2016年の公立勢の顔となったのはどこ?公立校の躍進を一挙にプレイバック!

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 甲子園の常連校と言われている、いわゆる強豪私学と、多くの公立高校をはじめとする、特に野球部を強化指定部としてはいない普通の学校との二極分化。この傾向は、近年ますます顕著になってきている。そうした中で、今年もいくつかの公立校は健闘を示した。そんな公立校はどのようにしてチームを作り、戦っていったのだろうか。

高松商、鳴門、いなべ総合、明石商の健闘が目立った今年の高校野球

米麦 圭造(高松商)

 春のセンバツでは高松商が準優勝を果たし、第1回大会で優勝も果たしている公立伝統校の意地を示した形となった。20年ぶりの出場で、55年ぶりの決勝進出となったが、中学野球の指導者として全国大会へ導いていた実績のある長尾 健司監督が就任して3年目。県内の有望中学生が、長尾監督を慕って高松商に進んできたのも大きかった。

 最初に長尾監督は伝統校にありがちの理不尽な上下関係を廃除するところから始めた。そして、選手個々を伸び伸びとプレーさせたことで、それが実を結んだ形となった。米麦 圭造主将を中心として、選手たちだけで自主的にミーティングを開いて、徹底的に本音で話し合って、意識を作っていったことも大きかったという。

 同じ四国勢で、夏は鳴門が公立勢としては唯一ベスト8に残った。鳴門は、5年連続の出場となっていたが、徳島県では有力私学と呼ばれるところが生光学園しかない。とはいえ、5年連続は素晴らしい実績だ。甲子園でも佐久長聖、春の王者智辯学園、盛岡大附といった私学強豪を倒したのは見事だった。昔ながらの砂浜ランニングや山道を走るトレーニングで下半身を作って基礎体力をしっかりと作っていったことが、手束 海斗君が開幕第1号本塁打するなど、結果的にパワーアップにつながった。かつて甲子園で一時代を築いた「渦潮打線」の復活を喜ぶファンも多かった。

 センバツの初戦で高松商と延長を戦ったいなべ総合学園も健闘した公立校の一つだった。春夏連続出場を果たし、夏は2勝した。三重県勢は、前年も津商が出場して活躍しているが、三重や海星などが力を示す中での健闘だ。いなべ総合は環境的にはグラウンドも広大で恵まれているともいえるが、尾崎 英也監督が反復練習で鍛え込んでいくというチーム作りだ。試合を作れる投手陣が毎年、複数育てられているのも、やはり徹底した基礎体力作りからのものであろう。

 センバツでは市立の明石商も初出場でベスト8に残ったが、明徳義塾で高校コーチとして甲子園に出場し、同中学を率いて全国で4度優勝などの実績がある狭間 善徳監督が、明石市の公募に応じて2007年から就任。もちろん全員が県内出身者で、必ずしも恵まれた体格ではないという選手たちに徹底してきたのが、どんな形でも犠打を決めていくというバントの徹底ぶりだった。

 普段の練習でも、シート打撃ではなくシートバント練習をメニューに組み込んでいるくらいだ。夏も兵庫大会決勝まで進んだが、同じ市立校の市立尼崎に敗れた。市立尼崎も明石商の活躍に刺激を受けて、「自分たちもやればできる」という思いで、準々決勝では報徳学園に1対0で競り勝つなどして、市制100周年を飾る出場となったのは立派だった。

関東圏では市立川越、都立城東、都立日野の躍進が光る

都立城東ベンチ

 悲願の甲子園出場はならなかったものの、埼玉大会で浦和学院に完封勝ちした市立川越の戦いぶりも光った。2年前にも埼玉大会決勝進出を果たしているが、今年のチームは新井 清司監督が就任して初めて、秋も春もブロックで敗退という最悪の状態からのスタートだった。それだけに危機感を抱いた3年生たちが、自主的にミーティングを繰り返していったことで、下級生も含めてお互いに本音がぶつけられるチームとなった。2年生で試合に出ている選手が多いチームだっただけに、こうした形で意識を向上していったことが大きかった。

