今後のツアーでも増える? 新たな放送のかたちが見られた「サイバーエージェントレディス」(撮影:村上航)

写真拡大

「結果が先にわかってしまっては視聴率が落ちる」というのは真っ赤なウソ!?長い間、ゴルフ界に定着していたまことしやかな定説が覆された。

激戦の末、新垣比菜が初優勝を勝ち取った先週の「サイバーエージェントレディス」。その舞台裏では、今後のゴルフ中継の行方を占う試みが行われていた。初日から最終日まで通して朝8時からプレー終了までのネット中継(AbemaTV)と並行して、地上波(テレビ東京)が放送され、しかも、最終日は録画中継だったのだ。つまり、ライブのネット中継で結果がわかっているのに、16時からの地上波で録画中継が行われていたことになる。
日本のゴルフ中継は、テレビ局の都合から結果がわかる最終日に録画で放送されることが圧倒的に多い。女子では、スポンサーについて考えなくていいNHKが放送する「日本女子オープン」や、2週前の「フジサンケイレディス」などのように、ライブで見られる試合もあるが、ごく一部に限られている。
インターネットの普及により、徐々にネットでのライブ中継は増え始めたが、特に最終日に地上波とバッティングするとライブではできなくなってしまったのがこれまでの例だった。ここで使われたのが「結果がわかってしまうと(録画中継の)視聴率が落ちるから」という理論だった。テレビの録画中継を慮って、LPGAオフィシャルウェブサイトのスコア速報が途中でストップし、ファンが“お預け”をくらわされるのも同じ理由からだ。
しかし、今回、初めて“ファンファースト“ともいえる決断が下された。ライブのネットTVが先に結果を伝え、地上波ではテレビ東京が午後4時から録画中継で編集したものを流した。
これまでのロジックでは、録画中継の視聴率は下がるはず。だが、やってみたらそんなことはなかった。昨年最終日の視聴率3%を上回り、5.9%を記録したのだ。これで「結果が先にわかってしまっては視聴率が落ちる」という定説は、根拠のないものとなってしまった。
もちろん、これはたった1つのサンプルに過ぎず、他のケースはどうだかわからない。しかし、“保険”のように使われてきた“定説”をぶち壊す最初の一太刀としては十分といっていいだろう。
もちろん、視聴率は様々な要因に左右される。大きいのは、天候や景気など、人々が休日に外出するかどうか。その時間に家でテレビを見る状況にあるかどうかは大きな違いだ。それ以外にも、これまでさんざんいわれていた裏番組との兼ね合いや試合展開、優勝者というのがあるが、すべての状況が全く同じになることはないので、ハッキリしたエビデンスが得られることはない。
大会主催者の一翼を担うテレビ東京が了承して、初めて実現した今回のネットTV→地上波録画中継の変形リレー。ネットTVのビューワーも昨年比約130%と増加しており、“ウィンウィン”の結果となった。
人々のライフスタイルが多様化し、利用する媒体も複合的だ。テレビとネットの併用は当たり前。「外出先でネット、帰宅後にゆっくりテレビで録画放送を見る」というゴルフファン像もイメージできる。テレビとネットが利権を奪い合うのではなく、それぞれの道を探り、上手にすみ分けすればいい。ネットしか見ない人もいれば、テレビしか見ない人もいる。地上波も録画なら録画なりの番組作りをすれば、結果がわかっても見る人はさらに増えるに違いない。今年のサイバーエージェントレディスは、その成功例のパイオニアといっていいだろう。
テレビ局や広告代理店、スポンサーなど各トーナメント関係者の調整とネット中継資金確保という“面倒な大仕事”を乗り越えてでも、この新しい中継スタイルはやる価値がある。ツアーにとっても、関係者全体にとっても最も大切なファンのために、ぜひ、追随する大会が増えて欲しいものだ。
ただひとつ、マヌケだったのは、いつものようにLPGA公式ウェブサイトの試合速報(リーダーボード)がストップしてしまったこと。すぐ横にネットTVの『生中継中』リンクが貼ってあっただけに、全く意味のないものになってしまった。(文・小川淳子)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

【写真】同期から涙の祝福を受ける新垣比菜
【小川淳子の女子ツアーリポート“光と影”】大人の事情!?ファン置き去りの速報ストップ
【石川遼・復活優勝へ】自身とツアー再起のために思う「ファンに喜んでもらうこと」
石川遼も試した新パターが女子メジャーで初お目見え!上田桃子、イ・ボミ、キム・ハヌルらがテスト
石川遼がテストするオデッセイ『EXO』パターって何?