「べっぴんさん」87話。新入社員に残業させたね
連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第16週「届かぬ心」第87回 1月17日(火)放送より。
脚本:渡辺千穂 演出:安達もじり
新入社員に提案を求めた結果、かわいい絵を描いたほうの中西直政(森優作)が、おすすめセットをつくるという冴えたアイデアを出し、さっそく商品化される。ちょうどその頃、大急社長(伊武雅刀)がキアリスに、一階のいい場所で夏の展示を任せたいと言ってきて、すみれたちは奮い立つ。
いつもは、映像にテロップが乗るパターンだが、突如、シンプルに「連続テレビ小説」と出て、急にシリアスなモノクロ写真(すみれと紀夫とさくらの歩み)に。それから、暗い応接間で語り合うすみれ(芳根京子)と紀夫(永山絢斗)とさくら(井頭愛海)という、舞台の劇場中継みたいに撮っている画面が出て来てから、いつものふんわりした画面に戻って、朝、家族3人がいっしょに朝ごはんを食べることになったという流れ。そこからいつものタイトルバック。
舞台の劇場中継みたい画とふんわりした画は、家族の裏表のようで面白かった。でも、そういうドラマでしたっけ? そういうドラマになるのかしら。
おっとりした中西が良い商品アイデアを出し、調子のいい西城(永瀬匡)が外してくるというのは想定内ではあったが、その提案が「職場では私語を謹んだほうがいいと思いました」で、すみれと良子(百田夏菜子)の問題を蒸し返すとはやってくれる。
現実的に考えたら蒸し返すのは良くないけれど、ドラマとしては、蒸し返してくれてよかった。ふたりが喧嘩していたと言われ、「喧嘩・・・」「喧嘩やないわ」と反論してみたり(喧嘩やろ)、そこへ渦中の龍一(森永悠希)がやってきて「ほんまに間が悪いわ」と良子が肩を落とし、さらに「(すみれに)“文句”言われたって」と言われて慌てるという、こういうトラブルシーンを描かせると渡辺千穂の筆は生き生きする。
森永悠希のかき回し方がうまい。十代の役にしては手練過ぎるかなと思ったけれど、えなりかずきが演じる大人子供みたいなタイプを演じていると思えばナットクできる。
手に抱えてもつだけでかっこいいエイスの紙袋、VAN の紙袋のオマージュになっていてなつかしい!と思ったひとも多いのではないだろうか。一大アイビーブームをつくったブランドだし、消費文化の先端だし、もしかしたら、ファミリアよりもVAN に反応する視聴者のほうが多いかも。のちにデザイナーズブランドブームが起こったときブランドのロゴ入りの袋がステイタスになったものだが、VANがその走りだったってことだ。
ドラマがそろそろ終わる13分頃から、さくらの横顔にまた新たな不穏な音楽がかかる。で、また、舞台中継みたいな応接セット場面。母親(すみれ)が仕事に追われている間に、思春期の娘の心が徐々に(理想の家族の)軌道を外れていくイメージだろうか。でも、落書きはかわいかった。
「心のなかで思うだけでは気持ちは届きません こんなときこそ本当は立ち止まるべきなのです」(語り/菅野美穂)
お祝いセットをつくるために時間外労働を強いるすみれに、西城は予定を入れているので、と断る。
現実社会ではちょうどいま労働時間問題が取沙汰されているところ。いまの価値観で言ったら、西城は悪くない。すみれたちは好きなことは労を惜しまずやっているから気にならないが、仕事と割り切っているひともいるものだ。すみれだってさくらの約束を守るために仕事を切り上げるという選択をしてもいいわけで。
「べっぴんさん」は、いわゆる仕事と家庭の二者択一だけでなく、仕事と好きなこととの差異とは何かを描いているところが興味深い。娘のさくらは、仕事と私とどっちが大事なの? と問う以前に、そもそも、母には娘よりも好きなものがあるという事実に傷つくのだ。
なにかと不穏な15分のなか、紀夫くんが、お祝セットの箱の蓋に貼ってあるセロファンをのぞきこむ仕草に和んだ。
