「ジョジョの奇妙な冒険」背中を見られると殺されるスタンド「チープ・トリック」がエゲツない

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「強さ」よりも「怖さ」が厄介なジョジョの敵達


ジョジョ世界において乗り越えるべきは「強さ」よりも「怖さ」。単純に力押ししてくる敵よりも、心をじわじわと締め付ける相手のほうが厄介なのだ。


第一部で波紋を覚える前のジョナサンに襲いかかった吸血鬼ディオも絶望感ハンパなかったが、最恐ランキング上位に食い込むのが第二部のサンタナだ。破壊不能の部屋に閉じ込められていたところ、空気供給管に潜り込んで脱出。さらにドイツ兵の身体を乗っ取り、あっという間に全員を殺りく。たちまち言葉も覚えて知能の高さも発揮し……と底の知れない進化がおっかなかった。いま振り返ると「奴は柱の男の中で最弱」だったんだけど。

第三部では、承太郎に「悪霊」と呼ばれていたスタンド達がホラー大戦争だ。恨みを力に変えるエボニーデビル、モンスター車から腕だけ出して嫌がらせの限りを尽くすホイールオブフォーチューン、人を胎児にまで戻していたぶるセト神(アレッシー)など、恐怖のエキスパートぞろい。

その中でも「恐怖」に真っ向から立ち向かったのが、人気キャラ・花京院典明。エジプト旅行中にDIOに恐怖して肉の芽を植え付けられた過去があったが、目をやられて一時リタイア。そして復帰後はより強い精神を身につけ、腹をぶち抜かれながらも、最後の力を振り絞って仲間たちにDIOの「時を止める能力」のヒントを残したのだ。恐怖を乗り越えた花京院!

チープ・トリックは絶対に発現したくないスタンドNO.1


3つの事件の時系列が絡み合う「7月15日」シリーズも3回目。謎の少年のスタンド・エニグマに「恐怖のサイン」を見せてしまったために紙された康一くん、その匂いが仗助の母・朋子のボケットの中から……ということで、対エニグマ戦の続き。

ポケットから出てきた白紙の紙。しかし噴上裕也の嗅覚は、紙から何か出てきたことを逃さない。実際に銃口が突き出され、仗助に向かって銃声が鳴り響く!

7月15日(木)12時42分

「はは! やっちゃいましたね! 危ないなぁ!気を付けなくっちゃあねぇ! 2階の床、火事で焼けてるって言いましたよねぇ!」

見積もりに来た設計士・乙雅三を床の落とし穴にはめて、背中側に回り込む露伴先生が心の底から嬉しそう。ヘブンズ・ドアーで「わたしは人に背中を見られるのが嫌だ」と読み取ったのだから「押すなよ!絶対押すなよ」的な気持ちは分かるが、今回ばかりは本当にヤバかった。

「何かわからないが他人に見られたら終わりって恐怖だけがあるんだよ!私はもう終わりなんだよー!」

乙の背中がパカっと開いて大量出血、スタンド攻撃だ! さっき本に変えたときにスタンドの記述がなかったのは、敵スタンドの被害者だったから(正確には違うが)。その死を悼む間もなく、露伴先生の耳元に「おんぶ…おんぶして…」と不気味な声が囁かれ始める。

7月15日 13時39分

「杜王町の家出人を含めた行方不明者リストです。吉良が姿を消して以降ですからそれほど人数はいません」

承太郎に報告するスピードワゴン財団は、アニメオリジナルの部分だ。行方不明者リストの中には吉良の犠牲者がいるかもしれん……どころか、近い未来の犠牲者がいたりする。「美那子」という名前を、たぶん1〜2話先で目にするはず。

7月15日(木)12時55分

「ヘブンズ・ドアー!」

「おんぶして」と囁く声の主の方に振り返って、攻撃しようとする露伴先生。が、そこには誰もいなかった。敵スタンドは、露伴先生の背中に乗り移っていたのだ。その狙いは、露伴先生が隠し撮りしていた写真を焼き、吉良吉影に迫る手がかりを消すこと。「写真焼いて、ね……」に耳も貸さずに、再びヘブンズ・ドアー!

しかし本に変えられたのは、露伴先生本人だった。敵スタンドの名前はチープトリック。乙雅三が矢で背中を射抜かれて生まれた存在だが、今の本体は露伴先生に移っていた。一人で2つのスタンド、全く嬉しくない!

