大原櫻子に訪れたハタチの分岐点! ミュージカル『わたしは真悟』との出会いへの喜びと期待
歌手として、心の底から楽しそうに歌う姿があまりに印象的だったからだろうか? インタビューをするまで、大原櫻子は“本能”や“感覚”で表現するタイプの女優だというイメージを勝手に抱いていた。いや、そうした部分は確かにあるのだが、一方で論理的に考え抜き、役を組み立てていく知性派女優の一面をも、言葉の端々からのぞかせてくれた。彼女にとって2作目の舞台出演作となるミュージカル『わたしは真悟』はまさに、本能を解放させることと、作品を解釈し、知的にロジックを積み上げていくことの絶妙なバランスが要求される作品である。

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.



これまで日本になかったミュージカルになる予感



――『わたしは真悟』は漫画家・楳図かずおさんの代表作を原作にしたミュージカルです。小学生の真鈴(高畑充希)と悟(門脇 麦)、そしてふたりを“両親”と認識する産業用のロボット・真悟(成河)を軸にした壮大な純愛物語です。

最初に楳図先生の原作のミュージカル化って聞いて、すごくうれしかったですね。どんな世界になるんだろう? って頭の中が「?」でいっぱいでしたが(笑)、絶対に面白い試みになるって思いました。

――ということは、もともと、楳図先生の漫画は読まれてたんですか?

大好きです! 姉がいるんですが、私とは普段から正反対のセンスや価値観を持っていて、もともとはその姉の影響もあって、楳図先生の漫画は昔から読んでいました。その中でも『わたしは真悟』をやるというのは、うれしかったですね!

――原作に対して、どんな印象を持たれてましたか?

どちらかというと、楳図先生の作品ってホラーっぽい印象が強いんですけど、その中で『わたしは真悟』は小学生の純愛を描いていて、主人公が子どもなのに哲学的。わかりやすくもあり、難しくもあり、深い内容なんだけど、読みやすくもあるんです。

――いまの時点(※取材が行われたのは、10月下旬)で、稽古が始まって数週間が経過していますが、進捗はいかがですか?

みんなで本当にゼロから作り上げていっているところですね。これまでの日本のミュージカルにはないタイプの作品になるんじゃないかと思います。



――演出はフランス人のフィリップ・ドゥクフレ氏ですね。

フィリップさんからは「とにかく、自分が思ったことを体現してみて」って言われるんです。それで、やってみたら「うん、いいね。じゃあ、それでいこうか」って。私たちはもちろん、フィリップさんもゼロから作り上げていっているという感じです。

――楽しそうではありますが…。

試される部分が大きいですよね。実際、周りは表現力の豊かな俳優さんばかりなので、いつも刺激を受けています!

――演技力以前に、発想力が求められる。

そこがすごく大きいんですよ。あとは、身体能力! フィリップさんは、もともと、振付家からスタートされている方ですし、アクロバティックな動きを求められたり、コンテンポラリーダンスの表現なんかも入ってきたりもします。



稽古期間は2カ月…作っては壊しての連続!?



――大原さんが演じるのは、悟の隣の家に暮らす幼い少女・しずかですね。

幼い頃って、感情の起伏がすごく激しいんですよね。しずかも笑ったと思ったら、次の瞬間で泣いたりするところがあります。子どもならではの素直に感情を吐露する部分は出していければと思います。絶賛研究中です!(笑)

――その一方で、子どもは大人が思っているよりもずっと賢く、理解しているという部分もありますよね。

そうなんです。しずかは、ある意味で物語の中で一番、客観的に物事を見ているところもあるし、勘も鋭い女の子です。子どもっぽさと大人の両面を見せていかないといけないんです。

――ミュージカルですから、歌で表現する部分も多いかと思います。

ミュージカルではあるんですけど…これまでエンターテイメント性の高いミュージカルを見てきた人が見たら、ちょっと感覚が変わるんじゃないかと思います。

――具体的には…。

言葉で説明するのがすごく難しいんですけど…(苦笑)。たとえば、最初の歌のパートを見て「あぁ、うまいね」みたいな感じではなく、「え? これは何…?」って(笑)。技術的に上手とか下手ではなく、もっと奥深い何かがある。ある意味、アナログだし、一方で最新の技術を使った見たこともない世界がすでに稽古場でも繰り広げられています。

――もちろん、大原さんも歌うんですよね?

