鹿児島の2016年を総括!樟南、鹿児島実「2強」健在も、底辺拡大への取り組みも!

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 2016年の鹿児島高校野球界で最も印象深い出来事といえば、何といっても夏の樟南VS鹿児島実の決勝戦だろう。延長15回で決着がつかず、史上初の再試合となり、2日間の死闘の末、樟南が3年ぶりとなる夏の甲子園への切符を手にした。長年、鹿児島高校球界の「2強」として全国区の知名度がある両校も、このところ神村学園や鹿屋中央といった新興勢力の台頭などで厳しい戦いを強いられることも多くなっていただけに、今年は「2強の勝負強さ、未だ健在なり」の印象が一番強く残った。

樟南と鹿児島実の強みとは?

畠中 優大 (樟南)

 樟南も、鹿児島実も、長年の伝統に裏付けられた明確なチームカラーがあるのが何よりの強みである。夏の決勝戦は、浜屋 将太(3年)、畠中 優大(3年)の両左腕エースを中心に県内随一の守備力=盾を持つ樟南と、綿屋 樹(3年・関連記事)を中心にどこからでも得点できる攻撃力=鉾を持つ鹿児島実、「鉾盾の争い」と表現したが、それはそのまま両チームが長年培った伝統のチームカラーを表している。

 樟南は浜屋、畠中、県内屈指の両左腕を擁する強みを最大限に生かして、3年ぶりに鹿児島の頂点に返り咲いた。決勝戦延長15回と再試合の2試合はこの2人の存在抜きには語れないだろう。特に昨夏、熱中症で降板して初戦敗退の屈辱を味わって以降、この1年間結果を残せていなかった畠中の復活が大きかった。鹿児島実戦は最初の試合で先発してゲームを作り、再試合では5回、無死満塁絶体絶命のピンチをリリーフして無失点で切り抜け、勝利の立役者となった。

 浜屋は、小柄ながら、キレのあるスライダーを武器に毎試合2桁奪三振を記録する安定感があり、この1年間、樟南の先発の柱だった。だが「浜屋1人では夏勝てない。甲子園に行くには畠中が必要だった」と前川 大成主将(3年)。山之口 和也監督も「それだけの力を持っており、経験も積んでいる選手」と畠中の復活を期した。その期待に見事に応えた。

 2年生から正捕手で、両投手の持ち味を存分に引き出した前川主将、準決勝まで無失策だった守備…樟南らしい堅実な野球が夏にようやくできるようになった。「打線は水物。最後は守りのチームが勝つ」と準決勝の後で前川主将が語った通り、決勝では最大のライバルに守り勝って夏の甲子園をつかんだ。

 センバツに続く春夏連続出場は果たせなかった鹿児島実だが、夏の決勝を除けばこの1年間は県内公式戦負けなしの実績を残し、鹿児島の盟主としての地位を復活させた。全国でも屈指のスラッガーに挙げられた綿屋主将を不動の4番に据え、板越 夕桂(3年)、追立 壮輝(3年)ら昨夏の甲子園を経験したメンバーを中心に、相手投手に対応して様々な打順を組み合わせる攻撃は、今までの鹿児島実にない斬新さがあった。

 攻撃力に目が行きがちだが、右アンダースローの谷村 拓哉(3年)は浜屋、畠中に引けを取らない粘投を続け、守備から崩れる試合はなかった。高い能力を持つ選手が集まり、ハードな練習で鍛え上げられたチームの底力を感じた。毎朝の裸練習など練習のハードさは昔から続く伝統だが、それに加えて科学的な食事トレーニングなども取り入れている。夏はライバル樟南に敗れたが、どちらの野球も甲子園で見てみたいと思わせるものがあった。

 3年生が抜けた秋の新チームも、メンバーが大幅に入れ替わったが準決勝で優勝候補の筆頭に挙げられた神村学園に勝ち、九州大会でも8強入りした。

春優勝の神村学園、秋優勝のれいめいも意地を見せる

太田 龍(れいめい)

