今年の近畿を盛り上げたのはどこだ!?小中記者が振り返る2016年近畿の高校野球

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 今年の夏、甲子園で頂点に立ったのは作新学院、準優勝は北海だった。共に好投手を擁し決勝まで勝ち上がったが、49代表が出揃った時点での戦力評価はどちらもBもしくはC。優勝候補と見られていた履正社、横浜、東邦などがベスト8を前に姿を消す中、決して前評判の高くなかった2チームが日本一の座を争った。本命が敗退し伏兵が躍進を見せる、この傾向は今年、甲子園だけでなく関西でも顕著だった。

2強に割って入った滋賀学園

神村 月光(滋賀学園)

 滋賀の強豪と言えば、近江と北大津。この2強の名前がすぐに浮かぶが、そこに滋賀学園が割って入った。昨秋の近畿大会では準優勝。決勝では大阪桐蔭をあと1歩のところまで追い詰め、選抜では8強に進出。神村 月光(2年・関連記事)、後藤 克基(2年)の下級生バッテリーを中心に個性派揃いの打線も機能した。しかし春は光泉が制し、夏の決勝に進出したのは高島。優勝候補筆頭だった戦力充実の滋賀学園でさえ勝ち上がるのは容易ではなかった。

 特に今年の夏は後にドラフトで横浜DeNAから指名される近江の京山 将弥(3年・関連記事)を筆頭に140キロオーバーのストレートを投げ込む本格派投手が多くいるハイレベルな争いが繰り広げられた。秋の決勝は近江対滋賀学園という順当な顔合わせとなったが、試合は延長14回の熱戦の末、滋賀学園が1点差で勝利。どこが優勝するにしてもぶっちぎりで勝つことは難しい。優勝候補はいても不動の大本命は不在という戦国時代の様相を呈してきた。

楽しみな1年生が多い兵庫

吉高 壯(明石商)

 滋賀学園と同じく昨秋の近畿大会、今年の選抜で一気に全国区となったのが明石商。スプリットを武器とするエース・吉高 壯(3年・関連記事)、本格派右腕・山崎 伊織(3年)、綺麗な回転のストレートを投げ込む三浦 功也(3年)、テンポ良く打たせて取る西川 賢登(3年)と主戦級の投手がズラリと並んだブルペンは圧巻で、12月末になってもガンガン投げ込みを行っていた。夏は決勝で敗れ惜しくも準優勝に終わったものの、昨秋から県内では負け無しの連勝街道を突き進みその地位を不動のものにした。

 その明石商に競り勝ち33年ぶりの優勝を飾った市立尼崎は、スーパースターは不在だったが気迫溢れるプレーを甲子園でも披露し、激選区兵庫代表として堂々と戦った。

 また逸材の豊富さも兵庫の魅力だ。秋優勝の神戸国際大附の主軸・猪田 和希(2年)ら力のある上級生だけでなく、報徳学園の三拍子揃ったショート・小園 海斗(1年)、東洋大姫路の大石 孝幸(1年)ら楽しみな下級生も多い。この2人は入学早々、ベンチ入りを果たすだけでなく、いきなり1番打者として打線を引っ張った。現在の1年生が最上級生になる2018年は夏の甲子園が100回目となる記念大会。兵庫からは2校が出場出来る見込み。2年後の活躍に期待がかかる。

智辯学園が安定感抜群。天理は野手陣が充実

村上 頌樹(智辯学園)

 奈良は選抜覇者・智辯学園の戦績が光る。昨秋から今秋まで4季連続で県大会優勝。エース・村上 頌樹(3年)は簡単に失点を与えない安定感があり、投打の総合力の高さは非常に高いものがあり、他校の追随を許さない存在感を示した。夏はヒヤヒヤの展開が続いたが、それでも試合を勝ち切れるのは王者の底力。5試合全て逆転勝ちで甲子園行きを決めた。

 ライバルの天理は神野 太樹(2年)、城下 力也(2年)ら野手陣が充実。夏のスタメンにも2年生がズラリと並んだ。これは貞光 広登(現國學院大学)、舩曳 海(現法政大学)、坂口 漠弥(現専修大学)らを擁し強力打線を形成した世代と重なる。智辯学園との対戦となればどちらも打力があるだけに、僅差のリードで終盤勝負となれば有利不利は無いに等しい。

和歌山の決勝は清々しい一戦に

赤羽 陸(市立和歌山)

 和歌山の加盟校40校は関西の中では最も少ない。しかし、1回戦でも大差となる試合がないように、人数の少ない公立校でも強豪相手に試合を作れるのが和歌山のレベルだ。王者・智辯和歌山には入学早々に主軸を務めた2人の強打者、林 晃汰(1年)、文元 洸成(1年)がいるが、油断は出来ない。

 印象に残っているのは市立和歌山対箕島で争われた夏の決勝。試合中に箕島の捕手が右手を負傷し、イニング間の二塁送球を見ても万全でないことは明らか。しかも市立和歌山と言えば機動力野球が武器。半田 真一監督も試合前には「機会があれば仕掛けたい」という意向を話していた。しかし、アクシデント後、市立和歌山が仕掛けた盗塁は0。

