『わたしの神様』(幻冬舎刊)。タレント・エッセイスト小島慶子さんの処女小説。テレビ局を舞台に次から次へと事態が展開する内容に、一気に読んでしまったという声が多数。

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「私には、ブスの気持ちがわからない」
「他人が自分の中身まで見てくれると期待するなんて、そんなのブスの思い上がりだ」
「テレビみたいないろんなこと言われる場所にわざわざ出て行くなんて、ほんとに幸せな女の子なら、そんなことしないですよ」
「(女子アナは)現代の花魁(おいらん)」

タレント・エッセイストの小島慶子さんの処女小説『わたしの神様』(幻冬舎刊)は、刺激的なパンチラインに溢れている。

小説の舞台となっているのは民放キー局。視聴率低迷中のニュース番組「ウィークエンド6」のテコ入れをめぐり、女子アナを中心とした様々な人の欲望と野望と嫉妬とが入り混じるエンターテインメント小説だ。この話題作について、現在オーストラリアに住む小島慶子さんに話を聞いてみた。

・なぜ女子アナが主人公の小説を書くことにしたのでしょうか?

「DRESSという女性誌で小説を連載することが決まったんですけど、元女子アナのタレントが、小説書きます、って言ったら、絶対読んでやるもんかって私だったら思うんです(笑)。『イターイ、女子アナとか言いながら、最終的に"私文才もあるんですぅ"系に転んでいく感じ?』って(笑)」
「きっとそういう読者も多いだろうと思ったんですけど、雑誌での連載ですから、読まれないと毎回そのページが飛ばされてしまい雑誌に対して申し訳ないので『私を嫌いで読んでやるもんかと思う人でも思わず読んでしまうとしたら何だろう?』と考えたら、それは好きでも嫌いでも女子アナ話なんじゃないかって思ったんです(笑)」
なんとしてでも読んでもらおうというサービス精神から生まれたこの小説、内容もかなりサービス精神に富んでいる。
多くの読者が「一気読みだった」というように、往年の大映ドラマばりに次から次へと事件やスキャンダルが発生し、ページをめくる手を止めさせないのだ。
しかも冒頭で挙げたようなパンチラインが随所に散りばめられてあるのだから、読者はどんどん引き込まれる。

・ かなり強烈なセリフも多いですね。
「(登場人物である)まなみが冒頭で『私には、ブスの気持ちがわからない』って言ってますよね?なんて酷い女!ってみんなギョッとするかもしれないですけど、どうでしょう?『私にはブスの気持ちがわかるわ、私は美人だけど心が優しいからブスの気持ちがわかるの』って言ったらそれを信じられますか?」

「あれはまなみなりのフェアネスというか、彼女が激しく絶望しているからなんです。人と人とは分かり合えないということを前提にして、それでも生き残ろうとしているという彼女なりの切羽詰まった状況でのセリフなんです」
この小説、一見するとスキャンダラスな女子アナの世界を描写いているように見えながら、実は「人と人とはわかりあえない」というのが一つの大きなテーマになっているようだ。
「私はまなみとは違う人間ですけど、自分が”新人女子アナ”としてうまく適応できなかったという経験を通じて、人が自分をどのように見たがるかを、私自身がどのようにすることもできないとわかりました。なぜならば、人はそのように物をみようとすることによって幸せになったり、安定したりしたいと思っているからなんです」

つまり、人は誰しも自分の精神的な平穏を得るために、物事を自分の都合のいいように解釈してしまうというのだ。

そのことはこの物語自体の解釈にも通ずる。

「この物語を嫉妬の物語と読んだり、小島慶子の復讐譚と読んだり、実在するアナウンサーの実話ベースの暴露話と読んだり、あるいは"自分とは全然違う職業の話だけど、同じしんどさを感じる"と読んだり、人それぞれの読み方があると思うのですが、なぜ自分がそういう風に読んだのかを考えてみることによって、ひょっとしたら自分が何に苦しんでいるのかとか、何を大切にしているのかということが見えてくるかもしれません」

なるほど。この物語のモデルの答え合わせをするより、自分がなぜ物語そうとらえたかということに目を向けることの方が大切であるということだ。

もちろん、自身の体験がベースになっているので、完全なフィクションでもないと小島さんはいうが、この際細かいモデル探しに労を割くのはあまり意味が無い。どんどんページをめくって、ノンストップでこの物語の世界に没頭していくのが正解だ。
(鶴賀太郎)