職業別加入率1位「医師」、2位「IT系」の保険が“暗示”すること

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■20、30 代「ひとり暮らし」が働けなくなったら

単身の世帯が増え続けています。高齢者もそうですが、20、30代の若い世代にもひとり暮らしが多くなっています。相関関係にあるのは、未婚率の上昇でしょう。

以前、30代のキャリアウーマンのお客さまが次のように言われました。

「私は、1000万円の死亡保険に入っているのですが、自分の生活をよく考えてみたら、これはいらない保険でした。私が死んでも誰も困らないからです(編注:親は健在で、まだ働いているか、年金を支給されており、娘が死亡しても経済的な影響はない)。マンションも住宅ローンで買った(団体信用生命保険加入しているので、死亡後はローン返済免除)。友だちはたくさんいて、『寂しい』といえば駆けつけてくれるボーイフレンドもいる。でも……、もし病気やケガで長期間寝込んで、動けなくなったり働けなくなったりしたら、どうなるか。それが、とても心配です」

現状には何の不自由もない。ひとり暮らしでも問題はない。しかし、長い間働けない状態になったら、収入は途絶え、友だちも寄り付かなくなってしまうのではないか。そんな漠然とした不安をいつも感じているというのです。

この話を聞いて読者の皆さんはこう思われるかもしれません。

病気やケガをしても、何らかのサポートがあるから大丈夫、そんなに深刻に考えなくても、と。社会保険や公的扶助があるよ、と。

確かに、公的なセーフティネットはあります。

まず、会社員なら「傷病手当金」が出ます。病気やケガで働くことができず、欠勤日が連続して3日間以上あった場合、4日目以降は標準報酬月額の3分の2が支給されます。ただし、その支給は18カ月まで。それ以降は支給されません。(編注:他に年金保険の「障害年金」や、労働保険として「労働者災害補償制度」、公的扶助として「特別障害者手当」などがあるが、いずれも給付条件が厳しく、給付金額も十分とはいえない)

では、民間の保険を買えばいいのではないか。

ところが、軽度の病気やケガであれば医療保険で事足りるかもしれませんが、治療・療養が長期にわたる場合は医療保険でカバーしきれないことがあります。一般に、医療保険の1回の入院に対する支給の限度日数は60〜180日となっています。

■35〜44歳の女性が働けなくなる確率は?

とはいえ、冒頭のキャリアウーマンが心配するような長期間働けない病気やケガに遭遇する可能性はそれほど高くないのではないか。そう感じる人も多いでしょう。

そこで、表を見てください。

公的なデータから「障害状態」に陥る各確率と、死亡率を比べてみました。注目してほしいのは、35〜44歳の女性の障害発生率(障害1級:日常生活不能、同2級:日常生活制限、同3級:労働制限)です。この年代の女性の死亡率は0.3%(1000人中3人)。それに対して、働けなくなる状態といえる障害発生率は0.62%(1000人中約6人)。2倍以上です。他の世代や男性でも、障害発生率は必ずしも低いとは限らないことがわかります(表参照)。

この数字を、高いと見るか、低いと見るか。それは人それぞれでしょう。

ただ、確実に言えることがひとつ。幸いなことに死亡はしなかったけれど、働ける状態でもない。もし万が一、そんな状況に陥ったら(セーフティネットや医療保険がカバーできない分野ゆえに)、たちまち生活が困窮するリスクが確実に存在します。ひとり暮らし世帯にも、片方のパートナーのみに収入がある家族世帯でも。

特に、後者の家族世帯の場合、住宅ローンを抱えている方は加入されている団体信用生命保険では、就業不能時に保障されない場合もあるので注意が必要です。団信では、死亡時や高度障害時の保障は確保できても、長期入院や在宅療養は保障の範囲外になっていることが多く、その場合、せっかくのマイホームを手放さないといけないようなケースが出てくるかもしれません。

以上のような「働けなくなるリスク」が今後増えるとみられることから、私たちライフネット生命は「就業不能保険」を発売しています(例:月の支給額は10万〜50万円からの選択式で給与の6割程度の上限あり/主婦・主夫も加入OK/就業不能状態から回復したら支払は停止/うつ病は対象外)。

ちなみに2015年度に、ライフネット生命が死亡保険金をお支払いした件数は50件でした。一方、就業不能保険加入者で給付金をお支払いしたのは、77件にのぼります。件数では、就業不能保険のほうが多いのです。医療の進化もあり、病気やアクシデントに見舞われ、一命はとりとめたものの、働けなくなる人は決して少なくないのです。

■なぜ、医師は就業不能保険に加入するのか?

繰り返しになりますが、ひとり暮らし世帯でも、そうでない世帯でも、「世帯主」が病気やケガで働けなくなるリスクはゼロではありません。そしてちょっと興味深いのは、そうした事態に備え、私たちの就業不能保険を買ってくださる「特定の職業」の人がいるということです。

それは、医師や看護師の方々です。

就業不能保険加入者の職業割合を見ると、8.8%が医療業、6.8%が情報サービス業(ソフトウェア・情報処理 など)、5.0%が総合工事業(土木・建築・舗装・リフォーム工事 など)などとなっています。

あるドクターは、なぜ就業不能保険を買われたのですか、との私の問いにこう答えました。

「出口さん、それは、私たちは毎日患者さんを見ているからです。瀕死の患者さん(男性)が病院に運ばれてきて、一命をとりとめた。駆けつけた家族の皆さんは安堵しています。『よかった、無事で』と。でも、働ける状態ではない。住宅ローンは残っているし、子どももまだ小さい。残念ながら、その後、家族が(経済的にも)苦しむ様子が目に浮かぶのです」

こういう話を伺うと、前述の「障害状態に陥る確率」の数字の意味がより重く感じられるのです。個人的な意見ですが、僕は新社会人の皆さんや、20、30代のひとり暮らしの皆さんが最初に買うべき保険は就業不能保険だと考えています。

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ライフネット生命保険 会長兼CEO
出口治明
1948年、三重県生まれ。72年京都大学法学部卒業、日本生命入社。92年ロンドン事務所長、95年国際業務部長、98年公務部長。2006年生命保険準備会社ネットライフ企画株式会社を設立、同社社長に就任。08年生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険社長に。2013年6月より現職。最新著に『「全世界史」講義 教養に効く!  人類5000年史』 (I古代・中世編、 II近世・近現代編:新潮社)など。

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(ライフネット生命保険会長兼CEO 出口治明=談 大塚常好=構成 )