30年前にブレイクしなかったコンビニのコーヒーは今、なぜヒットしているのか?(後編)

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 今、コンビニに行くと当たり前のようにあるコーヒー。カップをもらい、セルフで注がなければいけないが、安価で美味しいコーヒーが飲めるということから人気を集めている。

 実はこのコンビニコーヒーが初めて登場したのは30年も前のことだという。しかし、今なぜブレイクしたのか? その答えが書かれているのが、数多くのヒット商品を企画・立案してきた高杉康成氏が執筆した『ヒットの原理』(日経BP社/刊)だ。
 本書はヒット商品の事例を紹介ながら、ヒットを生み出すためにどのように「プラン」を組み立てるかというところに力点が置かれて書かれている。どんなビジネスマンも「プラン」作りをする機会はあるが、あらゆる「プラン」作りの場面で応用できる内容であるため、ビジネスに携わるすべての人が参考にできる一冊となっている。
 今回、新刊JPは著者の高杉氏にインタビューを行った。その後編をお送りする。

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――第4章では「ダメプランを変身させる」というテーマで、売り上げ向上プランの練り方を書かれていますが、ダメプランに共通する特徴はなんですか?

高杉:まずは、「思考の薄さ」です。考える時間がないのか、考えるスキルがないのかはわかりませんが、とにかく「ペラッとしたプラン」が多いですね。
例えば、新商品開発や新規事業を考える場合、市場規模は重要な要素なのですが、ほとんどの企業でそれを算定する場合に、調査会社の市場予測データを鵜呑みにしています。調査会社のデータは、あくまでも調査した人の予測です。しかも参入企業にインタビューしているわけですので、前提条件はインタビューされた人が正直にすべてを答えているということです。
ビジネスは競争ですので、調査会社のインタビューにすべて正直に答えているとは限りません。それなのに、その数値を使ってプランを立て、決裁する人もその数値をベースにしている。何か滑稽な感じです。
次に、やはり「トレンド」「ニーズ」が圧倒的に足りない点です。世の中のビジネスを深く観察しますと、ヒットしているビジネスはもれなく「トレンド」「ニーズ」を捉えています。最近は、こういった要素よりも、ポートフォリオ的な発想が重視されているような感じですね。例えば、競合比較とか、ポジショニングとか。金融ビジネスの発想が、それ以外にビジネスにも波及しているのではないでしょうか。

――ものすごく大々的にPRしても大コケする商品は星の数ほどあります。大コケしたことが分かったとき、その商品から手を引くべきか、まだPRを諦めないべきか、その線引きをどのタイミングですべきなのでしょうか。

高杉:売れない商品は、商品(サービス業の際はサービス)に自力がないか、プロモーションがまずいか、ターゲットが間違っているかのどれかです。商品・サービスが「トレンド」「ニーズ」をしっかりと捉えているのであれば、プロモーションをはじめとするPRにもっと力を入れれば売れる可能性は残っています。従いまして、一つの判断基準は、「トレンド」「ニーズ」との合致度合いということになります。
ただ、大コケする商品の大多数は、こういった要素を備えていません。それどころが、社会環境の変化を伴っていない「ブーム」に踊らされた商品が多いのも特徴です。ブームとトレンドは全く違います。ここを理解しないでブームだけを捉えた商品・サービスは失敗する確率が高いと考えます。

――本書ではヒットするプランを作る上のマーケティングのノウハウが書かれていますが、その中でも最も大事なものはなんですか?

高杉:先ほどから述べていますように、「思考の深さ」ではないでしょうか。価格比較情報、レビュー情報、SNSでの口コミのように、商品・サービスの良し悪しを評価する方法が、表面的なものになってきました。要は、「勝ち馬に乗る思考」が増えてきているのです。よくよく中身を調べることもなく、みんなの評価がいいので、自分もそれに乗ってしまうというトレンドです。その結果として、売れるものはとことん売れて、売れないものは全く売れない、という2極化時代になってきました。
こういった時代の中では、どうしても「目先の表面的な思考」になりがちです。レモン味のミネラルウオーターが売れているなら「リンゴ味にしよう」といった発想です。これはこれで1つの手法なのですが、消費者の受け止め方が薄くなってきているからといって、企画立案が薄くていいという理屈は通りません。レモン味が売れているなら「なぜ売れているのか」をしっかりと深掘りし、その構造(ビジネスモデル)を解明し、新しい企画をするべきです。
このように、BtoCビジネス、BtoBビジネスともに、企画(プラン)がどんどん薄くなってきています。こういった「薄くてペラっとしたビジネストレンド」がある中で、「深くて自力のあるビジネス」を投入すること、そして、そういった思考で「考え続けること」は、大きな差異化を生み出すことになります。目先の商品・サービスは真似をされますが、それを作る思考や仕組みは簡単には真似されない、という考え方です。

――ヒット商品が生み出される前夜(またはその直前)には独特な雰囲気があると聞いたことがありますが、高杉さんもそのような経験はありますか? あるときはどのような感じでしたか?

