スターバックスコーポレーション会長兼社長兼CEO ハワード・シュルツ氏(写真=時事通信フォト)

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人間関係を構築するうえで、成功者とそうでない人はどこがどう違うのか。それがわかれば、成功への道のりも見えてくるというものだ。世界中のVIP1000人以上に取材を重ねてきたジャーナリスト・谷本有香さんにお話を聞いた。

■家族の前でも弱みは見せない

成功者は辛いとき、まわりに弱さを見せません。「もうダメだ」とネガティブな発言をすることもしません。彼らが相談を持ち掛けるのは、ビジネス上のつながりが少ない企業経営者の友人など、精神的にタフな人たちばかり。家族や部下など、自分が失敗した事実を聞いて、一緒になって落ち込んでしまうような相手には、決して弱った姿を見せないのです。相談したことで、自分を支える「周囲の力」が弱まることを恐れているのだと思います。

とはいえ、事業での失敗があった場合、マスコミなどの前で状況説明をしなくてはいけない場合があります。私も「どうしてですか? 大丈夫なんですか?」と質問を投げかける立場にいます。そんなときの彼らは、決まって非常に淡々と事実のみを説明します。そして、最終的には「今回はこういう理由で失敗したが、このような改善策を講じて巻き返していきます」と話をポジティブに転換して、私たちに明るい未来を見せてくれます。彼らは基本的に自分の能力に自信があり、ポジティブシンキングが身についているのです。

たとえばスターバックスコーポレーションのハワード・シュルツさんは、スタバの経営状態が悪化したとき「今のひどい経営状態は、すべて情報開示した。最悪だ。でも、僕にはスタバをもっと大きくする志がある。ビジョンがある。だから安心してついてきてくれ」と従業員に言ったそうです。すると、どんなに大きな失敗でも、成功への過程のひとつであるかのように思えてくるから不思議です。未来のビジョンが明確だから、社員たちも「よし、頑張ろう」とポジティブ転換できるのです。

これはかなりイレギュラーですが、「ポジティブな人」といって一番に思い浮かべるのは、さわかみ投信の創業者・澤上篤人さんです。90年代後半に起きた「さわかみブーム」で、独特の語り口調を記憶されている方もいると思いますが、あれがつくったキャラではなく「素」なのが彼のすごいところ。実際にお会いしても、いい意味で「突き抜けてポジティブ」なのです。自社の投資商品の価値が暴落したタイミングでも、「大丈夫、大丈夫!」と笑顔。不謹慎なほどのポジティブシンキングは、やはり人を束ねるトップには必要な資質なのだと思い知らされます。

■社員を前向きにするパフォーマンスとは

状況を冷静に分析して伝えるという部分では、京セラ名誉会長の稲盛和夫さんや、ファーストリテイリングの柳井正さんが非常にお上手です。彼らは大変な現実から目をそらさず、具体的なダメ出しをします。ただし、そこで終わるのではなく、解決策まで具体的に提示するので、「成功への道筋は見えているのだな」という安心感や信頼感を醸成することができます。

柳井さんに関しては、かれこれ15年ほど取材させていただいていますが、最近、辛いときに限らず社員の前でのパフォーマンスが上手くなったなと感じます。昔はもっと人間味のない「ビジネスマシーン」を思わせるような方でしたが、理屈だけで人の心はつかめないということがわかってきたのかもしれません。ユニクロ自体の規模感も、初めてお会いした当時と今ではまるで違います。事業のステージが上がったから人間的に成長したのか、人間的な成長があったからあそこまで事業が成長したのかはわかりませんが、辛いときも社員の心を前向きにさせるパフォーマンスができるのは、「トップ・オブ・トップ」の条件でしょう。

【調査概要】
年収1000万円以上で「自分の人生は成功だ」と思っている人(成功者)と、年収300万円以下で「自分の人生は失敗だ」と思っている人(失敗者)に、リサーチプラスにて、各100人にアンケート調査を実施。2015年3月6〜9日。

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ジャーナリスト・経済キャスター 谷本有香
証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスターに。トニー・ブレア元英首相の独占インタビューをはじめ、世界のVIPたちへのインタビューは1000人を超える。現在、日経CNBC「夜エクスプレス」のアンカーを担当。テレビ朝日「サンデースクランブル」ゲストコメンテーターとして不定期出演中。

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(ジャーナリスト・経済キャスター 谷本有香 大高志帆=構成 時事通信フォト=写真)