記者が無条件にロマンを感じてしまうものの一つが化石、特に恐竜や大型爬虫類などの化石には興奮を覚える。国立科学博物館の地下にある恐竜展示は、記者のお気に入りの場所のひとつだ。

国内で状態の良い恐竜や大型爬虫類の化石が発掘された例はあまり多くないが、それだけにその貴重さが際立つ。そんな貴重な化石のひとつが、1976年に北海道三笠市で発見された、モササウルス科の大型海棲爬虫類「エゾミカサリュウ」だ。

発見から42年を経た2018年4月28日から、エゾミカサリュウが収蔵されている三笠市立博物館で、全身の復元模型の展示が始まっている。

肉食恐竜...じゃなかった

エゾミカサリュウは日本で初めて見つかったモササウルス科の化石だ。頭の一部分ではあるが、顎の部分や歯がしっかりと形をとどめており、極めて状態の良い化石と言える。

ただこのエゾミカサリュウ、現在のように貴重な存在と見なされるまでは、少々ややこしい経緯を辿っている。まず、発見当時は大型の肉食恐竜、ティラノサウルスの可能性があると指摘されたのだ。

頭部の一部だったこともあり、その前後がさまざまに想像できたためだと思われるが、この話が大きくなって日本で初めての肉食恐竜の化石とされてしまい、国の天然記念物にも指定された。

その名残は現在も国指定文化財等データベースに見ることができる。「エゾミカサリュウ化石」の解説文には、次のような記述が残っている。

「昭和51年6月三笠市幾春別川上流で転石として発見された頭部化石で、中世代白亜紀後期のティラノザウルス科に属する新属新種のものと考えられる」

「ザウルス」という表記に時代を感じる(画像は国指定文化財等データベースより)

町おこしの材料として期待され、ティラノサウルス形の復元像なども制作されたようだが、その後の調査でティラノサウルスのような肉食恐竜ではなく、モササウルスのような海棲爬虫類であることが確認された。つまり、「幻の恐竜」になってしまったのだ。

「どっちにせよ恐竜でしょ?」と思ってしまうかもしれないが、恐竜は陸に住む陸棲爬虫類のことで、海棲爬虫類は厳密には恐竜ではない。文化財データベースでも補足として「その後の研究の進展により,現在では海棲ハ虫類の化石と考えられている」との注意文が記載されている。

そんなエゾミカサリュウだが、なぜ今になって正確な復元模型を制作・展示したのか。Jタウンネットが三笠市立博物館に取材を行ったところ、担当者は次のように話してくれた。

「市民の方から博物館に寄贈の申し出があったことがきっかけです。具体的に何を寄贈するとは決まっていなかったので、三笠市で発掘された貴重な化石である、エゾミカサリュウの全身復元模型を制作することにしたのです」

展示されているエゾミカサリュウの全身復元模型(提供:三笠市立博物館)

実はエゾミカサリュウが海棲爬虫類であると確認されてから、その調査研究はしばらく停滞していた時期があり、これまで正確な全身像の復元は試みられていなかったという。発見時調査にあたった小畠郁生博士が研究を中断していたことや、国内にモササウルス科の専門家がいなかったためだ。

しかし、2000年代に入りカナダのアルバータ大学のマイケル・コールドウェル教授がエゾミカサリュウの存在に興味を持ち、小畠博士に連絡。米シンシナティ大学のモササウルス類研究の専門家・小西卓哉博士らを交え研究を進め、エゾミカサリュウがモササウルス科の「タニファサウルス」という種の新種であることを確認した。

2008年には研究論文「A New Species of Taniwhasaurus (Mosasauridae, Tylosaurinae) from the Upper Santonian-Lower Campanian (Upper Cretaceous) of Hokkaido, Japan」が発表され、「タニファサウルス・ミカサエンシス」という学名も得ている。論文には、発見者である村本喜久雄さんの名前も共著者として並ぶ。

「これまでタニファサウルスの化石は南半球でしか発見されていませんでしたが、エゾミカサリュウは北半球で発掘されています。タニファサウルスの新たな生息域の可能性を示す、学術的に貴重な化石であることが研究から判明しました」

今回の模型製作に当たっては、研究の共著者である小西博士が監修を務め、造形は高いクオリティのフィギュア制作で知られる海洋堂に所属する原型師・古田悟郎さんが担当。現時点で最も正確で緻密なエゾミカサリュウの復元模型になっているという。

ちなみに三笠市は世界でも有数のアンモナイト発掘地域でもあり、博物館のアンモナイト収蔵量もトップクラスとのこと。エゾミカサリュウはもちろん、膨大なアンモナイトコレクションも楽しんでみてはいかがだろうか。