高杉:実は私も不思議な体験があります。一般的にどういった表現をされるかはわかりませんが、私の中では「ころがる」という体験で、たびたび経験しています。
「ころがる」というのは、商品やプランを推進していく中で、いろんな物事を同時並行的に進めるのですが、その物事が「簡単に転がっていく」という感じです。
例えば、主取引先の開拓をどうしようか悩んでいて、そこがボトルネックになっている際に、「昔展示会等で見た」といって顧客から電話がかかってきたりして、一気にボトルネックが解消してしまうようなケースです。こういった現象が「ころがる」という感じです。ビジネスを推進していく際は、様々なハードルがあるのですが、それが、いとも簡単に解決してしまう。まさに「ころがる」というイメージです。
たぶん、この「ころがる度合い」は、仕掛けによるところなのだと思います。しっかりとした「仕掛け」をどこかの段階で仕込んでおいたことが、後になって帰ってくるようなイメージです。そういった意味では、「ころがす」こともマーケティングの活動の重要な部分なのかもしれません。

――この本をどのような人に読んでほしいとお考えですか?

高杉:幅広いビジネスマンのみなさんに読んでいただければと思っています。一見、「マーケティング担当者向けのヒット商品バイブル」みたいに見えますが、中身は、ビジネスマン全体をターゲットにした「良いプランづくりのための本」です。ビジネスマンであれば、日常的にさまざまな「プラン」を立てています。

・営業マンであれば、営業会議で発表する販売計画
・経営企画であれば、中長期経営計画
・マーケティング担当者であれば、新商品の企画立案やプロモーション計画
・人事担当者であれば採用計画
・経営者、経営層では、事業計画

このようにプランを立てることはビジネスマンにとって「日常茶飯事」です。そういった中、「トレンド」「ニーズ」を少しだけでも取り入れるだけで、客観性の高い「グッドプラン」にすることができます。そして、それをもっと磨けば「エクセレントプラン」に変身させることができるのです。
出来の悪い「ダメプラン」は、何回も修正が入り、それがもとで、どんどん時間が無くなり、またプランの出来が悪くなるという悪循環に陥ってしまいます。それを避けるためにも、「良いプラン」をしっかりと立て、好循環に結び付けることが重要だと思っています。
 要は、「エクセレントプラン」を立てるためには、というテーマで書いていますので、ビジネスマン全体の方に是非見ていただければと思います。

――このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。

高杉:この本は、「とにかく簡単に優しく読めるけど、中身はしっかりとした実用書」をイメージして書きました。コンセプトは「簡単だけどリアルな内容」です。
ビジネス書は、概念だけではわかりにくいので事例が大事なのですが、事例にリアリティがないと読んでいても面白くありません。そこで、本書では、私がコンサルタントをしているという特長を活かし「リアリティのある事例」を入れています。読んでいただければ、おそらく、その部分は感じていただけるのではないでしょうか。
本の構成についても、「読みやすく考えてもらうこと」を重視しました。最初はコンビニコーヒーやレイコップの事例などから入りますが、後ろの章に行けばいくほど、中身もどんどん深くなってきます。ほとんどの章で事例を多用し、その事例を皆さんにも考えてもらうという「考えてもらいながら読んでもらう」構成になっています。
あとは、私の「思考回路」を入れています。出版社の編集担当者の方から、「あなたの物事を捉える視点を見える化してほしい」という要望がありました。考えてみれば、私がコンサルタントとして成功しているのも、一つのヒット事例です。その成功の鍵の一つに、「物事の捉え方」があるのですが、それを見える化したわけです。新聞、WEBなどを見た際、何に注目しているのか、そして、それをどう分析しているのか。これを具体的に書きました。
とにかく、「簡単で読みやすいけど、リアリティのあるたくさん事例と考えながら読んでもらう実用書」ですので、是非、一度読んでいただきまして、みなさんのビジネスに生かしていただければと思っています。

(了)