クラブチームに所属するには、セレクションに合格しなくてはなりません。定員人数はクラブで異なりますが、Jリーグ下部組織のクラブなどはおおむね1学年20数人で、ほかのクラブは20〜30人、多いところだと50人前後加入させます。

すでにいくつかのJクラブはセレクションを終了していますが、地域のクラブの練習会や選抜はこれからではないでしょうか。

ジュニサカの「賢人」池上コーチに、セレクションに臨む子どもへの寄り添い方やチームの選び方をアドバイスしてもらいます。

後編◆欧州やブラジルのセレクション事情から学ぶこと



通年セレクションの欧州やブラジル

 この秋、京都サンガでもジュニアユースのセレクションが行われました。「この子ら、絶対にサンガに入りたい!って思ってるのかなァ」受けに来る子どもたちの姿を見ながら、GMの祖母井秀隆さんとそんなことを話しました。
 なぜなら、どの子もサンガを落ちれば次はあそこ、次はここというふうに次々とセレクションを受けるからです。わが子のセレクションに付き添ったお母さんが「セレクションはまるで中学受験のようだった」と話すのを聞いたことがあります。スポーツが受験と同じようなことになっている――果たして良いことなのでしょうか。

 欧州やブラジルなど、サッカー先進国と言われている国の状況はかなり異なります。日本では入団時に選抜されると卒団まで3年間そのチームでプレーできますが、上記の国々では年間を通して定期的にセレクションを実施して、選手を入れ替えます。いつでもどこでもクラブ間で選手の移籍があります。小学年代でも同様に入れ替えるクラブもあります。

 要するに「絶対にアヤックスに入りたい!」と願う子は、延々とアヤックスを受け続ける。それが可能な環境が整っています。何回もテストを受けて合格すると、うれしくてもっと頑張る。トレーニングをするモチベーションにもつながります。

 どうして何度もセレクションを実施するかといえば、小・中学生の育成年代はどんどん力をつける世代だからです。長くコーチをされている方は実感されていると思いますが、選手の力はどんどん変化していきます。あまり注目されなかった子が変貌することは少なくありません。



沈黙したアヤックスの育成担当者



 逆に落ちてしまってクラブを替わらなくてはならなくなる子も出てくるわけですが、その子たちもまた違うクラブを受けて移籍します。気の毒ではありますが、違うクラブで心機一転頑張れます。日本のように、1学年50人前後の強豪クラブに入ったはいいけれど、Bチーム、Cチームにとどまり試合の出場機会がないまま卒団するよりも、試合経験を積むことができます。何よりもそちらのほうが意欲が高まるし楽しいのではないでしょうか。
 
 では、どんな基準で選手を選考しているのでしょうか。例えばアヤックスでは、子どもたちの能力を伸ばすトレーニングの基本コンセプトを「TIPS」と表現しています。Tはテクニック(技術)、Iはインテリジェンス(洞察力)、Pはパーソナリティー(人間性)、そして最後のSはスピード(速さ)です。「足が遅くて技術がある選手と、足が早くて技術がない選手がいたら、われわれは迷わず後者を選択する」とアヤックスのコーチが言ったという話もあります。
 これはあくまでも私個人の考えですが、日本もそろそろ先進国と同じように通年セレクションを実施して、自由に移籍できるようにしたほうがいいと思います。それには、ジュニアユースなり少年なりのクラブが徐々に通年実施を開始する必要があります。落ちた子が行く場所がなくなってしまうからです。

 最初はさまざまな問題が起きるでしょう。どんなことでも、何かを変化させる際はハードな時間になるものです。祖母井さんが欧州にいるころ、アヤックスの育成担当から話を聴く機会があったそうです。その際に通年セレクションにふれ「落とされた子はその後うまくいってるのですか?」と尋ねたら、担当者は沈黙したと言います。

 保護者との軋轢や、本人のサッカーへのモチベーションの維持など問題はあるのだろうと察知します。ですので、関係者が多くの議論を重ねなくてはならないでしょう。

 ゲームを経験できないためモチベーションを維持できずやめてしまう。実力的についていけずにサッカーをやめてしまう。試合に出たいがあまり故障やけがを隠して練習を続けた末に身体を壊す。クラブ間の移籍が出来ないことによるひずみも多く生じています。まずは、今の日本のセレクション方法や形態がこのままでよいかどうかの議論が必要でしょう。



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