 圧倒的に私学勢が強い首都圏では、公立勢はそれぞれに創意工夫して苦戦しながらもチーム力を高める努力をしてきている。東東京では都立城東が4強に残ったが、校舎の改修工事という環境で、ただでさえグラウンドがあまり広くない中で、遠征試合に終始せざるを得なかった。それでも、貪欲なまでに練習場所を求めていく姿勢は伝統と言ってもいいであろう。

 また、都立校同士では可能な限り練習試合の量を増やしていくことにも積極的だ。部員の多い都立城東や都立文京、都立小山台、都立総合工科などでは、「朝8時から日没まで、出来たら4試合やりましょう」などと、とにかく実戦経験を増やしていくという姿勢は、1999年夏に都立城東が甲子園出場を果たして以来、多くの都立校に浸透している考え方でもある。

 この秋に東京都大会のベスト4に進出した都立日野も、練習試合は質もさることながら量もこなしている。より多くの選手に出場機会を与え、その中からアピールしてきた選手たちでチームを構成していく。都立日野は、夏休みには長野遠征合宿なども行っている。都立片倉や都立府中工が毎年、岐阜県と長野県に遠征を組んでいるが、それに刺激を受けて、それぞれが限られた環境の中で、切磋琢磨しあっていっている成果ともいえよう。

西尾東、松本工、石岡一など試行錯誤を重ねながら実績を重ねる公立校にも注目

石岡一ナイン

 また、夏の大会前になると逆に北信越勢が、関東地区に積極的に遠征してきている。新潟県の巻や長岡工、長野県の小諸商や松本工もそうだ。「関東勢の洗練された野球を経験させていただくことで、それだけでも刺激になります」と語るのは、市立川越や桐生第一と試合を組んでいた松本工の古屋 慎司監督だ。やはり、他県へ遠征して強豪と対戦していくことで、選手たちも意識が変わっていくのも大きな要素である。

 茨城県では進学校として人気のある日立一や春季県大会では準優勝を果たして関東大会進出を果たした石岡一などもそんな思いで、毎週のよう他県の強豪と試合を組んでいる。日立一は、神奈川県から福島県まで、各地の強豪からどん欲にさまざまな野球スタイルを吸収していこうという姿勢である。

 名古屋市内の私学4強などが圧倒的な壁となっていて、公立勢は苦戦が続いている愛知県では、この夏、西尾東が2度目の4強進出を果たして高く評価された。しかも、西尾東は、全員が3年生で戦っていた夏の後の新チームでも、西三河地区大会を勝ちあがり、県大会に進出を果たしている。選手たちが、先輩たちのプレーを見て、応援していく中から学び取っていく姿勢が身についていることを寺澤 康明監督も高く評価していた。

 その西尾東と準々決勝でぶつかったのが大府だった。県内の公立の雄としては、豊田西や成章などとともに実績のあるチームだ。今年は、浅野 亨太君という好投手を擁しており、野田 雄仁監督も、「甲子園を狙える手ごたえもある」と実感するくらいにチーム力は充実していた。

 その大府に、知多地区大会で挑み続けてきた東浦はこの秋には県8強にまで躍進した。それだけに、来年へ向けても期待が高い。「まずは、名古屋市内の球場で、相手に臆することなく戦って勝つこと」という目標を掲げている。また、西尾東や大府に刺激を受けて、安城東に伝統の豊田西や成章、刈谷に豊田工といったところも翌年の飛躍を狙っている。

 東海地区では、秋季大会を優勝した静岡が公立の雄として君臨している。静岡の場合は、多方面からの支援や協力体制も分厚いが、県を代表する伝統校という強い意識が選手全体にも浸透しているのも強みといっていいであろう。来春のセンバツでは、早くも優勝候補の一角に押す人もいるくらいである。それだけ、地元の期待も高いものがあるだろう。

 他にも、センバツに届きそうな熊本工や高岡商など、地区を引っ張ってきた伝統校が健在なのは、来るべきシーズンが楽しみである。

(文・手束 仁)

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