乙雅三はチープ・トリックを生み出しながら操作できなかったが、囁き声だけは聞こえて、背中を見せちゃあいけない恐怖だけあった。哀れ過ぎる……。ヘブンズ・ドアーはかなり強力なスタンドだというのに、敵スタンドとの相性が悪かったり、相手が初見殺しだったり、苦戦を強いられがちだ。

チープトリックの能力は「人に囁く」だけ。背中にしがみつくちびっこキャラなのに、ひたすらウザい表現がグッとくる。引き離すには「他人に見せればいい」わけだが、それは自殺とイコール。こういう自律型スタンドは実に厄介で、「スタンドが強ければ本体をぶん殴る」必勝法が使えないから、本来の意味の「悪霊」に近い。

階段の手すりを滑り降りる、家の中で飛び跳ねる、外で踊り始める……チープ・トリックを振り払おうとする露伴先生の動きが、スタンドの見えない一般人の目にどう映ることやら。通りかかった牛乳配達のおじさんも、露伴先生に「今度裸描いてねー。女の裸ー!」とぶっ飛んだリクエスト。そこにシビれる! あこがれるゥ!

エニグマの少年の恐るべき洞察力


7月15日(木)12時47分

仗助に向けて放たれた弾丸を、指で寸止めしていたクレイジー・ダイヤモンド(以下クレイジーD)。スピードを誇るスタンドに銃弾ぐらいどうってことはないが、それでもゾッとする。「噛めよ東方仗助。下唇を。…お? 噛むか? 噛め! そうら噛んでみせるんだ!!」と期待するエニグマの少年。「恐怖のサイン」を見せれば紙にされ、そこで試合終了だ。しかし「これが奴のスタンドか!写真のおやじみたいにチンケなスタンドだなぁコラァ!」と怒りで恐怖をごまかす仗助。

しかたないので姿を現したエニグマの少年。今まで隠れていたのに急に現れたのは、噴上裕也の観測どおり「わざと攻撃させる」ためだ。そうして相対した2人の身長差がスゴいことになってるが(原作にはない絵面)、「背が低くても自信たっぷりに出てきた」エニグマの不気味さを強調する演出だろう。

あえて「紙にしてファイルしておく」能力を説明するエニグマの少年。その紙を破れば、中味のラーメンも器ごと粉々だ。では、もしも人間だったら?

「そしてこの紙が広瀬康一さ。もちろん生きている。僕のスタンドはチンケな能力だからねぇ。人を殺すパワーや能力はない」しかし誰かが破いてしまえば別、紙にしたものはなんでも破壊できる。条件さえそろえば、最強のスタンドと言っていい。

ドラァ!と放たれたクレイジーDの拳の前から少年は消え、康一くんが入ってるかもしれない紙が走る自動車めがけて舞い落ちる。それを目で追い、思わず下唇を噛んでしまう仗助。紙に引きずり込まれるクレイジーDの姿は絶望的だが、やはりエニグマの「だまし絵」攻撃は前回に続いてスタイリッシュだ。

恐怖した者はどう足掻こうとエニグマの前には無力。その事実を突きつけられ「仗助には悪いが協力しなくてよかった…」と胸をなでおろす噴上裕也。が、そのとき仗助がクレイジーDが壊した鉄棒を「直す力」により、紙から這い上がってきた。さっきのは康一くんが囚われている紙じゃなくて単なる罠、みすみす人質を失うわけがない--と見抜いていたのだ。

「なぜそれでも俺がその紙を助けようとしたのか。ひょっとしたら康一かもしれないと思ったら! 万が一でも康一だっつー可能性があるのなら!助けに行かねーわけにはいかねーだろ!」

友情に命を捨てる、男の中の男! だがクレイジーDのパワーもここが限界、現実は非情である。

「だが一つだけ忠告しておくぜ! 俺を紙にしたならすぐ破いちまって始末することだ。もしこっから復活することがあるならよー。てめぇを殺す!」

もしスタンド攻撃を受けて紙にされたなら、一度は言ってみたい捨てゼリフ!