 甲子園にこそ縁はなかったが、今年の神村学園もここ数年、鹿児島の新たな強豪校として定着したこれまでのチームと同様に、樟南、鹿児島実に比肩する力はあった。昨秋4回戦でれいめいに敗れ、小田 大介監督から「史上最弱」の烙印を押されながらも、その屈辱をバネに成長した。春の大会は鹿屋中央、出水中央、れいめい、鹿児島城西と並みいる強豪私学を撃破し、決勝では畠中、浜屋擁する樟南に19安打を浴びせて圧勝した。

 田中 梅里主将(3年)を中心とする強力打線、バントをあまり使わない積極打撃、緻密な走塁など、鹿児島実や樟南にはない「カラー」が今年の神村学園にもあった。豊富な練習量に加えて、癖の少ない理にかなった選手の動きも特徴的である。田中 怜央那(2年)、島中 大輔(2年)、1年生エース俵森 大輔ら夏を経験した新チームも潜在力は県トップクラスで「結果よりも過程を楽しむ」(小田監督)という新たな境地も開拓中。来春以降も楽しみなチームだ。

 今年はれいめいも印象に残るチームだった。プロも注目する189.5センチの長身投手・太田 龍(3年・関連記事)を擁し、鹿児島実にも比肩する強力打線があって80年夏以来となる甲子園も期待されたが、春は神村学園に準々決勝で大敗。夏も同じ準々決勝で伏兵・志布志に足をすくわれた。力があっても勝てない難しさを考えさせられた。その一方で、一つ下の中 鼓鉄(2年)−山名 浩伸主将(2年)バッテリーを擁した新チームが秋の県大会を制し、九州大会でも8強入り。先輩たちの「悔しさ」を後輩が晴らした。

 夏に川内、志布志が4強入りしたのをはじめ、春は加治木、秋は武岡台が4強入りするなど、普通科進学校の県立校の活躍も今年は顕著だった。特に夏の川内は準々決勝で第3シード神村学園に劇的なサヨナラ勝ちし、準決勝では9回裏に假屋原 立(2年)の2ランで同点に追いつき、延長13回まで樟南を苦しめた。4校ともノーシードから勝ち上がっていく中で勢いづき、力をつけていった。強豪私学のような注目選手がいるわけではないが「やるべきことを淡々とやり切る」(志布志・下山 慎吾監督)中で自分たちの野球に自信をつけた。

 こういったチームがもう一歩、勝ち切って九州大会、甲子園を手にすると鹿児島の野球界も新たな活力を手にすることになるが、まだそこには至っていない。「あと一歩の差」をどう埋め、覆すか、来年以降の注目ポイントである。

鹿児島の高校野球がさらに発展するには

 4月には指宿の谷口 裕司監督ら高校野球監督会が主催し、県内の小学校、中学校、高校、大学、社会人と野球関係者が一堂に会して野球界の未来について話し合う「野球ミーティング」が初めて開催された。近年は少子化などの影響で野球人口の減少が進み、特に地方の学校などでは登録20人に満たないチームや、9人そろわずに合同チームで出るケースも珍しくなくなった。野球をする子供の数もどんどん減っている中で「鹿児島でやれることはないか」と谷口監督らが呼び掛け、約110人が集う大きな会になった。

 プロからアマチュアまで1つの組織で統一され、理想的な組織運営がなされているサッカーに比べて、野球界はそれぞれが別の組織であり、メディアの利権なども絡んで他競技からみれば複雑怪奇な様相を呈している。鹿児島だけで解決できる問題ではないが、チームの勝ち負け以前にこういった野球界全体の底辺拡大にも目を向けなければならない時代になったことを痛感した。

 今年の夏は雨による順延が続き、例年になく長丁場の大会になった。シード大島、初戦で鹿児島城西に勝った沖永良部など力のあった離島勢は、予想外の長期滞在に力を発揮できなかった印象がある。離島のチームは雨で大会が伸びるとその分、滞在費などの出費が莫大になる。保護者らの自己負担では賄えず、OBらが中心になった寄付などの善意も寄せられたが、そろそろ大会を主催する側が抜本的に対策を考えるべきではないかと思った。

 そんなことを考えていたら、12月の鹿児島県議会で離島の小中高校生の部活動等における県本土での大会参加にかかる費用助成について取り上げられた。7月に就任した三反園 訓知事も「離島の児童生徒が全力でプレーできる環境も必要。17年度の導入に向け、何ができるか検討していく」と答弁した。実現することを期待してやまない。

(文・政 純一郎)

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