中学入試が終わり、親子ともどもほっと一息。でも、燃え尽き症候群になってしまっては元も子もありません。心構えを、プロの家庭教師に聞きました。

■二流止まりの子の思考パターン(1)
「がんばって合格したんだから、春休みくらい休ませてよ!」

いくら私立中高一貫のトップ校・準トップ校に合格しても、全員が東大をはじめとした難関大学へ進学できるわけではない。合格したとたんに気が緩み、高校受験もないために遊んでしまって成績が落ちる、というケースはよく耳にする。東大一直線か、二流止まりか。教育関係者が異口同音に語るのが「中学時代が人生の分かれ道」ということだ。

では、具体的にはどんな子が伸び、どんな子が止まってしまうのか。「東大家庭教師友の会」を運営するトモノカイで、多くの中学受験生や難関私立の中高生を教え、また講師の指導もしている吉田裕典氏に、中学・高校でさらに成長する子供の特徴を聞いてみよう。

「中学の早い段階で人生の分かれ目になるポイントがあります。その1つが春休みです。1学期から猛ダッシュできる子というのは、合格を勝ち取った後の春休み中も、ある程度は勉強習慣を継続しています。一方、合格だけが目標だった子は“燃え尽き症候群”のような状態になってしまいがちです。小学校時代、休日や睡眠時間を減らして勉強してきただけに『しばらく、休ませて』と合格した途端にやる気が落ちて、極端に勉強時間が減少してしまう。それが中学の授業が始まってからも続き、後れをとってしまいます」

ちょうど筆者の手元に、ある塾の入塾案内がある。それには、「中学入試直後に偏差値60程度の子供たちの3カ月後を調べてみると偏差値が45〜75の幅で大きく分散したという結果になった」とある。

入試直前まで切磋琢磨(せっさたくま)していたころは同じレベルだったのに、たった3カ月で、その数字が片や二流・三流、片や超一流へと枝分かれしてしまった。さらに、成績がガタ落ちした子は、「入学するまで何もしなかった」と答えた率が高いという。

「進学する学校から教材が渡された場合はそれをしっかりこなすこと。それが出ないケースでも、市販の教材で復習と予習をするといいでしょうね。とりわけ予習に関しては、英語と数学は1学期分はやっておくと心に余裕が持てます。そして、繰り返しになりますが、学習習慣を崩さないことが大切です」と吉田氏。

■二流止まりの子の思考パターン(2)
「みんなできる子ばかりだから、順位が後ろのほうでも仕方がない」

もう1つの鍵は、助走期間を経て挑む、初の中間考査だと吉田氏。通常、5月末から6月上旬にかけて実施されるこのテストの出来がよければ波に乗ることができる。逆にその結果が、後ろから数えたほうが早い順位になると、はい上がるのに苦労する。同級生にはかつて塾で肩を並べたような成績のいい子がたくさんいて、それに圧倒され、“学年順位が悪くても仕方がない”と思ってしまうと、成績は落ちる一方だ。

「子供って不思議なもので“自分の居心地のいい”順位というのがあるんです。学年で1位でなくても、30位ぐらいには入っていたいとか、平均点より少し上くらいとか。ですから、最初のテスト結果が良ければ、子供は自尊心を持つことができ、自然と“自分のポジション”を高いレベルに設定するようになります」

この最初のテストで後ろの順位でも、「これでいいや」と思う子と、「これではまずいから頑張ろう」と思える子では、その後の成績が変わってくるのは言わずもがなだろう。

ただし“初めよければすべてよし”とはいかないのが悩ましいところだ。3年前、本誌は東大生にアンケートを実施した。中学時代にスランプはあったかとの問いに、中高一貫校出身の学生の8割が「はい」と答えた。興味深いのは、その時期。実は「中2」をあげた率が最も高かったのだ。なぜか。

高校受験がなく、目標も見失いがちで、どうしても「中だるみしてしまう」からなのだ。入学当初の緊張感も徐々に薄れ、中2の夏あたりからダラダラして、成績急降下というケースが多いということらしい。

■二流止まりの子の思考パターン(3)
「部活が忙しい。高校受験がないから、勉強できなくても今はいいかな」

中だるみに加え、中2になると部活にも熱が入り始め、勉強時間が不足することも出てくる。ここで踏ん張れるかどうかも一流と二流の分かれ目だ。二流止まりの子は「高校受験もないし、とりあえず勉強ができなくてもいいか」と、ずるずる勉強時間が減るのだ。

「部活で疲れて寝てしまうなど、計画通りにいかない時でも、1日数時間でもいいから地道にやっていく子は、優秀なビジネスパーソンのようにPDCAをしっかり実行しています。計画し(Plan)、実行してから(Do)、チェックし(Check)、改善ポイントを見いだす(Action)」

「子供版PDCA」、できない子が大多数だろう。吉田氏の分析によれば、それは中学受験で「塾依存の勉強スタイルが染み込んでいる」からだとか。塾は、試験に出そうな要点をまとめた資料や対策問題を次々に子供に渡す。その親切すぎるサービスがアダとなり、子供は常に受け身で、やらされることに慣れてしまっている。塾が培った「合格への方程式」に乗せられてきたわけだが、「一流大学を目指す段階になってもその姿勢のままでは伸びしろは小さい」と吉田氏。

■二流止まりの子の思考パターン(4)
「受験テクニックさえ学べば大学受験も乗り切れる」

同じ学校に合格したのだから、それほど学力に差がない、と考えるのは早計なのだ。

「例えば、国語です。中学受験では国語の実力がいまひとつでも合格する子が案外多いんです。なぜなら、記述式より選択式の解答のほうが多いから。漢字やことわざ、文法などの問題は反復練習しているので正解できるし、問題文の『筆者の言いたいことは何か、次の中から選べ』といった選択式の出題も、塾直伝の受験テクニックで、ある程度絞り込むことができます。つまり、問題文をよく読解できていなくても正解できる。でも、中高では記述式問題が増え、出題文もより難解になります。テクニックでは正解できなくなる」

ましてや受験テクニックさえ学べば大学受験も乗り切れるなんて甘い考えでは、一流大学には行けないということだろう。中高で国語の成績がいい子というのは、日頃から本や新聞を読み、あらゆる形式の文章に触れている子だ。要するに、論理的な思考を読書など勉強以外の時間で自ら養成できれば伸びるということ。そしてそれは、算数・数学でも似たようなことが言える。

「二番手校や中堅校の中学入試の算数問題は、塾で教わるパターン演習をやっていれば、おおよそ解けてしまいます。つるかめ算、流水算、ニュートン算。基礎演習問題をいくつも解いていれば、深く思考しなくてもパターンで正解できる。でも、そこが落とし穴なんです。なぜ、そうなるのか。仕組みをきちんと理解していないと、中高で少しひねった問題に出合うと苦戦してしまう」

読書習慣は、突然備わるものではない。なるべく早い段階から本に親しめるように生活を変えていきたい。

最後に、親の対応も、子供のさらなる飛躍に関係するので注意が必要だ。

「子供が志望校に合格するやいなや、安心して、子供から急に手を引く親御さんが多いのですが、完全に放置してしまうと、(前述のように)成績が急降下するリスクがあります」

かといって、中学以降も過干渉でやかましく言うのは避けるべきで、あんばいが難しい。思春期を迎え、子供は親に対して“心の仕切り”をつくるもの。見守るスタンスで、自主性を育ててやりながら少しずつフェードアウトするのがベストだろう。

(大塚常好=文)