「ははは!でかい口叩きやがって…全然たいしたことない奴だったぜ…」

精神的には仗助の勝ちだが、現実にはたとえエニグマが小者であれ勝者だ。立ち尽くす噴上裕也に対して「仗助に協力しなかったのは賢い行いだったな。お前なんか簡単に始末できたんだぜ」と声をかけ、彼の恐怖のサインが「アゴを指でいじることさ!」と釘を刺す少年。エニグマの能力も怖いが、何より本体の洞察力が恐ろしい。そして新たな紙を開くと、中からタクシーが出現した!

「いいことを教えようか?この紙、実は開ければ誰だろうと中身を出せるんだぜ。とても簡単なことだが恐怖した人間には難しい」

いい気になって仗助達の救い方までバラしてしまうエニグマの少年。噴上裕也が舐められすぎだが、舐められたおかげで闇に光が指したのだった。

「よーし!東方仗助と広瀬康一を始末したぞ!今頃は岸辺露伴のやつめも…ふはははは!」

吉良のおやじ、写真なのに杜王町の上空を飛び回ってお疲れさまです! このテンションの高さ、すっかり千葉繁カラーに染め上げられましたね。

7月15日(木) 14時21分

「どれだ…吉良吉影に関係している写真!」

チープ・トリックの囁きに耳を貸さず、盗撮アルバムを観察する露伴先生。しかし、この段階では手がかりがなさすぎて特定は無理。あからさまに怪しい「盗撮している小学生」に気づかないのはどうかと思いますが。

「くそ…知らせなくては。こいつのことを誰かに知らせなくては…」

スタンドの事情を知っていて協力してくれる「誰か」といえば、康一くんしかいない。売れっ子マンガ家であり、常人とは住む世界が違うスタンド使いでもある二重の孤独だ。

喜んで敗北する噴上裕也のカッコよさ


7月15日 13時20分

「え〜…杜王グランドホテルでしたね。お泊りですか?」

エニグマの少年に行き先を訊ねる運転手。会社名が「帝王タクシー」、この見覚えのある顔……もしかして、アニメ第一話で承太郎が乗ってたタクシーの人? 30数話先までの小ネタを仕込んでいたシリーズ構成の凝り方にゾクゾクする。

「いいや。杜王グランドホテルには行かせない」

第四部でタクシーを追跡できるスタンドといえば、時速60Kmで走れるハイウェイ・スターだけ。噴上裕也、ついに動く! 仗助が康一くんを救おうとした決死の行動が、ビビリの心に火をつけたのだ。

「これがもし…紙にされたのがもし…バカだけどよぉ…俺をいつも元気づけてくれるあの女どもだったらと思うと…あの女どもの誰かだったらと思うと!てめぇ俺だってそうしたぜ!」

「昨日の敵は今日の友」だけでも燃える展開だというのに、さっきまで逃げ腰だった噴上裕也が男を見せるダメ押し。臆病者が無理して勇気を奮い起こすシーンは、やはりアツい。

仗助や康一くんを助けようとする行いは、エニグマや吉良のおやじを敵に回すということ。その事実を突きつけられても、噴上裕也の魂は揺るぎはしない。一度は引き離されたものの、ハイウェイ・スターの嗅覚はどこまでも追跡する。

やがて止まったタクシーを見つけるが、まだホテルに付いてないのになぜ止まったのか。誰もタクシーから降りてないが、奴の匂いは車からプンプン匂ってくる……あからさまに罠の匂いだ。

ドアの向こうには仗助と康一くんの匂いがする紙。猟犬のように飛びつこうとするハイウェイ・スターを待て!と制止する噴上裕也。「何かを紙にファイルする」能力は、頭が切れて性格が悪い本体が持てば、タクシーを恐怖のテーマバークに変えられる。ここから「絶対に恐怖してはいけない帝王タクシー」が始まる……!!

(なんだ!?ドアに挟まってるこの紙は!)

ハイウェイ・スターがドアを開けると、ゴオオオ!と燃え上がる。炎まで紙にできるエニグマ、なんでもあり。ようやく目的の紙に手が届いたが、仗助や康一くんとは別の匂いがする。嗅いだことのない匂い……サソリだ! さらに何かの化学薬品が紙に穴を空け、もはや一刻の猶予もなし。中から鉄の匂いがするが、開けるしかねぇぜ!

