中村 紀洋氏が高校球児に伝授する「基本」 【四国地区高等学校野球監督会研修会レポート】

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軸を作っての回転でティーバッティングを行う中村 紀洋氏

 毎年12月第1週の週末に四国地区高校野球の最終行事として行われる「四国地区高等学校野球監督会・監督研修会」。2016年は12月3日(土)・4日(日)に香川県内にて開催された。

 今回、監督研修会の講師は府立渋谷(大阪)高卒後、大阪近鉄バファローズ、MLBロサンゼルス・ドジャース、オリックス・バファローズ、中日ドラゴンズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、横浜DeNAベイスターズで22年間プレーし、日米通算2106安打をマークした「ノリさん」こと中村 紀洋氏。現在は一般社団法人「N's Method」エグゼクティブディレクターとして少年たちに野球理論を伝授する中村氏が強調した「基本」の一端をここでは触れていきたい。

繰り返される「基本」、目からウロコの「基本の見解」

「基本が大事です」12月3日(土)香川県宇多津町のホテルサンルート瀬戸大橋で元横浜DeNAベイスターズトレーナー・コンディショニング担当の高橋 塁氏をコーディネーターに開かれた1時間半あまりの研修会。

 12月4日(日)香川県丸亀市の四国コカ・コーラボトリングスタジアム丸亀で3時間にわたって行われた実技講習会。中村 紀洋氏からはこの言葉が繰り返し発せられた。大阪近鉄バファローズ時代は4番・三塁手として「いてまえ打線」の象徴的存在。派手な言動で一世を風靡した中村氏がなぜ「基本」にこだわるのか?その理由は全てのメニューを終えた後、「高校年代の指導がすることができて感謝しています」という中村氏自身の口によって語られた。

「身体が出来上がった上で一番大事な時期である高校生年代は、監督さんたちが持っているイメージにまだ到達していない選手たちに対して、どのように指導していくかが育っていく上で大事だと思うんです。さらにそこを拡大していくことが野球の発展にもつながる。だから教えたのは『基本』なんです。基本を判らないまま育つよりも、基本を知った上で成長していく方がいい。そうすればいい選手になれると思います」

 ただ、中村氏の話す「基本」は、「目からうろこ」のことばかりであった。たとえば、初日の研修会で大半を費やした「打撃理論」の概要一部は次の通りである。

1.全ての動作から「つま先」を意識する*ちなみに中村氏は今ままで「ウエイト」をしたことがないとの話。普段から「つま先から」を意識することで体幹を鍛えた。

2.スイングでは軸をブラさず「体幹の回転」でボールをへその前で打つただし、右打者の場合は左肩・左打者の場合は右肩を開かない。

3.練習の基本は「フルスイング」上記2つを意識したフルスイングの場合、毎日30回のスイングでも効果がある。コースを9分割して投手のリリースからのラインを想定して振ることが大切。

4.素振りの段階から「顔を前に向けて」「呼び込んで振る」を意識する概して素振りでは下を向いてするケースが多いが、投球をイメージすることが大事。

5.状態が悪い時は「ピッチング」をするのも一考投球動作とスイングの身体を動かす原理は共通項がある。

6.「投手を見る」練習をするのも大事リリースで球種を見分けるのももちろん、研究すればセット時や球種による癖もわかる。

7.指導者は「結果を問わない」指示をするのも大事中村氏も近鉄バファローズ時代にコーチから「思い切り振ってこい!」と言われたことで育ったとのこと。

 時にはスライダーを膝を突きながら打った近鉄バファローズ時代のホームランを「ストレートを待っていたけど、『いてまえ!』と思って振ったら入った」と名言付きの振り返りで120人以上の四国地区指導者が詰めかけた会場を沸かせながら、進んだ90分間の「ノリ流打撃理論」。もちろん、これが全ての定義というわけではないが、参考にすべき基本理論は様々なところに散りばめられていた。

高校生・指導者に意識改革をもたらした「守備の基本」

実技講習会指導役の香川県高野連若手6監督

 研修会2日目。坂出・藤井・英明から6選手ずつ計18選手が集まり、高橋 塁氏によるアップの後、三本松・日下 広太監督、高松工芸・林 真弘監督、香川中央・山口 安亮監督、丸亀・井吉 信也監督、高瀬・大山 剛毅監督の指導により始まった実技講習会。ここで中村氏は半分以上の時間をかけ、練習を止めながら丁寧に内野を中心とした守備の基本を教えた。その概要一部は以下の通りである。