 甲子園行きを懸けた大事な大事な決勝戦で「相手の弱点を突いての勝利」よりも「正々堂々ぶつかっての勝負」を選んだ。試合は互いの投手が踏ん張り無得点で迎えた8回、選抜出場時にはベンチを外れていた薮井 幹大(2年)が左中間へ2点本塁打を放ちついに均衡を破る。結局これが唯一の得点となり市立和歌山が2季連続で甲子園に出場。清々しい一戦だった。

京都翔英の躍進と名将の訃報

石原 彪(京都翔英)

 今年、京都で最も名を上げたのは間違いなく京都翔英だった。京都のドカベンこと強肩強打の捕手・石原 彪(3年・関連記事)を中心に春の京都を制すと、優勝候補として臨んだ夏も1試合平均10得点の強力打線で優勝を果たす。秋も準優勝と好結果を残した。ただ悲しいことに昨年12月に監督に就任し1年目にこれだけの戦績を残した浅井 敬由監督が10月末に急逝。帰らぬ人となってしまった。

 京都翔英の得意とする勝ちパターンは序盤の大量得点で一気に試合を決め、その後はほとんどノーサインというものだった。そのため、浅井監督の野球=豪快な野球のイメージが強いが、それは今年の3年生の特徴を最大限生かしたチームカラーにしたからだ。浅井監督は阪口 慶三監督(現大垣日大監督)の教え子であり本来は緻密な野球を得意とする。甲子園では左腕エースとの対戦が決まった時点で苦戦を覚悟していたり、クリーンナップは残るものの全体の打撃力では旧チームに及ばない新チームでは、相手のスクイズを読んで外すなど話せば話すほど知識の豊富さが伝わってくる指導者だった。特に会話の合間に「細かい野球やらせたら負けへんで」と呟いた一言が忘れられない。

 その京都翔英を決勝で破り3季連続優勝を阻んだのは東山。決勝まで戦った相手は一次戦1回戦から順に京都国際、鳥羽、立命館宇治、峰山、福知山成美、龍谷大平安と全て強豪校だった。選抜ベスト4の龍谷大平安の新チームは1年生主体のため他校を圧倒するような戦力はないが、地力の高さはさすが。京都もしばらく本命不在の混戦模様となりそうだ。

大阪2強に対抗する鍵は守備シフトの導入か

寺島 成輝(履正社)

 大阪桐蔭と履正社、大阪のみならず高校野球界を引っ張る両校の強さは今年も変わらなかった。寺島 成輝(3年・関連記事)、山口 裕次郎(3年)の主戦級左腕2枚を擁する履正社は府内の連勝記録を伸ばし、大阪桐蔭も150キロ左腕・高山 優希(3年・関連記事)や下級生の頃からレギュラーの座をつかんだ中山 遥斗(3年)、永廣 知紀(3年)らの活躍で選抜に出場した。

 この2強をどう止めるか。1つの答えを示したのが夏に大阪桐蔭を破った関大北陽だった。外野手を深く守らせた単打オッケー、長打ケアの布陣で奪った27個のアウトのうち14個が外野フライ。試合も1点差で競り勝った。ヒットゾーンを増やす代わりに決定打は許さなかった。また、履正社に対してもこの夏、桜宮が奇策で挑んだ。各打者の打球方向を徹底的に研究し、野手は打者毎に守備位置を変えた。例えば3番・四川 雄翔(3年)の打席では外野手が全体的にレフト方向に寄り、4番・安田 尚憲(2年・関連記事)が打席に入ると逆に動く。同じ左打者でも広角に打ち分ける四川と引っ張りで豪快な打球を飛ばす安田に対して守備位置を変える納得のシフトだった。

 相手を徹底的に研究することを得意としている指導者といえば明石商の狭間 善徳監督。前日まではもちろん当日の朝でも時間のある限りチェックする念の入れようで試合に臨む。昨秋の近畿大会、福知山成美戦(レポート)では1点リードの8回、無死満塁のピンチを背負うと狭間監督はショートを三遊間に寄せた。勝負を懸けるなら前進守備、勝ち越し阻止を狙うなら併殺狙いの場面で、引っ張る傾向のある右打者に対しそのどちらでもない守備を敷く。するとレフト前に抜けそうな打球が三遊間へ飛ぶ。これをショートがギリギリ捕球し同点は許したものの三塁で走者を殺す。結局、この回を最少失点に抑えると延長戦の末、見事勝利。選抜切符をつかみ取った。

 この判断が無ければ選抜ベスト8はおろか、出場さえも叶わなかった可能性が高い。このように強豪校に対抗するために極端なシフトを取り、観衆を驚かせるチームが増えてくるかもしれない。

 ただし、履正社、大阪桐蔭は共に新チームでも将来間違いなくプロに行けると思わせる選手が投手も野手も何人もいる。正攻法の真っ向勝負だけで倒すことは難しいのと同時に、小手先だけの戦術も通用しない。この2強を“どこが”“どう”止めるのか。それとも2強が包囲網を突き破るのか。来年は野球の技能だけでなく“頭脳戦”の名勝負がより多く生まれることを期待したい。

(文・小中 翔太)

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