猪口 真 / 株式会社パトス

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ロジスティクスとマーケティング。ロジスティクスを単に物流ととらえると、この領域・業態は対局にあると考えてしまうのが通常だろう。

マーケティングはビジネス(商流)の最初であり、物流は最後。物流の領域に進んだら、ビジネスプロセスはほぼ終わっている、というわけだ。

物流ではなくロジスティクスととらえてみよう。ロジスティクスとは、もともと軍事用語であり、いかに戦いの現場に効率的、効果的に物資を届けるかという意味を持つ。経営戦略においてロジスティクスといえば、資産・資源の効果的な配置ということになる。

さらに、物流としての機能を合わせれば、顧客のところに、いかに効率的・効果的に届けるかということになるわけだ。

そう考えれば、ロジスティクスを無視したマーケティングなどありえないほど密接したものだとわかる。

Amazonに代表される即日発送は顧客のニーズを確実にとらえたし、倉庫内のピッキングシステムは他社の追随を許さない。Amazonのロボティクス戦略をいまやどこもかしこもまねている。

eコマース企業を中心に、日本企業も負けてはいない。ヨドバシカメラは注文した商品は店舗で受けとることができるし、青山では指定した店舗で試着もできる。ユニクロは、柳井さんの肝いりで有明にセンターをつくり、マーケティング、商品開発、ロジスティクスを一か所にまとめた。ZOZOTOWNも、ロジスティクスに関してさまざまな施策を仕掛ける。

ニトリやジャパネットも子会社のロジスティクス会社への投資を拡大させ、経営戦略の大きな優先項目となっている。

アメリカでは、物流業務の責任者をCLOと呼ぶそうで、経営者としてのポジションにいる。

それほど、物流ロジスティクスが重視されているということだ。

なぜこれほどロジスティクスが重視されているのか。これまでマーケティングといえば、顧客へのリーチと購買までの領域のことだった。

eコマースへの誘導、購入までのコンバージョンをKPIにして追いかけていた。言ってみればデータはそこにしかなかったからであり、ユーザーが「ポチ」ったあとは何も追いかけることはできなかった。

ロジスティクスとは、戦地に物資を届けるわけだから、時間、コスト、現地のニーズ、すべてに正確に応えなければならない。失敗は許されない。さまざまなデータによる分析とリアルタイムの意思決定が不可欠だ。当然、ロジスティクスにはAI、IoTを含んだITが不可欠だ。

倉庫内には、購買データにもとづいた入荷された商品が並び、配送頻度の高い製品が前に出され、スピーディーに配送される。配送トラックには「デジタコ」が装備され、顧客との「ラスト1インチ」までデータ化される。そうして集められたデータは、かつてマーケティングで集められたデータとは質も量も異なる。

ただし、荷主企業1社では、こうしたデータを集積し、分析し、戦略として構築するのは簡単ではない。

それを可能にしたのは、3PL企業だ。それまで荷主企業は、大きな投資をし、試行錯誤を繰り返しながら物流システムを作り上げてきたわけだが、3PL企業というプロのロジスティクスカンパニーが現れ、ITによるロジスティクス戦略を大きな投資も必要なく導入できるようになった。

そしてロジスティクスの豊富なデータを活用することができるようになった。

しかし、日本ではロジスティクス領域のデータが蓄積され、本格的に活用され出したのはごく最近だ。大手通販企業にしても、ロジスティクスの豊富なデータを十分に活用できているとはまだお世辞にもいえないだろう。

トラックドライバー不足、労働者不足が叫ばれるロジスティクス業界だが、本当に不足しているのは、ロジスティクス領域にある大量のデータを経営戦略へと落とし込むことができる戦略立案者だ。

この先、間違いなくロジスティクスを起点としたマーケティング戦略が必要になる。ロジスティクスを起点とするマーケティングは始まったばかりだ。