1.キャッチボールから中指と人差し指は付けて送球する2つの指へ均等に力が入るため、暴投の危険性が減る。

2.ノックでは必ず右から入って結果、正面で捕る習慣を付ける。

3.ゴロは極力身体の前でさばく、前かがみにならない。上下動を少なくして捕球し、一塁送球時には送球の軌道を見届ける。

4.ゴロは「捕球する」意識を抑え、手のひらを向けた状態から「合わせる」意識を持つ手のひらを向け、前かがみになら送球・挟ない状態が「守備の基本姿勢」

5.送球・挟殺プレー時は送球相手に必ず「ボールを見せて」から投げる。そうしないと送球相手が捕球のタイミングをつかめない。

6.グラブをはめるのは半分くらいのところ、深く指を入れない。目的はグラブを立てるため。強いゴロには吸収するイメージを持てば強さを弱められる。

 最後はフリーバッティングのデモンストレーションで日米通算404本塁打を放った打棒そのままに次々とミラクルアーチを運び、指導者たち大きな歓声を呼んだ中村 紀洋氏だが、伝えたいことの前段は間違いなく「守備の基本」。「2分間の基本姿勢キープ練習やためになったし、人差し指と中指を付けて送球する握りは今まで気にしたこともなかった。これからの練習に活かせそうです」。英明のキャプテン・吉岡 宏芙(2年・二塁手)の表情は「何かを得たり」という満足感を帯びていた。

「基本徹底の大切さ」を四国の課題解決へのきっかけに

軌道を修正するための「ショートスロー」を伝授する中村 紀洋氏

 こうして140名近くを前にした実技研修会も終了。「聖地は甲子園でなく、自分の高校のグラウンド。グラウンドに感謝をもつことが大事」と聖地論も話した中村氏は最後、府立渋谷高時代、1990年夏大阪大会で2年エースとして5回戦から阪南大高、関西創価、東大阪大柏原(現:東大阪大柏原)、上宮と私学勢を4連覇し甲子園初出場。最後の夏も大阪大会ベスト4まで進んだ経験を踏まえ、四国の高校野球にこう熱くエールを送った。

「強いチームに対して『絶対負けたくない!絶対勝つ!』という気持ちで臨んでほしいです。『俺らじゃ無理や。負けるから』とか一切思わず、『絶対に勝てる!甲子園に行く!優勝したい!』と気持ちを表に出して思うことによって、練習への取り組み方も変わってくる。ネガティブにならずポジティブにいってほしい。結果はやってみないとわからないことですから。僕も『負けたくない。何かある』。負け覚悟でもどこかに『勝ちたい!』という気持ちがったから練習もしましたから」

 振り返れば「四国地区高校野球2016」はポジティブとネガティブが交錯する年だったといえよう。春センバツでは高松商(香川)が準優勝。夏の甲子園では明徳義塾(香川)がベスト4、鳴門(徳島)がベスト8に松山聖陵が甲子園初出場。秋は中村(高知)が40年ぶりに高知県大会優勝を果たすなど「為すべきことを為したもの」の健闘が光ったと同時に、プレーヤー自体の減少や実力の上下差拡大など、近未来の課題も露わになった。

 一方で、そこを打破する動きは間違いなく生じている。大阪近鉄バファローズ時代に師弟関係だった中村 紀洋氏の守備講義に熱い視線を送るのは四学大香川西の中尾 明生コーチ。元ロッテオリオンズ投手の帝京第五・小林 昭則監督も中村氏の講義を聴きつつ、周囲の指導者と議論を交わす。また、実技講習会で指導者役を務めた丸亀・井吉監督は四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズ。三本松・日下監督はルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズ及び新潟アルビレックス・ベースボール・クラブでかつてプレー。「元プロ野球選手」が複数名、四国地区の監督研修会に参加する姿は数年前では想像できなかった現象である。

 ただ、やはり大事なことは……。今回、中村 紀洋氏が改めてクローズアップしてくれた「基本徹底の大切さ」。今回の四国地区高等学校野球監督研修会が、高校野球の底上げとなり、しいては若年層を中心とした人口減少・野球人口を中心としてスポーツ人口減少が顕著な四国地区の課題解決につながることを切に願いたい。

(文・寺下 友徳)

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