(木俣冬)
脚本:渡辺千穂 演出:安達もじり
87話はこんな話
新入社員に提案を求めた結果、かわいい絵を描いたほうの中西直政(森優作)が、おすすめセットをつくるという冴えたアイデアを出し、さっそく商品化される。ちょうどその頃、大急社長(伊武雅刀)がキアリスに、一階のいい場所で夏の展示を任せたいと言ってきて、すみれたちは奮い立つ。
はじまりかたにびっくり
いつもは、映像にテロップが乗るパターンだが、突如、シンプルに「連続テレビ小説」と出て、急にシリアスなモノクロ写真(すみれと紀夫とさくらの歩み)に。それから、暗い応接間で語り合うすみれ(芳根京子)と紀夫(永山絢斗)とさくら(井頭愛海)という、舞台の劇場中継みたいに撮っている画面が出て来てから、いつものふんわりした画面に戻って、朝、家族3人がいっしょに朝ごはんを食べることになったという流れ。そこからいつものタイトルバック。
舞台の劇場中継みたい画とふんわりした画は、家族の裏表のようで面白かった。でも、そういうドラマでしたっけ? そういうドラマになるのかしら。
職場では私語を謹んだほうがいいと思いました
おっとりした中西が良い商品アイデアを出し、調子のいい西城(永瀬匡)が外してくるというのは想定内ではあったが、その提案が「職場では私語を謹んだほうがいいと思いました」で、すみれと良子(百田夏菜子)の問題を蒸し返すとはやってくれる。
現実的に考えたら蒸し返すのは良くないけれど、ドラマとしては、蒸し返してくれてよかった。ふたりが喧嘩していたと言われ、「喧嘩・・・」「喧嘩やないわ」と反論してみたり(喧嘩やろ)、そこへ渦中の龍一(森永悠希)がやってきて「ほんまに間が悪いわ」と良子が肩を落とし、さらに「(すみれに)“文句”言われたって」と言われて慌てるという、こういうトラブルシーンを描かせると渡辺千穂の筆は生き生きする。
森永悠希のかき回し方がうまい。十代の役にしては手練過ぎるかなと思ったけれど、えなりかずきが演じる大人子供みたいなタイプを演じていると思えばナットクできる。
手に抱えてもつだけでかっこいいエイスの紙袋、VAN の紙袋のオマージュになっていてなつかしい!と思ったひとも多いのではないだろうか。一大アイビーブームをつくったブランドだし、消費文化の先端だし、もしかしたら、ファミリアよりもVAN に反応する視聴者のほうが多いかも。のちにデザイナーズブランドブームが起こったときブランドのロゴ入りの袋がステイタスになったものだが、VANがその走りだったってことだ。
また出た不穏な劇伴
ドラマがそろそろ終わる13分頃から、さくらの横顔にまた新たな不穏な音楽がかかる。で、また、舞台中継みたいな応接セット場面。母親(すみれ)が仕事に追われている間に、思春期の娘の心が徐々に(理想の家族の)軌道を外れていくイメージだろうか。でも、落書きはかわいかった。
「心のなかで思うだけでは気持ちは届きません こんなときこそ本当は立ち止まるべきなのです」(語り/菅野美穂)
労働問題をどう解決するのか
お祝いセットをつくるために時間外労働を強いるすみれに、西城は予定を入れているので、と断る。
現実社会ではちょうどいま労働時間問題が取沙汰されているところ。いまの価値観で言ったら、西城は悪くない。すみれたちは好きなことは労を惜しまずやっているから気にならないが、仕事と割り切っているひともいるものだ。すみれだってさくらの約束を守るために仕事を切り上げるという選択をしてもいいわけで。
「べっぴんさん」は、いわゆる仕事と家庭の二者択一だけでなく、仕事と好きなこととの差異とは何かを描いているところが興味深い。娘のさくらは、仕事と私とどっちが大事なの? と問う以前に、そもそも、母には娘よりも好きなものがあるという事実に傷つくのだ。
きょうの紀夫くん
なにかと不穏な15分のなか、紀夫くんが、お祝セットの箱の蓋に貼ってあるセロファンをのぞきこむ仕草に和んだ。
(木俣冬)