調達購買改革を巡る誤解 その5/野町 直弘
その5.「競争化」=「コスト削減」の誤解
過去四回で調達購買改革を巡る様々な誤解について取上げてきましたが、今回はその最終回です。「競争化」について取上げます。
どこの企業もしくは公共のどんなバイヤーや契約担当者でも2社以上のサプライヤを競わせることは当たり前のようにやっているでしょう。いわゆる競争入札、入札、相見積、コンペ、ソーシング、等々様々な呼び方がありますし多少手法も異なりますが、基本的には2社以上のサプライヤを競わせるいわゆる「競争化」という購買手法の基本になります。
この購買手法の基本となる「競争化」はバイヤーや契約担当者だけでなく全社員に対して徹底させるように、全社員の購買規則である購買規程にも「相見積」「コンペ」の徹底を徹底している企業は多いです。つまり購買部門だけでなく、全社の支出管理、購買管理の基本的なルールと言えます。
しかし、競争化が必ずしもコスト削減につながるかというとそうでもありません。単に見かけ上のコスト削減でしかなく実際にはコストが上がってしまった、ということも少なくありません。
例えば一時期の公共情報システム開発案件で一般競争入札を行いサプライヤを選定したものの、最終的に「動かないシステム」ばかりになってしまい、「安物買いの銭失い」状態になったという話はその典型的な事例です。これも比べられないものを無理やり比べようとして、結局は立ち行かなくなり、高くついてしまったという事例と言えます。
それでは「比較できない」「競争させられない」ことの理由はなんでしょうか。ようするに1社特命にならざるを得ない理由です。
まず最初に思いつくのは、例えばユニークな技術やソリューションを含む製品サービスでしょう。ユニークなモノであり、ここから買うしかないという理由になります。しかしよく考えると、このようなユニークなサービスや技術がそこここに存在する、というのも考え難いことです。
他にも「比べられない」ことの様々な理由が考えられます。
例えば、比較するサプライヤを探していない、探す時間がない。
切替えに時間や手間やコストがかかるので切替えられない、もしくは切替えをあきらめてしまう。これもよく聞かれる話です。
次は、仕様が固まっていないので特定者しかできないということ。特定者は多くの場合で既存のサプライヤになります。
あとは、例えば美味しい商売でないので特定の会社しかやりたがらない、というのも特命の理由としてあげられるでしょう。
このように考えると理由は様々ですが身の回りの案件でも比べられないものが意外と多いことがわかります。もちろんその理由によって、探していない、とか仕様が固まっていない、明確でないなどはやり方によっては競争させることが可能です。
調達購買の仕事は、最適なサプライヤと適正な価格決定なので、もし競争化しなくても最適なサプライヤを選定し、適正な価格であれば問題ありません。ですから新しいサプライヤを探して競争できるようにする以外にも、コスト分析を行って妥当性を検証し適正価格を担保させる等のやり方もあります。いずれにしても様々な場面で柔軟に対応すべきということで
しょう。
先の公共調達の事例などは、競争させるよりも一社指定でプロジェクト全体のコストを如何に抑制し円滑なプロジェクト推進を目指していくべきかが重要であったにも関わらず、無理に比較しようとするから無理がでてきたと言えます。無理に比べることによって最悪の場合には安かろう悪かろうという状態に陥ります。
またこれはオークションなどでよくある事例ですが、4社候補がいたとしても1社が圧倒的な競争力を持つような場合に、1社しか入札ができず結果的に高止まりしてしまったということもあり得ます。これも無理に競争させることの弊害の一つです。
仕様が固まっていない、明確でない場合での競争化の場合は、既存サプライヤしか仕様を理解できず、また他サプライヤはどうしても保険をかけて高い見積りを出す傾向となりがちです。こういうケースでは多くの場合、最安値サプライヤは既存サプライヤになってしまいます。しかし最安値と思って選定したものの、仕様変更でどんどんコストが上がり、結局「あのコンペは何だったんだろう」と言うような事態に陥ることも多々見受けられます。
これでは競争化により「見かけ上のコスト削減」だけ実現しましたということになりかねません。
もっと酷いケースだとここに発注したいと想定しているサプライヤがいて、例えば要求元が裏でシナリオを作り最安値見積りなるようにする、もっと言えばそれにバイヤーも協力しているという状況です。それでも(一応)「相見積りとってるからルール通りだし問題ないでしょ」、という言い訳作りにつながります。これを私は精神的癒着状態と表現しています。
ここに上げたようにやはり「競争化」できないものは多くありますし、それを無理に競争化すると、見かけ上のコスト削減だけで実際の「コスト削減」にはつながらない、ということがわかるでしょう。
それではどうすればいいでしょうか。まずは「競争化に適した品目」と「そうでない品目」を層別化することです。また競争化に適しているにも関わらずサプライヤを探していなくて競争化できないようなものについては競争環境をつくりだすことがバイヤーの役割です。
これは今回の「誤解シリーズ」に共通する「何もかも同じキーワードで括る調達購買改革の間違え」という考え方につながります。
またもう一つ推進しなければならない取組みは「価格妥当性の評価」です。
競争化しているから価格の妥当性評価はやらなくても良い、ではダメです。自身が購入するものがどのようなコスト構造や市況環境を持ち様々な方法で評価をやっても高すぎない(安すぎない)ことを検証しなければなりません。公共調達の予定価格制度のような取組みですが、このような視点は欠かせません。そうでなければ調達購買の仕事は相見積を取るだけの誰でもできる(将来的にはロボットにも)仕事となってしまうでしょう。
次回は、今回の「誤解シリーズ」の総括をしていきます。