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セ・パ交流戦開幕前日の13日、プロ野球実行委員会が行われ、WBCなどでは認められていない、味方攻撃中の投手の投球練習や野手のキャッチボールを公認野球規則通りに来季から禁止することが定められた。まずはオールスター戦後から二軍戦でテスト的に実施する。

WBC参加で浮き彫りにされた国際標準に即した規則通りの運用と言ってしまえばそれまでだが、これによって例えばカープの前田健太が登板中に次のイニングの投球に備えて投球練習を開始するときに行ういわゆる“マエケン体操”も来季からは見られなくなる!?

(写真:次の回の投球に備え、味方攻撃中にいわゆる“マエケン体操”で肩や身体をほぐす前田健太。 2013年3月撮影)

公認野球規則3.17

両チームのプレーヤーおよび控えのプレーヤーは、実際に競技にたずさわっているか、競技に出る準備をしているか、あるいは一塁または三塁のベースコーチに出ている場合を除いて、そのチームのベンチに入っていなければならない。

試合中は、プレーヤー、控えのプレーヤー、監督、コーチ、トレーナー、バットボーイのほかは、いかなる人もベンチに入ることは許されない。


そもそも公認野球規則ではこのいずれにも当てはまらない味方攻撃中の投手のベンチ前での投球練習や、次の回から守備に付く予定の野手のキャッチボールを想定していない。だからアメリカ大リーグやWBCのような国際大会では認められない。

記憶を頼りに書いて恐縮だが、敗戦処理。の記憶によるとかつてイニング間の投手の投球練習が8球だったのを試合時間短縮のために5球に減らしたときに、その代替案として味方の攻撃中にベンチ前(グラウンド)での投球練習を認めたのだと認識している。ハーフタイムでグラウンド整備などが入る五回裏を除くほとんどの回で登板中の投手は味方の攻撃が二死になるか、一死でも一死一塁など併殺で即チェンジになる可能性がある時にベンチ前で軽い投球練習を始める。昨今では投手がベンチ前で投球練習をしない場合は次の回からリリーフが送られる目安に出来た。

だが、今回の動きはそうした便宜上の運用をするよりも、規則を規則通りに厳格に運用することを優先する趣旨なのであろう。それが国際標準であるならば、今回の動きにも納得できる面もある。

ただ、国際標準だからといって導入した“統一球”が現在唯一の国際大会と言えるWBCでの使用球と感触が違うものだった様に、NPBの目指す国際標準が本当に国際標準でなかったなどというオチはもうやめて欲しい。

また、ルールの厳格運用というなら数年前に定めた、スタンドに観客を入場させて以降、相手球団の選手、監督、コーチと会話を交わさないという決まりはまるっきり守られていない。これは公認野球規則3.09の(2)を厳格に運用したものであろう。

公認野球規則3.09

ユニフォーム着用者は、次のことが禁じられる。


(2)監督、コーチまたはプレーヤーが、試合前、試合中を問わず、いかなるときでも観衆に話しかけたり、または相手チームのプレーヤーと親睦的態度をとること。

大相撲の八百長疑惑で力士間のやりとりが携帯電話でのメールで行われていたらしいことが発覚し、対岸の火事と感じずにプロ野球界もファンに疑念を抱かせないようにと他球団との私語禁止を打ち立てたまではよかったが、初年度から平気で破られていた。また公認野球規則9.02もかなりルーズだ。

公認野球規則9.02

(a)打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、あるいは走者がアウトかセーフかという裁定に限らず、審判員の判断に基づく裁定は最終のものであるから、プレーヤー、監督、コーチ、または控えのプレーヤーが、その裁定に対して、異議を唱えることは許されない。

(b)審判員の裁定が規則の適用を誤って下された疑いがあるときには、監督だけがその裁定を規則に基づく正しい裁定に訂正するように要請することができる。しかし、監督はこのような裁定を下した審判員に対してだけアピールする(規則適用の訂正を申し出る)ことが許される。

(c)審判員が、その裁定に対してアピールを受けた場合は、最終の裁定を下すにあたって、他の審判員の意見を求めることはできる。裁定を下した審判員から相談を受けた場合を除いて、審判員は、他の審判員の裁定に対して、批評を加えたり、変更を求めたり、異議を唱えたりすることは許されない。

(d)試合中、審判員の変更は認められない。ただし、病気または負傷のため、変更の必要が生じた場合はこの限りではない。


これまた国際大会である北京五輪で星野仙一監督がちょっと判定に抗議しただけで退場処分を食らったが、日頃ルールを厳格に適用しない野球に何十年もどっぷり浸かっていたツケであろう。

試合を円滑に進めるためにそこから逸脱しないためにルールを定めているのであって、実害がないと判断されるものは柔軟に運用すればいいという意見がある。確かに一理あると思う。だが、基本的に規則として明文化されているものは守られなければならないのであり、「こんなルール、有っても意味が無いから守る必要ない」ではなく、有っても意味が無いルールなら改廃すべきなのだ。「守らなくていい」ルールがどんどん恣意的に定められたら、それは公平なスポーツではない。

