『醤油本』高橋万太郎 (著) 黒島慶子 (著) /玄光社

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醤油、と聞いたらあなたは何を思い浮かべるだろうか。私は「…醤油でしょ」というくらい、醤油は醤油! というイメージしかない。よくパートナーのことを空気みたいな存在と表現することがあるが、数ある調味料の中でもそんな存在に近いものを感じるのが醤油ではないだろうか。台所にあって当たり前。メーカーやブランドにはこだわらない。それが醤油のイメージだ。

日本酒や焼酎、ワイン、味噌などは各地の蔵元を紹介したり、製造方法や歴史などの薀蓄をまとめた本はあるものの、醤油についての本は見かけたことがなかった。そして空気みたいな調味料、醤油の存在を気にかけることもなかったのだが、このたび玄光社から発刊された『醤油本』を見て、読んで、紹介ビデオを拝見して、実は醤油ってすごくおもしろくて奥深いのかもしれない! と気づいた。

こちらの書籍が発刊されたきっかけは、編集者の萩原さんが私と同じように普段は気にかけていなかった醤油を造っている蔵元を訪れ、およそ一年かけて天然醸造で手間暇かけて造られる様子を見て、醤油に興味を持ったことが始まりらしい。

「醤油について調べていて、職人醤油というWebサイトを発見しました。その代表をされていたのが、今回筆者になってくださった高橋万太郎さん。職人醤油のサイトでは各地の醤油はもちろん、その醤油を造られている造り手の方々の人柄や醤油造りへのこだわりが丁寧に書かれていて、『自分が本にしたい内容はこれだ!』と思いました。」と編集の萩原さんは言う。

書籍の中では、根本的な醤油の知識から始まり、醤油の造り方、日本全国にある蔵元の紹介、「濃口」「淡口」「溜」「白」「再仕込」「甘口」の6種類の醤油の説明やそれに合わせた料理方法などを醤油の楽しみ方として展開、醤油の魅力を余すところなく伝えている。

これ一冊読んだだけで、もう「私の知ってる醤油知識自慢」をしたくてしょうがなくなってしまったが、これだけたくさんの情報を詰め込むためには、きっとたくさん取材や調査をされたことだろう。そんなたくさんの取材の中で、萩原さんが印象に残っているエピソードを聞いてみた。

「小豆島のヤマロク醤油・山本康夫さんの取り組み『木桶職人復活プロジェクト』が印象に残っています。最近では醤油や味噌を仕込む大きな木桶を作る職人も減り、このままでは未来の木桶仕込みの文化が途絶えてしまうという状況になってきています。そんな中、山本さんは、地元の大工さんとともに大阪の桶職人の元に出向き、醤油を仕込むための大きな木桶を一から作れるようになるために、修行に行ったそうです。本の中では、そのあたりの詳細や木桶の構造について細かく解説したページがあるので、ぜひ読んでいただきたいです!」

木桶は一度作ると150年〜200年使うことができるそうだが、作れる人や作る知識がなくなってしまえばそれまでだ。書籍の中で山本さんは語る。「孫やひ孫の代に本物の醤油を残す」と。そういう職人さんのおかげで、今日も伝統の醤油を味わうことができるのだ。

また、無知な私は醤油の原料すら知らない状態で、書籍を読み進めるたびに「ほほう!」と思うことばかりであったが、実際に編集に携わった萩原さんが初めて知った醤油の知識についても聞いてみた。

「この本を作ったことで、初めて知ったことが多かったのですが、中でも菌の話が印象的でした。安定した品質の醤油を造るにはタンクで仕込むことが多く、木桶で仕込んだ場合には各蔵元で独自の菌が住みつくこともあり、味の個性が分かれるそうです。醤油造りの主役は、原材料である大豆、小麦、塩を発酵させる菌ですが、その菌がいかにパフォーマンスを発揮できる環境を作れるかどうかは、蔵の人々の管理が大きく影響するようで、その管理方法は蔵人それぞれの考え方やこだわりによって変わってくるということを知りました。醤油を造る人の個性も醤油の味に反映されるというのはおもしろいと思いました。」

菌によって味が変わるとは! 今までスーパーの特売セールでなんとなく買っていた醤油だが、蔵元によって味が変わることや様々な種類があることを学んだ今、自分に合うマイベスト醤油を探してみたい欲求に駆られている。

たかが醤油、されど醤油。たぶん、これを読んでいる方々の中にも醤油を意識することなく使っている方が大多数ではないかと思う。そして、開けたら使い切るまでなんとなく使う、という方も多いだろう。書籍の中では「お悩み解決」として開封後の醤油はいつまでに使えばいい? などのQ&Aもあるので、深い知識のみならず普段の生活に活用できる知識も満載だ。

そんな「醤油本」。まだ少し購入を躊躇されている方へ、編集の萩原さんからもう一押し!
「発祥や歴史、醸造法などについても紹介しているので、知的好奇心旺盛な人が雑学の引き出しを増やすために読んでいただいても、いいかもしれません。また、『地域性』があるのもおもしろい部分だと思っています。旅好きな人は各地の蔵を巡りながら、それぞれの土地の醤油の味の違いや、それらの醤油を使った料理を楽しんでみるというのも醤油の楽しみ方の一つなのかもしれません。それから、筆者のお二人が和食、寿司、蕎麦、ラーメンなどの料理人の方々からお店を開業する際などに、『醤油の選定についてアドバイスが欲しい』と依頼を受けることもあるそうです。料理人の方々が研究のために読んでくださっても勉強になると思います。」

きっとこの先も一生、台所には必ず一本はあるだろう醤油。なんとなく使うのではなく、この機会に拘りのマイベスト醤油を見つけ出してみませんか?
(梶原みのり/boox)

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