まさかの「紙に入った電流」も、前フリに過ぎなかった。鉄の匂いの正体は、紙の天敵であるシュレッダー! ちゃんと「シュレッダー」と書いてあるから間違いない。コンセントが挿されてなくても動いてるのはさっきの電流のせいで、どんだけ用意がいいんだエニグマ。

どんどんシュレッダーに吸い込まれていく仗助と康一くんの紙。引っ張ってもダメ、、ハイウェイ・スターのパワーでは機械をブッ壊して止めることはできない。「遠くまで行けるがパワーが弱い」遠隔操作型の宿命だ。仗助!康一! とうとう顎に触って「恐怖のサイン」を見せてしまった噴上裕也だった。

「お前をビビらせるなんてすごく簡単なんだよ噴上裕也。エニグマが紙にできない者なんて誰もいない。誰だろうと簡単にな!」

ドヤ顔で噴上裕也を紙にするエニグマ。簡単? だからこそいいんだぜ。瞬間的に紙にしてくれるからこそ! 薄くなった噴上裕也は、シュレッダーの隙間から仗助達の紙を引き出していた。原作では「紙と紙がくっつく」感じだったが、アニメ版は「ハイウェイ・スターがシュレッダー内の紙を押し出した」風にアレンジされ、分かりやすくなっている。

「だが喜んで敗北するよ。ペラッペラの紙になったんでシュレッダーの中に手を突っ込められたからな!」

なんというカッコいい敗北! 慌てて止めようとしたエニグマ少年の顔面に、紙の中からクレイジーDのドラァ! 仗助と康一くんコンビ、ジョジョ立ちしながら復活だ。

「噴上裕也…おめー…なんか…ちょっぴりカッコイイんじゃあねぇかよ」

ちょっぴりどころじゃない! 見苦しく噴上裕也の紙を人質にするエニグマだったが、すかさず康一くん=エコーズACT3の「重くする」攻撃によりストップ。

「え〜と何だっけ。お前に対して思い出すことがあったんだ。そうだ思い出した。俺お前を殺すって言ったよな。そうそう確かに言ったぜ」

わざとらしく忘れたふりする仗助が怖い。お爺ちゃんを殺したアンジェロも生きながら岩にしたし、身内に危害を加えた相手には情け無用の主人公だ。そういえば父・ジョセフも若い頃、エリナばあちゃんに買ってもらった服を鼻血で汚した誘拐犯に腹を立て、飛行機を墜落させてましたね。

「ちょっと待ってくれ!僕は他人が怖がるのを観察するのが好きなだけだったんだ…スタンドを身に着けたばかりつい図に乗ってしまったんだ」

他人を怖がらせて面白がるだけでも十分タチが悪いよ! 仗助の判決は情状酌量の余地なしだ。

「お前よぉ。怖がる時片目瞑る癖があるだろ? 「だがもっと怖い時は両目を瞑る」

誰でもそうだよ! ぞんぶんに恐怖の仕返しをした後に、ザ・処刑タイム。全身全霊のドラララを食らったエニグマの少年、シュレッダーの紙と一体化して本にされた。大好きな観察だけができる本に……。

《エニグマの少年、宮本輝之介。本になったので再起不能!》

ようやく名前が出た。原作では「少年の名」は不明とされ、後にムックで命名された経緯がある。杜王町図書館に寄贈という末路もかなりエグい。

戦い終わって、エニグマの出したタクシーに全員が乗って帰るのはアニメオリジナル。「もしかしたら僕達が吉良に近づいてるってことかも」という康一くん、この後の大仕事に間に合わせるためにタクシーに乗る構成にしたのかも。

タクシーの走る道路には、July15(7月15,73,日)の文字が。「おのれ~しぶとい奴め」と悔しがる吉良のおやじ、幽霊になってもしぶとく現世に残るアンタに言われたくないよ!

7月15日(木)16時10分

「助けなんか読んでも無駄だよ。さっさと写真燃やそ。ね?」

そうチープ・トリックに囁かれながらも、露伴先生が電話した先はやっぱり康一くん。さっきタクシーに乗らせたのは「この電話に間に合うよう、自宅に帰らせるため」だろう。仗助も康一くんも2連戦とは、ハードにも程がある1日だ。

7月15日(木)16時30分

「奴の動きにいち早く気付くためにリストの行方不明者周辺を探る」

ついに承太郎も、吉良探しに動く。

7月15日(木)16時52分

(撮るんだ…パパがパパでない証拠を…絶対に!)

盗撮のスキルを持つ小学生・川尻早人も、川尻浩作=吉良吉影の尻尾をつかむためについに動く!
(多根清史)