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ジュンク堂書店が「大型店であること」にこだわる理由とは?

「現場では役に立たない社長だ」と公言してはばからない工藤氏であるが、経営者としては次々に大きな変革を書店業界に起こしている。今では当たり前になっているPOSシステムを書店業界で初めて開発したのも工藤氏だ。

「ファミリーレストランで友人と朝ご飯を食べていた時、ウェイトレスの方が注文を取った後で小さな機械から注文票を印刷しているのを見て、これは本屋で使える!と、そう思ったんです」

同席していた友人の中にそういった機械に詳しいものがいたこともあって、その後一か月で開発に成功した。

それまでは、書店員の負担が大きかった。本に挟まれているスリップと呼ばれる紙を集めてデータを読み取って、さらにノートに書いていく。非効率で時間もかかる。スリップを読み取る機械を導入している書店もあって見学もしたが、費用や設置場所などの点で導入は難しいなと感じていた。

「頭の中がスリップのことでいっぱいの時期だったんです」

そんな工藤氏だったからこそ、ファミリーレストランでのふとした瞬間に「これだ!」というひらめきを得ることができたのだろう。

大型書店であることにも特別の思い入れを持って展開を続けている。その理由を工藤氏は「どこに行っても、ここにしかないという店をやっている方が喜ばれるから」と、沖縄での大型書店開店の際のエピソードを聞かせてくれた。

「それまで沖縄には、大型店は無かったんです。オープン初日にはたくさん人が詰めかけて、レジが一時間待ちとなるくらいの行列ができました」

その様子には現地の人たちも驚いて「沖縄で、こんなに人が並んでいるのを初めて見ました」なんて声も聞かれたそうである。
当時、沖縄の書店への雑誌の配送は船便だったので書店に並ぶのは発売日から5日遅れになることもあると知って、工藤氏はすぐに経済誌はエア便で送るという決断をしている。

「これでまともに本が買えるようになった」と喜ぶ人たちの顔を見て、大型店をやっているからこその嬉しさをひしひしと感じた。「感謝される仕事というのは、嬉しいものです」

「大型書店を日本全国の各地域に作っていこう、残していこう」。その想いの強さが、丸善との経営統合の道につながった。

街の本屋さんが無くなって無書店地域になってしまった自治体が全国で増え続けているというニュースに工藤氏は心を痛めている。

「本が手軽に手に入らない地域ができてしまっている。街の本屋さんを復旧させないといけないし、コンビニでもいいから本を置いてほしいと思います」

そして、それと並行する形で「大型店も必要なんです」。大型店の魅力は、とにもかくにも品ぞろえの豊富さだ。

「一年に一冊しか売れないような本も、大型店には置いています。これは、在庫をどんどん回転させていかなければならない小型店にはできないことで、大型店ならではの強みです」

読書とは、宝探しだ!

ネットで効率よく本を買うことを、工藤氏は否定しない。

でも、「リアルな本屋の楽しさ」をもっと多くの方に、実際に大型店に足を運んで感じてもらいたいと願っている。

「本屋さんの中を歩いていると、本が語り掛けてくるんです。私を見てくださいとでも言っているようです。で、ふと見ると、全然予定していなかったジャンルの本と目が合うなんてことも多い」と、本当に嬉しそうに語る工藤氏に、読書好きのタケも大きくうなずく。

「ジュンク堂書店のお店は、どこも背の高い本棚がずらっと並んでいて本好きにはたまらない雰囲気ですよね」と言うタケに、「以前視察で行ったアムステルダムの大型書店のディスプレイがかっこよかったんで、それを真似しました」と教えてくれた。天井まで届く本棚に、ずらりと並ぶ本。「品ぞろえを中心とした本屋である」ことが一目でわかる。

ジュンク堂書店では「お客様が探している本は必ずお渡しする」ということを大切な約束として守っている。

「うちになければ、図書館を案内したり、別の書店さんにある場合はそちらをお教えしたりすることもあります」

別の書店を案内?なぜそこまでできるのか?という問いには、こうキッパリと答えてくれた。

「わざわざ時間と交通費を使ってジュンク堂書店まで本を探しに来ているというのは、本当にその本を必要としているから。それでも棚に見つけられなかったら黙って諦めて帰る人が大半なのに、わざわざ『探している』と頼んでくるというのはよほどのこと。本屋はその気持ちにこたえて、その本をお渡しする義務があると思っています」

本を探している人にとってジュンク堂書店は最後の砦であるという自負がこう言わせるのだろう。

「それはもう、当然やらないかんことです」
ジュンク堂書店の書店員は、本が好きと言うだけではなく「本の値打ちが分かる人」ばかりだ。本の持つ力、可能性。

「本というのは、ものすごく価値のあるものなんです」

いろんな著者の本を読んでいるうちに思いもしなかった意見に触れたり、フーンと感心したり。もちろん笑ったり泣いたり、びっくりしたり考え込んだりもする。

「本のおかげで、そういうものが少しずつ積もっていって自分の思考ができていく。それが読書というものだと思います」

読書というのは宝探しみたいなものだ、と語る工藤氏は、最後にこう付け加えた。

「だから、本屋さんには宝がたくさんうずもれています」

さあ、早速今日の帰り道、「宝探し」をしに本屋さんに出かけてみませんか?

◆丸善ジュンク堂書店会長・工藤恭孝氏のインタビュー前編はこちら⇒これからも書店は必要? ジュンク堂が「本屋で良かった」と語る理由

文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。音声で聞くには podcastで。
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【転載元】
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