2018年7月、インターネット上で「アフリカらしき場所で兵士が民間人を殺害する」という恐ろしいムービーが拡散されました。詳細な情報が含まれていないたった1本のムービーを手がかりに、イギリスの放送局であるBBCが虐殺の真相に迫った足跡を、Twitterで公開しています。

世界中に拡散した虐殺のムービーは、以下のツイートから見ることが可能。BBCによってムービー末尾の殺害シーンはカットされていますが、2人の女性と2人の子どもが兵士によって殺害されるまでの様子が捉えられています。殺害シーン自体はカットされているとはいえ、十分に刺激の強いムービーになっているため、苦手な人は無理に見ないよう注意が必要です。





映っているのは一見するとのどかな農村の風景。



しかし、口笛を吹きながら先頭を歩いてきた男性は銃を提げており……



後に続いて女性と子どもが兵士らしき男性たちに連行されてきました。女性をつかんでいる男性が女性の顔をたたくシーンも、ムービーには納められています。



兵士の男性は女性に対して高圧的な口調で話しており……



さらにもう1人、ピンク色の服を着た女性も兵士たちに捕らえられている様子。



ピンク色の服を着た女性の背中には、幼い子どもが背負われていました。



女性と子どもたちは殺風景な場所に連れてこられて……



目隠しをされてしまいます。



女性と子どもたちが地面に座らされた後……



銃声が響きます。本来のムービーはこの後も続き、計22発もの銃弾が撃ち込まれたとのこと。



ムービーが拡散されると共に、「この虐殺が起こった場所はどこなのか?」という点が話題になりました。発生現場がアフリカらしいという点ではインターネットユーザーの意見は一致しており、「カメルーンではないか」「マリではないか」といった推測が飛び交ったそうです。

2018年7月11日、虐殺現場として疑われたカメルーンの通信大臣を務めるIssa Tchiroma Bakary氏は、「このムービーはフェイクニュースであり、カメルーン軍の兵士によるものではない」と声明を出しました。



ところが、BBCはカメルーン政府の発表に疑念を持ち、独自に虐殺現場の特定を開始。ムービー中に映った特徴的な山の稜線(りょうせん)から……



Google Earth上でピッタリと合致する山を見つけ出しました。



BBCは、ムービーに映った山をカメルーンとナイジェリアの国境付近に見える山だと特定。山の見える位置から推測して、虐殺現場はカメルーンの北部に位置するZelevetという町の郊外にある道路だそうです。Zelevet付近ではイスラム過激派組織のボコ・ハラムとカメルーン軍が戦闘を行っており、カメルーン軍による虐殺という可能性が高まりました。



ムービーに映った構造物や自然物とGoogle Earthを照らし合わせ……



BBCは丹念に虐殺現場の絞り込みを行います。



その結果、BBCは詳細な現場まで特定したとのこと。



現場が特定できた後、BBCは「このムービーが撮影されたのはいつなのか?」という点を調べ始めました。すると、ムービーの背後に映った建造物の一つが「2014年11月の時点で建造されていなかった」ことが明らかになりました。よって、このムービーが撮影されたのは2014年11月以降ということになります。



また別のシーンで映った建造物は、「2016年2月の時点でなくなっている」ことも判明。ムービーが撮影されたのは、2014年11月から2016年2月という範囲に絞り込まれました。さらに、ムービーの様子から地面が乾燥していることもわかるため、虐殺が発生したのは乾期である1月から4月の間の可能性が高いとのこと。可能性としては2015年の1月から4月、もしくは2016年1月から2月が残りました。



続いてBBCは、ムービーに映った兵士の影に注目。兵士の影から太陽の位置を割り出します。



当時の太陽の位置から日時計の仕組みを応用し、カメルーンの犯行現場でこの影が現れる期間を計算しました。すると、この太陽の位置が実現するのは3月20日から4月5日の間ということが判明し、ムービーが撮影されたのは2015年の3月20日から4月5日の間ということまでわかったとのこと。



場所、そして時期までが判明したら、次に突き止めるべきは「誰がこの殺害を行ったのか?」という点です。ムービーに映った兵士が持っている銃は、セルビア製の「ツァスタバ M21」という種類。サハラ砂漠以南の地域では珍しい銃ですが……



カメルーン軍ではツァスタバ M21が採用されているそうです。



また、ムービー中の兵士が着用している迷彩服も、カメルーン軍が着用しているものと酷似。



「兵士の装備が軽装過ぎるため、正規のカメルーン軍ではない」という主張もカメルーン政府は行っていましたが、虐殺現場はカメルーン軍の前哨基地からわずか880mしか離れていません。そのため、兵士が軽装であることは不自然でもなんでもないとのこと。



2018年8月、カメルーン政府はそれまでの立場を一変させて「7人のカメルーン軍人を拘束し、取調中だ」と発表しました。声明に記された名前から、BBCは殺害に関与した3人のメンバー特定を開始しました。



ムービーには殺害に関与した3人の犯人が映し出されていました。



このうち、一番右の迷彩服を着た男性はムービー中で「Tchotcho」と紹介されていました。



BBCはこの男性のFacebookページの特定に成功。かつてカメルーン軍に所属していた匿名の人物に裏を取り、この男が「Tchotcho Cyrique Bityala」で間違いないと証言を取ったそうです。



続いて、女性に目隠しをしている男性についても、軍事関係の情報筋から「Barnabas Gonorso」という名前だという証言を得たとのこと。



この人物について詳しい情報は手に入れられなかったそうですが、カメルーンが発表した名簿の中に「Barnabas Donossou」という似た名前を発見しました。



最後に、ムービー内で「Cobra」と呼ばれていた男性についてもBBCは特定作業を行いました。最後まで被害者たちに銃撃を続けた「Cobra」に対し、他のメンバーは「『Tsanga』、もう行こう。こいつらは死んでる」と呼びかけています。



カメルーン政府が発表した名簿には「Tsanga」の名前が載っており、この人物の愛称が「Cobra」だった可能性が高まりました。



BBCが今回の事件についてカメルーン政府に問い合わせたところ、カメルーン政府は「現在調査中で、犯人たちに厳正な取り調べを行い、公正な処罰を下す」と回答したとのこと。しかし、BBCは「殺害された女性と子どもに対しては一切の取り調べも行われず、弁明の機会すら与えられず一方的に殺害されたのだろう」と述べ、事件に対する抗議の意志を明確にしています。