100m走が10分!? 為末大さんが語る「スポーツで稼ぐ」とは/LEADERS online
スポーツ選手のセカンドキャリア
タケ:
現在の活動について教えて下さい。
為末:
現在の活動の半分はメディアなどでの個人活動、もう半分はスポーツに関する事業を請け負っている会社としての活動です。
イベントや新豊洲にある施設の運営をこなす一方で、最近は『Deportare Partners』というプロジェクトをスタート。これは協会・選手・スポーツビジネスの担当者など、各セクションごとに分かれているものの橋渡しをする役割で、こうしたスポーツのプラットフォーム作りに邁進しているのだそうだ。
例えば、卓球のプロリーグでは、立ち上げチーム、メディアのチーム、選手の3者がシェアオフィスをしており、一緒になって話をすることで、色々と「これをやってみよう」というのがアイデアが出てくるのだという。
しかし為末さんは、最初から今の活動を思い描いていたのだろうか。
タケ:
引退後のセカンドキャリアは、どのように考えましたか?
為末:
僕も悩んだ時期はありました。大事なのは、期待値を下げることですかね。
為末さんは、自分がスターでいる時期があったので、電車に普通に乗るのも気恥ずかしい時代があったという。しかし、ゼロからスタートするのは、その点に苦労したのだそうだ。
タケ:
現役から準備しておくことってありましたか?
為末:
唯一、現役のときに言えることは、知り合いを紙に書いてみて、半分以上がスポーツ関係者だったら、アラートを鳴らしてスポーツ以外の関係者を増やせということです。
自分で知り合いのバランスを整えることが大切なのだそうだ。話す内容が違って、そこから新たに見えてくるものがあるためだ。
為末さん自身も、考えているつもりだったが、リアリティを持ったのは引退してからだったと振り返る。もし、本気で考えるなら、漠然とでもいいので現役、それも高校生くらいの頃から考えた方が良いとも加えた。
為末流リーダーシップ
タケ:
現役引退後、さまざまな活動をされていますが、新しいことを思いつくのはどんな時ですか?
為末:
常に考えています。社員からは“思い付きやめてくれ”、と言われていますけど(笑)。
特に、全然ジャンルが違う人と喋るとアイデアが出るのだという。例えば、以前訪れた「子ども学会」では人工知能の学者も一緒に「学ぶとは何か」と話しているのを見たが、そのとき自分の頭が膨らんでいくのを感じた為末さん。
「これはアスリートに置き換えられないか?」と感じたという。というのも陸上界には陸上界の人しかいないのが当たり前。しかし、アシモなどのロボット学者や脳神経学者、二息歩行の研究者が揃ったら各界に理解が深まるのではと考えたそう。
ただ、思いついても現実的になるまで話さないのが為末流だ。
これまでに複数のプロジェクトを立ち上げてきた為末さん。その中で特に形になって喜ばれているのは、新豊洲のスポーツの施設だと語る。室内を障害がある人でも楽しめ、現在も来場者の2割は障害者。こうしてたくさんの人を巻き込んで動かしてきた為末さんの核となるものは何なのだろうか?
タケ:
リーダーシップに必要なこと、何が必要でしょうか?
為末:
飲み会の作法は重要ですね(笑)。あと、うまくいかないプロジェクトは、自分の欲を隠しているものでしょうか。
最初に『僕は、お金が欲しいんだ!』と言って、相手もこれが欲しいと言って、本音のところでお互いに話し合うのが大事ですね。“こういう人が具体的に喜ぶ”というものが見えている方が人を巻き込みやすいという印象がありますね。
陸上界がこれからたどるべき道
選手としてだけでなく、運営としての視点も持つ為末さん。彼の眼に、現在の陸上界はどのように映っているのだろうか?
タケ:
陸上界の現在の課題を言うとすると何でしょうか?
為末:
それは稼ぐことですね。スポーツ界は補助金が入っています。2020年まではその額が膨らみますが、その先は激減すると思います。だから、2020年までにどうやって自前で稼げるようになっているか。それが2020年以降生き残れる協会になるかどうかを決めると思います。
人気があるうちに、陸連が自前で稼ぎ、補助金の比率を小さくする。今は放映権やスポンサー契約を収入源にしているが、他にもグッズの販売など色々ある。アメリカのスポーツビジネスには、日本ではやっていない領域がまだまだあり、その分稼げる可能性は十分にあるのだそうだ。もちろん、これは陸上以外のスポーツにも言えることだ。
しかも陸上選手を見ると、男子100mの桐生選手や、リオオリンピックのリレーでのメダリストもいるという、またとないチャンス。さらに為末さんはこんなことも教えてくれた。
為末:
ひとつ、海外でいいなと思ったのは、100m走の決勝が10分くらいあったんです。
本来なら数秒で終わる競技のはずなのにと疑問を感じる人も多いだろう。その決勝はショー化していたのだ。
選手の紹介はスポットライトを浴びせて行い、スタート前の緊張の瞬間には心臓の音が「ドクンドクン…」と鳴る演出。静寂が広がるスタジアムに、スタート合図が鳴り響き、ゴールまで導かれるようにレーンがパッとライトアップされる。その10分間は見ていて全く飽きなかったそうだ。
選手はいつも通りだが、演出の面でいろんな見せ方をする可能性・領域を感じたのだという。さらに為末さんはこう続ける。
為末:
スポーツは遠くから見た方が良いものと、近くで見た方が良いものの2つあって、陸上は圧倒的に後者なんです。
100m走は時速にすると40km。走り高跳びは電話ボックスの高さを跳ぶ。三段跳びは渋谷のスクランブル交差点の距離と同じ。どれも近くで見た方が良い。けれど、競技場のスタンドからでは遠いのが現状だ。
まずは良さを知ってもらいたいという考えから、丸の内のど真ん中での「ストリート陸上」を開催したのだそう。それをきっかけに、競技場に来てほしいと願っているという。
今まで様々なムーブメントを起こしてきた為末さんならではの考えだ。ただ、注目度を上げるために欠かせないのは、強い選手の存在。その点について為末さんはどのように考えているのだろうか。
タケ:
日本の陸上界が強くなるにはどうしたらいいでしょう?
為末:
アメリカのサンディエゴのオリンピックセンターで練習していたことがありますが、そこにはアメリカ人以外が3〜4割いました。
日本ではなかなか、考えづらい光景である。「高いレベルの人がいれば周りもレベルが上がるから」なのだとか。強い選手が自然に生まれ、育てるシステムを作ることで、レベルの高い人が集まり、その分また強い選手が生まれやすい環境となる。
例えるなら、錦織選手がもう一回生まれてくることを期待するより、IMG(スポーツアカデミー)を作った方が良いということ。どの国から来ても強くなれるシステムがあれば、結果として日本の選手も強くなるという原理なのだ。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
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パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月〜金 8:40頃〜)
【転載元】
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