刊FLASH 2019年6月18日号)