ただし、日本独自のルールを公認野球規則を改定して導入するとなると、日本の野球がガラパゴス野球となるおそれがある。日本の公認野球規則が改められるのはだいたいアメリカ大リーグでルールが改められると、一年遅れで採用しているという流れだ。五輪から野球という種目が外され、MLBとメジャーリーグ選手会に牛耳られていると言われるWBCが現状唯一の国際大会であるなかでそれでも国際標準に合わせることを優先にすべきなのかという疑問もあるが、基本的には国際…というかアメリカに合わせたルール改定は仕方のない流れであろう。

ところで、もう一度公認野球規則3.17に目を通していただきたい。

“プレーヤーおよび控えのプレーヤーは、…そのチームのベンチに入っていなければならない。”を文言通りに読むと、ベンチ入り選手は試合に出ているか、ベンチに入っていなければならないことになる。NPBでは支配下選手の内の一軍登録(出場選手登録)された28人の内25人がベンチ入りするが、故障しているが出場選手登録を外すほどではない選手がベンチ入りを外れることはあるが、試合に出る可能性のある選手はすべてベンチにいるのが普通だ。

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だが、今日(16日)、一軍登録のままイースタン・リーグ公式戦に投手として先発したファイターズの大谷翔平は今日デーゲームで千葉県の鎌ヶ谷市で行われる試合の登板に備え、前日(15日)の一軍公式戦、ナゴヤドームでのドラゴンズ戦の出場を取りやめた。普通に考えれば前日のうちに名古屋を離れ、千葉に戻ると思われるが、この日(15日)の試合にドラゴンズ戦に大谷はベンチ入りメンバーとして名を連ねていた。“控えのプレーヤー”である大谷がベンチに入っていなかったとしたら野球規則に違反していることになる。

大谷はイースタン・リーグで投手として初先発した4月11日のマリーンズ戦(QVCマリンフィールド)の前夜の一軍のゴールデンイーグルス戦(東京ドーム)でもベンチ入りメンバーに名を連ねながら、翌日のイースタンの試合開始時刻が午前11時と早いため、実際には試合中にはベンチにはおらず、鎌ヶ谷の寮に戻っていたと報じられていた。

予告先発制度があり、偵察要員の必要性もない時代に、試合中にベンチにいない選手を何故ベンチ入り登録するのか不思議だが、これも杓子定規に考えれば野球規則3.17に違反すると思う。また、拙blog2012年11月28日付エントリー次打者席(ネクストバッターズサークル) でネクストバッターズサークルに関する運用の疑問を取り上げたが、同規則によるとネクストバッターズサークルも存在しないことになる。“競技に出る準備をしている”をどう解釈するかによるのだが、アメリカ大リーグを見ても、これはせいぜいブルペンでの投球練習であろう。敗戦処理。の手元にあるベースボール・マガジン社が発行している公認野球規則によると、編者が必要と認めた説明または適用上の解釈としての【注】として3.17に対して

【注一】次打者席には、次打者またはその代打者以外入ってはならない。

とあるから、ネクストバッターズサークルは公式なものなのであろう。もっともこれも文言通りに解釈すればネクストバッターズサークルに入ることの出来る選手を定義しているだけで、次打者またはその代打者が入っていなければならないとはどこにも書いていないのである。だとすれば主に球審がネクストバッターズサークルに誰も入っていない事を攻撃側ベンチに注意しているのはルール上の行為ではなく運用上の行為ということになる。

余談だがネクストバッターズサークルとは次の打順に備えて準備する場所であるから、そこにいる場合は待機しているのが正しいありかたであり、軽い素振りをするとか、投手の投球にタイミングを合わせて構えたりする場合はプレーの妨げにならないようにネクストバッターズサークルより後方で行わなければならない、と敗戦処理。は子供の時に少年野球で教わった。だからプロの選手でもネクストバッターズサークルでじっと待機している次打者は少ない様だ。

話を戻そう。基本的には、ルールはルール通りに運用すべきであり、もしも実態にそぐわないルールがあるのなら、それを無視するのでなく、必要に応じて実態に合わせてルールを変えればいいのだ。そして今まで曖昧に、というか無視していたルールをルール通りに運用すると決めたのなら腹をくくるべきで、統一球が元のボールに戻ったのではないかとファンに疑念を抱かせるような、元の木阿弥になるようなことは避けるべきだ。そうでないと、いずれ野球はファンに置いて行かれる。

公認野球規則3.17を厳格に運用するなら、実質的に投球練習が減る投手をどうフォローするのか、例えばマウンドでの投球練習を5球から8球に戻すことも検討されよう。公認野球規則8.03では、

公認野球規則8.03

投手は各回の始めに登板する際、あるいは他の投手を救援する際には、捕手を相手に八球を超えない準備練習をすることは許される。この間プレイは停止される。

各リーグは、その独自の判断で、準備投球の数を八球以下に制限してもさしつかえない。このような準備投球は、いずれの場合も一分間を超えてはならない。(以下略)

ルール上、一分間以内という制限の元で、投球練習数を8球に戻すことは可能なのだ。規則の改定も必要ない。

ルールを守ることは当然としても、木を見て森を見ない様な運用は避けたいものだ。充分な検討を期待したい。