仏女流監督レア・フェネールがデビュー作を語る「刑務所の面会室はまるで情熱的な劇場」
フランス人女流監督、レア・フェネールの鮮烈な長編デビュー作『愛について、ある土曜日の面会室』が12月15日(土)より公開される。刑務所の面会室を舞台に、許し、慈しみ、犠牲など、様々な愛の形が浮き彫りになる本作。静かでありながら、何とも深い余韻を残す重厚な人間ドラマに仕上がった。来日したレア監督を訪ね、作品に込めた思いや、創作意欲の源を聞いた。
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刑務所の面会人へのボランティア活動を3年間務めた経歴を持つレア監督。刑務所の脇で泣きわめく女性を見かけたことから、本作の着想を得たという。「刑務所の面会室というのは、二つの世界が出会う場所で、まるで国境のような場所。お互いに触れ合い、感じ取り合い、様々な感情を交換できる通り道のようでもあるわ。並列したボックスの中で、子供に話しかける人もいれば、喧嘩する夫婦だっている。まるで、情熱的な劇場を見ているような雰囲気があるのよ。そういう人たちを見ているうちに、国境を越境する人たち、つまり、壁の向こう側にいる人に、面会に行く人たちに注目したいと思ったの」。
鋭い観察眼で人間を見つめ、面会室で生まれる微妙な心の揺らぎを表現してみせた。レア監督は、その微妙な揺らぎをこう例えた。「面会室で垣間見える感情は、まるで“おき火”のようなもの。小さくまとまっているものが、ちょっとした吐息や風で、炎となって燃え上がってしまうかもしれない。誰しもが、それが燃え上がらないように、感情を爆発させないように、何とか気持ちを抑えながら、壁の中の人と話をしているのよ」。
物語の主人公となる面会人は、初恋の人に会いに行こうとする少女ローレル、自分と瓜二つの受刑者との身代わりを依頼されるステファン、息子を殺された中年女性ゾラの3人だ。このキャラクターはどのように誕生したのだろう。「フランス語のタイトルをつける時に、一つ迷ったタイトルがあって。それは『血を流す幼児期』というタイトルで、つまり、幼児期が一つのテーマになっているの」。
それぞれの年代によって、異なる悩みを抱えているようにも見えるが、それは意図したものではなかったと続ける。「年齢のことは気にしなかったんだけれど、後々気付いたら、異なる世代を選んでいたのね。ローレルは、大人になる前のピュアな少女。ステファンは30代で、社会的には一応責任があるとみなされる年齢ね。でも彼は、まだまだ母親に依存している。30代というのは、少し自分の半生を振り返り始める時期でもあるわ。ステファンも自分の人生が半分失敗してしまっているんじゃないか、自分の今後の道はもう閉ざされているんじゃないかと疑いかけている。そして、ゾラは、息子を失って、その喪失感の大きさに打ちひしがれている女性よ」。
レア監督自身は、1981年生まれの31歳。ステファンと同世代に当たるが、そこに自身の投影はあったのだろうか。「そうね。確かにステファンと、もう一人出てくる医者のアントワーヌという男性は30代。彼らには、私も近いものを感じるわ。特にアントワーヌは、自分の周りに固い殻を持っていながら、ある出会いによって、少しずつ殻をはいでいく人物。そういう変化には共感ができる。でも私は、この映画の撮影の後に出産をして、今は子供もいるので、また違った気持ちになっているかもしれないわ」。
映画のクライマックスには、はっと息を呑むような瞬間が訪れる。きっと、誰もが彼らの未来を想像したくなるに違いない。レア監督は「面会というのは、時間が30分なら30分と決められていて、『はい、ここで終わり』と言われてしまうものなの。限られた時間で話をして、帰らざるを得ないというわけ。そういった雰囲気を出したかったのよ」。
知的で、柔らかな雰囲気を持ったレア監督。次回作の構想を聞くと、「次の作品は全く違うものになるわ。キャンピングカーで移動する巡回劇団を舞台にしているの。これは私の両親の職業でもあって、私自身が子供時代を過ごした場所。尻軽女がいたり、ウォッカが出てきたり、セックスが出てきたり。そんななかで子供が走り回っていたするのよ(笑)。全く違うものにはなるけれど、私はいつだって人の絆を描きたいと思っているわ」。
エモーショナルな群像劇をまとめ上げたレア・フェネール監督。出産を経て、新たな感情や力を得た彼女から、ますます目が離せない。まずはこの長編デビュー作で、その確かな演出力を実感してみてほしい。【取材・文/成田おり枝】