南フランス・プロヴァンス地方の歴史の街、フレジュス。カエサルによって築かれ、ローマ時代にはこの地域で最も重要な港として発展しました。1万人を収容できる円形闘技場や古代劇場など、今もかつての繁栄の置き土産が残っています。

そんなフレジュスの街のはずれに、ジャン・コクトーが生涯の最後に装飾を手掛けた礼拝堂があります。正式名を「Chapelle Notre-Dame de Jerusalem」といいますが、「シャペル・コクトー(コクトー礼拝堂)」の呼び名で親しまれています。

ジャン・コクトーは1900年代に活躍したフランスの芸術家。詩人、小説家、劇作家、画家、映画監督など、多方面でその才能を発揮しました。

コクトーは1961年にこの礼拝堂の装飾に着手しますが、1963年、未完のままこの世を去ります。エドゥアール・デミがコクトー亡き後の装飾を引き継ぎ、1965年に完成させました。

街はずれにあるコクトーの礼拝堂へは、バスまたはタクシーで。本数が少ないので、バスを利用するならあらかじめ時刻表を確認しておきましょう。可能であればレンタカーを借りて、近郊の見どころとあわせて周るのもおすすめです。

車が入れない森のなかにひっそりとたたずむ礼拝堂。

小さな石造りの建物は、有名な礼拝堂にしては意外なほどに質素な印象を受けます。

八角形の礼拝堂の内部に足を踏み入れると、壁と天井いっぱいに淡い色調のフレスコ画が広がります。

青いタイルに、パステルブルーやパステルイエローの絵画・・・海の中を思わせるような幻想世界が展開されています。

こじんまりとした空間ながら、一瞬にして「コクトー・ワールド」に引き込まれてしまうはず。

礼拝堂内に描かれているのはおもにキリストの受難と十字軍の物語。キリスト教を題材に描いたフレスコ画とはいえ、ほかの多くのヨーロッパの教会に見られるフレスコ画とはまったく異なる作風です。

どこか漫画を思わせる、コクトーのモダンで独創的な筆致はじつに斬新。ユーモア漂う、色鮮やかなステンドグラスにも目を奪われます。

とっつきにくい印象のあるキリスト教美術が、ぐっと身近に感じられませんか?

森のなかにたたずむ厳かな礼拝堂に展開する、どこかポップアートのような自由な創造性にあふれたコクトーの作品たち。

この意外性は、美しい風景や自由なムードが多くの芸術家たちに愛された南フランスならではといえるでしょう。

木々のあいだを歩いてたどり着いた礼拝堂で、自らがまるごとアート空間に取り込まれる。美術館で絵画を鑑賞するのとはまた違った、全身で感じるアート体験をしてみませんか。

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名前 Chapelle Notre-Dame de Jerusalem
住所 Route de Cannes, 83600 Fréjus
電話 +33 4 94 53 27 06
拝観時間 4〜9月:9:30〜12:30、14:00〜18:00、10月〜3月:9:30〜12:00、14:00〜16:30