空腹の「万引き」に逆転無罪、イタリア最高裁「必要に迫られた」…日本でもありえる?
飢えに耐えかねて食べ物を盗むことは犯罪には当たらない――。スーパーで食品を万引きしたとして窃盗の罪に問われたホームレスのウクライナ人男性の上告審で、イタリアの最高裁がそんな判決を言い渡した。
報道によると、ウクライナ国籍の男性(36)は2011年にスーパーマーケットでソーセージとチーズ約4ユーロ(約500円)分を盗んだとして窃盗罪に問われた。レジでは盗んだ食品を上着の下に隠してパンの代金のみを支払っていたが、別の客が店員に告げたことから盗みが発覚し、警察に逮捕された。
2013年の一審では、窃盗罪で禁錮6年と罰金100ユーロの有罪判決が言い渡された。2015年の控訴審判決も一審を支持した。しかし、最高裁は、必要に迫られて少量の食品を盗む行為は犯罪には当たらないと判断した。「被告人は緊急かつ不可欠だった栄養摂取のために少量の食品を手にした」「必要性に駆られた状況における行為だった」と認定し、無罪を言い渡したという。
何やら信じがたいような判決だが、もし日本で同様の裁判があった場合、無罪になる可能性はあるのだろうか。矢田倫子弁護士に聞いた。
●日本では「緊急避難」の問題になる「『飢えに耐えかねてやむを得ず盗んだ』という弁明は、日本の刑法では、緊急避難の主張となります。
緊急避難とは、違法性阻却事由のひとつで、刑法37条1項本文に規定する要件を満たす場合には、犯罪の構成要件に該当しても違法性を阻却され、犯罪として成立しないことになります。次のような内容です。
『自己または他人の生命・身体・自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない』
緊急避難は、正当防衛とよく似た概念ですが、正当防衛が、『不正』の侵害に対する防衛行為であるのに対して、緊急避難は、『不正』の侵害ではないことから、その要件は正当防衛よりも厳格だと考えられています。
行為者の権利を守るために、『不正』ではない他人に対して『自分の権利が侵害されることを容認せよ』と言っているのですから、厳格さが要求されてしかるべきでしょう」
具体的な場面では、どのように区別されるのだろうか。
「たとえば、強盗に襲われた場合を考えてみましょう。
この場合、自分の身を守るために、強盗に反撃する場合が正当防衛の問題となります。一方で、強盗から逃げるために、近くの家の木戸を破って逃げたような場合が緊急避難の問題となる場面になります」
●「盗む」という手段の他に、方法はなかったのか?今回のケースは、日本で緊急避難が成立する可能性はあるのか。
「最も問題となるのは、緊急避難の要件のうち『やむを得ずにした行為』という要件を満たすかどうかです。『やむを得ずにした行為』とは、簡単に言えば、その他にとりうる方法がなかったかどうかということです。
盗むという手段を採る他に、飢えをしのぐ方法がないと認定されない限り、緊急避難は成立せず、無罪にはならないということになります。
ただ、日本の場合、通常は自分自身の稼ぎや、親族等に扶養されている状態によって生計を立て食べ物を入手するものですが、何らかの理由で生計を立てることができず食べ物が入手できなかった場合、最終的には行政に対して保護を求めることが可能です。
通常の場合であれば、盗むほかに飢えをしのぐ方法がないとは認められず、緊急避難は成立しないという結論となるでしょう」
矢田弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
矢田 倫子(やた・のりこ)弁護士
東京地方検察庁・名古屋地方検察庁など歴任後、平成21年退官・弁護士登録。平成24年2月に福田敬弘弁護士・田島攝規公認会計士・税理士と共に「ひかり法律会計事務所」を設立し、現在は広く刑事・民事全般分野で活躍中。
事務所名:ひかり法律会計事務所
事務所URL:http://www.office-hikari.jp/