歌います。でも歌というよりはセリフなんです。しかも、子どもなのでうまく歌っちゃダメ(笑)。ビブラートを掛けず、音も外してくれと言われるんです。見る人に「歌うまい!」って思われたらいけないんですよ(苦笑)。



――前作の初舞台作品、地球ゴージャスプロデュースの『The Love Bugs』もミュージカルでしたよね?

まだ2作目なのに、180度違う世界を突き付けられている感じです。前作が「キレイ」「楽しい」「素敵」といった要素のエンターテイメントを作ったとしたら、今回は「アート」、「幻想的」という感じ。人間の生々しさが描かれるし、形がキレイだからキレイ…ではなく、崩れていてもそこに美しさがあるって教えられている感覚です。

――約2カ月かけて、稽古で作り上げていくというのも、非常にぜいたくな作り方ですね。

白井 晃さんが演出協力で入ってくださってるんですけど、丸1日かけて、白井さんが稽古をつけてくださった上で「フィリップに見せて、『ダメ』と言われたら、全部なしだから」って(笑)。作っては壊しての連続です。「思うままにやってみて」と言われて、さんざん試した挙句に「ごめん、それはなし」とか……ないんか〜い!(笑)



女優を目指したきっかけはダコダ・ファニング



――これまで、出演してきたドラマや映画ともまったく異なるタイプの作品になりそうですね。

この作品が、大きな分岐点になるんじゃないかということは、感じています。20歳になって、10代の輝いてる部分を映すだけではなく、より地に足の着いた大人の作品にも出てみたいという思いがずっとあって。その第一歩になるんじゃないかと思います。

――ドラマで見せる姿や、歌手として大原さんが歌う世界観に共感し、憧れる10代の中高生がこの作品を見に来たら…。

どう感じるんだろう?(笑) 楽しみでもあるし…ちょっと怖いかな。いつも「よかったです!」「スゴかったです!」って言ってくれる子たちがどんな反応をしてくれるのか? ひと言で「面白かったです」というのとは、違う思いがありそうですよね。

――10代の頃に、そういう「何と言っていいかわからないもの」に出会うことって、すごく大事だと思います。

本当にそう思います。「何だったんだろうね…?」という感想でもいいので。



――もしかしたら、何年か後になって「あのとき感じたのは、こういうことだったのかも…」と理解することになるかもしれません。

演じている私自身も、そうなるんじゃないかなって予感があります。ただ、この複雑な世界観がミュージカルで表現されているのがスゴいところで、決してわかりにくい作品にはなっていないので、ぜひ見に来てほしいです。

――先ほど、「20歳になって」という話が出ましたが、実際、成人を迎えて変わったと感じる部分はありますか?

全然、変わってないなぁ…(笑)。あ、交友関係は広がってきたのかな? いろんな人に出会い、いろんな価値観に触れて…。でも、10代の頃は「すべてが栄養だ!」という気持ちで全部受け入れようとしていたけど、20歳になって、自分なりの軸ができて、それに沿って、取捨選択をするようにはなってきたかなと思います。

――女優としての活動と歌手としての活動、どちらにも力を注がれていますが、ご自身の中で、ふたつの仕事は分けて考えているんでしょうか?

そこはあまり分けていなくて、相互に影響を与えているなと思います。お芝居をやれば、それが歌での表現力につながるし、歌をやってからお芝居に入ると集中力が高まったり、お互いに高め合えるふたつのお仕事だと捉えていますね。



――そもそも女優になりたいと思ったきっかけは?

小学生のとき、ダコタ・ファニングさんの出ている映画を見て、すごく素晴らしくて、私もやりたい! って思ったんです。

――ダコタはほぼ同世代ですよね? そのとき見た映画は…?

ロバート・デ・ニーロさんが主演の『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』という映画です。同世代だったからこそ、「私もこんなことやってみたい」って思えたんでしょうね。

――女優と歌手。いまではどちらも仕事になっています。

ただ、自分の中で“お仕事”って感覚はいまだになかなかないんですよね。幸運なことですが、仕事として何かを犠牲にして…という感じではなく、好きなことを好きだからこそやらせてもらえているなと思います。「お仕事=やらなきゃいけない」ではなく、好きだからこそ、やれているんだなと感じています。