QVCマリンでの練習中、チームメートに明るく声をかける涌井(右は香月良仁)【写真:長谷川美帆】

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マリーンズ移籍2年目、チームメートへの気遣いが目立つ涌井

 7月24日の楽天戦に先発したロッテの涌井秀章は、8回途中2失点で今季7勝目を挙げ、史上132人目となる通算100勝を達成した。

 試合後に花束を受け取ると、「調子はあまり良くなかったので、とにかく低め低めで打たせて、野手を信頼して投げました」と自らの投球を振り返った。
プロ初勝利は西武時代の2005年6月。11年目で到達した記録だった。

 マリーンズに移籍して2年目を迎える。涌井はチームメートへの心遣いが目立つ選手だ。

 例えば、今年から新加入した韓国出身のイ・デウン。今では笑顔でチームに溶け込んでいるが、その陰には涌井の細やかな気配りが存在していた。

 今年2月の石垣春季キャンプでのことだった。陸上競技場では涌井を筆頭に、唐川侑己、藤岡貴裕、石川歩、イ・デウンら投手陣がシャトルランに取り組んでいた。

 入団したばかりの投手が、マリーンズのキャンプのランニング量の多さに驚かされるのはよくある話だ。途中、イ・デウンが1人で大きく遅れをとった場面があった。すると、涌井は他の選手と並んで走り込みを続けながら、折り返し地点に到達した数秒間で「大丈夫?」と気遣う声をかけていた。

ヒーローインタビューでは「明日も応援お願いします」と呼びかける涌井

 ほんの些細なことに思えるかもしれないが、この日はキャンプ2日目で、イ・デウンにとっては周りの選手のことを何も知らない時期。1年前は自分自身が新加入選手という立場だったこともあるのだろう。慣れない環境で必死に練習についていこうとするチームメートの表情を見逃さず、その後も涌井は率先してコミュニケーションをとっていた。

 また、同じく今年からチームに加わった台湾出身のチェン・グァンユウは「冗談を言ってくれたり、話しかけてくれることが嬉しい」と涌井について話している。

 その良好な関係性が表れたのは、今年の開幕カードでの出来事。開幕1戦目の先発は涌井、2戦目の先発はチェンが務めた。ホークスを相手に勝利を掴んだ涌井は、試合後のヒーローインタビューで「明日もチェンのために、(チームの)みんなのために、応援よろしくお願いします」とファンに呼びかけた。

 通算100勝を達成した日も同じだった。記録について「素直に嬉しいです。今日だけは余韻に浸りたいと思います」と感慨深げに話した涌井。ヒーローインタビューの最後にファンに向けて残した言葉は、自分のことではなく翌日の先発マウンドに上がる仲間のこと。

「声援が力になりました。明日も唐川を応援してあげてください」

 プロ通算100勝を達成した特別な日も、チーム全体を見渡し、ひとりひとりへ必要な言葉をかける。涌井が見せたのはいつもと変わらぬ表情だった。

長谷川美帆●文 text by Miho Hasegawa