失った時間を取り戻すための戦いに身を投じる内田。「無駄だった」1年9か月を振り返ったりはしないが、この間に支えてくれたファンに対しては感謝の気持ちを述べている。 (C) Getty Images

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 12月8日、ヨーロッパリーグのレッドブル・ザルツブルク戦。1点ビハインドで迎えた81分、後半開始からピッチ脇でアップを続けていた内田篤人に声が掛かる。すぐさまビブスを脱ぎ、ベンチ前でコーチから指示を受けると、3分後、ついにその瞬間がやってきた。
 
 2015年3月以来の復帰。どれほど、この瞬間を待ち望んだことか。しかし、試合後の内田は冷静に、自身の復帰を振り返った。
 
「意外に冷静……、冷静というか、試合展開が難しかったので。20分、30分っていう話もあった気はしますけど、だんだん残り時間が少なくなっていったんで、『今日はないかな』ってくらいだった」
 
 消化試合とはいえ、シャルケは1点を追いかけており、DFの内田を投入する展開ではなかった。特に内田が投入されようとしていた時間帯、シャルケは同点ゴールを目指して圧力を強めていた。
 
 そんな展開で「俺が監督なら代えない」とさえ思っていた自分を投入したヴァインツィール監督の判断を、内田は「リハビリ頑張りました、のご褒美」と表現し、感謝を示した。
 
 10分にも満たない出場時間だが、1年9か月もピッチから遠ざかり、シャルケのドクターに「復帰できると思っていなかった」とさえ言われていた選手にとっては、大きな一歩だ。だが内田にとってこの試合は、記念すべき日ではない。
 
「僕のなかで、この1年9か月(を経ての復帰)は感動じゃないから。自分で怪我して、自分で長引かせて。ホント無駄な1年9か月だったから。そこはさっさと終わらせて次に、というのがあるからね。怪我はアスリートにとって、全然良いことじゃない」
 
「感傷に浸っている場合じゃないと思うよ。もう戻ってこないもん。サッカー選手の27〜28歳なんてめちゃめちゃいい経験を得られて、身体が動く時だからね。その一番脂の乗っている時期を、もう捨てているんだから。そこを取り返すというか、これからは本当に大変だと思う」
 
 そんな内田にとって、この試合で良かったと感じられたこともある。それは、ただ復帰するだけでなく、勝つことを第一に考えることができたということだ。
 
「勝ちにいかないといけない、勝ちにいく、ということが頭に浮かんだのは良かったと思う。やっとグラウンドに立てて、『怪我なくとりあえずは試合を終えたいな』というのではなくて、どうやったら勝てるかなと試合を観ながら思っていましたし、勝ちにいくと思えたのが良いことだと思う」
 
 次の目標は、ホームのピッチに立つこと。「年内は難しいかな? 分からないけど」と内田は言う。焦る必要はない。
 
 ただ、内田が再び最高峰の舞台を目指していることを感じさせる復帰戦だった。
 
現地取材・文:山口 裕平