3月8日、オリックスとの練習試合に先発した大石達也投手だったが、4回を投げて6被安打4失点(自責2)という内容で、予定の5回を投げ抜くことさえも適わなかった。6球団の競合の末ライオンズに入団した大石投手は今季2年目。是が非でも結果を残さなければならないシーズンだった。大学からプロ入りした選手の2年目と、高校からプロ入りした2年目とではその意味はまるで異なる。高卒2年目であれば、まだまだ育成段階と考えることもできるが、大石投手のような大卒2年目となると、結果を出さなければならないシーズンとなる。その大事なシーズンが幕明ける前に、大石投手には2軍降格が命ぜられた。

この試合もストレートは130km台で、中には120km台のストレートも混じっていた。これでは渡辺久信監督の言葉通り、1軍では通用しないレベルの球威だ。もちろんかつての星野伸之投手のような緩急があれば話は別だが、大石投手は、星野伸之投手のような軟投派ではない。力あるストレートでグイグイ押していくのが、本来の大石投手の姿であるはずだ。だが現状、なかなかその姿を見せることができずにいる。

ここまで筆者は、大石投手に対しそれほど厳しい意見を述べることはなかったが、そろそろ方向転換をしたいと思う。昨年4月、筆者はBaseball Times主催のプロ野球座談会に出演させていただき、デニー友利さん(現DeNA投手コーチ)と大石投手に関しお話をさせていただいた。その時は、大石投手は肩痛を発症した直後で、大石投手が今後先発としてやっていくために、その肩痛は下半身主導の投球動作にシフトするためには結果吉であると述べた。だが大石投手は現状、1年前の肩痛を吉にすることができずにいる。その理由はどこにあるのか?

筆者の率直な意見としては、大石投手の投球動作には無駄が多過ぎる。プロに入り今季は2年目になると言うのに、今なお資質だけで投げてるような印象を受けるのだ。資質は大事だ。しかしプロの1軍は資質だけでは通用しない。資質に加え高い技術も必須となる。投球動作は非常に繊細な運動メカニズムを持っているわけだが、大石投手の投球動作を見ると、そのメカニズムに明らかな狂いを感じ取ることができる。

投球動作に無駄が多いということをまず説明させてもらうと、階段を登る動作を思い浮かべてもらいたい。階段の一段の高さは通常20cm前後だろうか。この20cmという高さの段を一段ずつ登るためには、足を21cmずつ上げればことは済む。もしここで足を25cmも上げて20cmの段を上るとすれば、少なくとも足を4cmも無駄に高く上げているということになる。大石投手の投球動作には、このような無駄が多いのだ。

テイクバックだけを見ても、テイクバックの最深部で手首が曲がってしまっている。これは手首に余分な力みがあるということだ。しかもこの力みは投げるボールに対しほとんどメリットを与えてはいない。そしてもう一点大きな余分な動きが肩線分にある。肩線分とは、左右の肩を結んだラインのことなのだが、この肩線分が非常に遠回りをしているのだ。これが何を意味するのかと言えば、ハッキリ言えば下半身を使って投げられていないということだ。短いイニングしか投げないリリーバーとしてならともかく、これでは先発投手としてはまず間違いなく活躍することはできないだろう。肩線分の動作から無駄な動きを省き、下半身で生み出したエネルギーをスムーズにボールに伝えられるようなマイナーチェンジができない限り、大石投手は1軍に上がってきても先発としては通用しない。

下半身で生み出すべくエネルギーがボールに伝わっていないことを証明する事象がある。それは大石投手の右足の足跡だ。左脚を振り上げて着地させたあと、右足も投球方向に動いていくわけだが、ピッチャーズプレートからの右足の足跡が、大石投手の場合即座に三塁ベンチ側に向かってしまっているのだ。本来この足跡は、まず投球方向に対し真っ直ぐ引かれ、そのあとで三塁ベンチ側に流れる。Yという文字の左上がない状態、その形の足跡が残っていなければならない。だが大石投手の場合、それがないのだ。もちろん0ではないとは思うが、投手として必要な分を考えれば足りな過ぎる。

1年目であった昨季は、首脳陣は基本的には放任主義を貫いた。だが2年目、開幕1軍からも漏れる算段となった大石投手に対し、2軍の横田久則コーチは大石投手を一度ぶっ壊すくらいの気持ちで1から投球動作の基本を叩き込んで行く必要があるだろう。大卒選手の2年目は、もはや特別扱いなどは許されない。大石投手自身も、今年ダメなら背番号15を明け渡すくらいの覚悟が必要だろう。

さて、大石投手に関して、筆者にはもう一点大きく気になる点がある。ここまで書いた内容は、今年2月の大石投手の投球を見ての感想なわけだが、大石投手は左腕の使い方も上手くできていない。肩線分が余分な動きをしてしまっているのは、左腕の動作に大きな原因があるのではないかと筆者は見ている。右投手にとっての左腕は、リーディングアームと呼ばれる。つまり、左腕で投球動作をリードしていくのだ。だが大石投手は左腕で投球動作をリードすることができていない。

左腕の内旋・外旋動作にもっと強さを加え、リーディングアームの巻き取り動作(腕を左脇に巻き込んでいく動作)を大きくしていかなければ、右腕が遠回りしている現象を改善させることはできないだろう。右腕が遠回りしているということは、肩痛の不安も常に付きまとうことになる。もしかしたら大石投手は今なお、本音は肩痛に不安を感じているのではないだろうか?もしそうだとすれば、コンディショニングコーチはもっと厳しい目で大石投手を見ていかなければならない。

リーディングアームが上手く機能していない理由としては、胸郭の硬さが考えられる。大石投手の投球動作からは、胸郭の動きが感じられない。右投手の場合、テイクバック時には右胸郭が開き、左胸郭を閉じる。そしてリリース時には右胸郭を閉じ、左胸郭を開いていく。この胸郭の開閉動作が、大石投手からはあまり見て取れないのだ。もしかしたら大学時代までに行っていたウェイトトレーニングの影響で、筋肉が骨に癒着してしまい、骨の可動性を奪ってしまっているのかもしれない。これを改善するためにもやはりトレーニングコーチや理学療法士の活躍が不可欠となる。

大石達也投手は将来、ライオンズのエース格へと成長していかなければならない逸材だ。1年目は放任主義を貫いたライオンズ首脳陣ではあったが、2年目となった今季はどんどん口を出していくべきだろう。それこそマイナーチェンジにとどまらず、大石投手を一度ぶっ壊す覚悟が2軍横田コーチには求められる。筆者は、実は横田コーチには大きな期待を寄せているのだ。現役時代の横田投手は本当に苦労をし続けた。素晴しい投手だったにもかかわらず肩痛に悩まされ続けた過去を持つ。

プロ野球選手としては一流にはなり切れなかった横田久則投手ではあったが、しかし指導者としては現役時代の苦労を糧に、一流コーチになってくれるはずだと筆者は確信しているのだ。大石投手にとって、横田コーチとの出会いは必ず吉と出るはずだ。それを決して疑うことなく、大石投手には横田コーチと共にもう一度0から再出発し、今季こそは1軍デビューを果たし、期待にたがわぬ活躍を魅せてもらいたいと筆者は願っている。