開発購買は何故上手くいかないのか?-その2-/野町 直弘
前回に続き今回も開発購買について述べます。
前号では開発購買の定義を「開発段階」での「購買(的)活動」である、と定義づけました。また従来からの開発購買推進上の課題として2つのギャップを取り上たのです。一つは意識のギャップでありもう一つは仕組みのギャップです。また、これらのギャップを解消することが難しい理由として主語(誰)が明確でないことを上げました。
今回はこのように多くの企業が上手くいっていない開発購買が比較的上手く機能している企業や活動について取り上げます。
まずは私の経験談から。私は大学卒業後、自動車会社に入社し購買部門を若い時に経験しました。その自動車会社では当時開発購買という言葉は使われていなく「原価企画」という言葉が使われていましたが「原価企画」はバイヤーにとってあたり前の活動だったと記憶しています。
当時のバイヤー担当者としての主要な業務は新製品開発とそれに係る原価企画活動であり、あとは原価低減活動でした。原価低減活動というのは毎期のコスト削減です。年次原低目標が設定され、それを達成すべくサプライヤと交渉をしていたことを思い出します。
一方で新製品開発と原価企画活動では自分の担当分野の設計部長・課長とは常に対話していました。設計からはサプライヤの新技術や工法についての問合せを受けたり、自ら設計部署に対して、こういうサプライヤのこういう技術を使ってみたらどうか等の提案活動もやっていました。
具体的には特急でこういう部品を作りたいがどのサプライヤでどういう工法にすればよいか等の相談や、そもそもこの図面でつくれるかという相談なども多くあったことを記憶しています。こういう相談を受けたり、コミュニケーションを取ることはバイヤーにとって当たり前のことでした。また新製品開発への関わりではDR(デザインレビュー)だけでなく木型レビューにも参加していました。木型レビューというのはデザイナーが意図した意匠図を実現するために正式金型の製作のために木型を作るのですが(近年はCADや3Dプリンターの発達で木型を作らないことも多いようですが)これをデザイナー、設計、サプライヤの技術者などでチェックするレビュー会になります。私はまだ若いバイヤーで新製品開発がどのように進められているのか知りたいこともあり、木型レビューに参加しましたがチーフデザイナーに木型レビューにバイヤーが参加したのは始めてだと言われた位でした。
多くの自動車メーカーのバイヤーはこのような設計開発部門とのコミュニケーションに力を入れています。何故でしょうか。それは「新製品開発の段階でしかコストが大幅に下がることはない」と知っているからです。日々原価低減活動などをやっていて私もこの制約を実感していました。
こういう制約を感じていたから自ら進んで開発上流段階に入り込んでいくのです。このように多かれ少なかれバイヤーがこのような開発購買的活動をすることはあたり前だったのです。このようなやり方が定着していれば冒頭の2つのギャップは生じません。しかし、このやり方は属人的な開発購買のやり方と言えるでしょう。
次はある企業事例です。この企業は開発担当役員が購買担当役員を兼務することをきっかけにして開発部門と購買部門を同じ部署にしました。この企業の業界は製品開発と素材開発が分かれており、同じ部署になったのは素材開発と購買部門だったのです。従来は使用原料も偏りがあり、製品開発が一度使用原料を決めてしまうと中々代替原料を活用することは難しかったのが実態でした。
それに対して素材開発と購買部門が同じ部署にしたことで原料選定に関する社内での力も強まり、調達性やコストなどを考慮した原料採用が進んだのです。
当初は同じ部署でも開発と購買は異なるチームでスタートしました。その後開発・購買担当者が2人でセットになり開発購買的活動を進めていったようです。今では開発も購買も同じ人がやる、という機能進化をしているようです。いずれにしても前述した2つのギャップを取り払うための仕組みを上手く作っていると言えます。
今回は開発購買が比較的上手く進んでいる事例について取り上げてきましたが、ここに共通するのは「主語を作る」ということです。自動車業界の事例は購買部門が属人的ではありますがその役割を担っています。二つ目のケースは同じ部署となった開発購買部門がその役割を担っています。
このように如何に活動の主体となる組織、人員を生み出していくかが、開発購買を推進していく上で重要であることが分かっていただけたのではないでしょうか。
次回は開発購買の進化についてトヨタ自動車の原価企画活動についてとりあげていきます。