ESPNが4月22日付で「イチローと松井の関係」と題したコラムを掲載した。

 開幕後初の土曜日、オークランドで行われたアスレチックス対マリナーズの「ジャパニーズ・ヘリテージ・デー」と銘打った試合で、松井が二塁打を放ち、日系四世のカート・スズキ捕手がライトにフライを打ち上げると、タッチアップで三塁を狙った松井がイチローの三塁への送球でアウトになるという場面があった。スズキ捕手は「滅多にないよね。スズキから鈴木、そして松井に送球されてアウトだなんて」とおもしろがった。

 松井とイチローの初対面は高校時代にさかのぼる。松井のいた星稜高校とイチローの愛工大名電高校の野球部は合宿をかねた練習試合を行うなど、長年にわたり交流があった。練習後、選手たちは風呂で汗を流したが、ゲストの星稜高校が先に風呂を使うことを許されていた。しかし、最初の風呂は年長者が使うことも習慣となっていた。上級生だったイチローが風呂場に行くと、1年下の松井がすでに湯船につかっていたという。

 十数年後、メジャーで成功したふたりが、オフに日本のテレビ番組に出演したとき、イチローが松井に「なぜ先に風呂に入った?」と質問した。「あれはイチローさんがおもしろがってした質問」だと松井はいうが、昔のことをイチローが覚えていること自体、興味深い。
  
 イチローと松井は互いにライバル心を抱いていて、仲が悪いといわれており、ふたりが会話している場面はほとんど見受けられない。しかし、今週、ふたりの関係について訊かれた松井は、噂を否定した。

「一緒に出かけるとかはしないけれど、グラウンドで会えば、必ず挨拶する。マスコミがぼくたちのことをライバルだと報じたのが、ファンのあいだにも広まってしまったんだと思う。でも、ぼく自身はライバルといった感情は持っていない」

 日本野球について著書を出しているロバート・ホワイティングは、松井が読売ジャイアンツという人気球団で、ホームランバッターとして注目を浴びたのに対して、イチローは滅多にテレビ放映されなかったオリックス・ブルーウェーブという球団にいたため、4割を打っても松井のほうが注目されたことに対して不満を持っていたのではないかという。

 ホワイティングは「イチローは野球選手としての能力は松井よりも上だという自負があったのに、注目を浴びるのは松井のほうだったことが納得できなかったのではないか。その状況はある部分メジャーでも続き、松井はヤンキースという日本でもマリナーズより知名度の高かった球団でプレーした。個人的な嫌悪感ではないと思う」と私見を述べている。

 メジャーでの個人成績はイチローのほうが数段高い。MVP、首位打者、安打数、10年間で2200本を超える安打、通算打率.330、ゴールドグラブ賞10度、オールスター出場10度で、将来の野球殿堂入りは間違いないだろう。

 松井の殿堂入りは難しいかもしれないが、オールスターに2度出場し、100打点を4度、本塁打25本以上を3度記録。さらに2009年のワールドシリーズでMVPに選ばれた。

 イチローのマリナーズはここまで7勝13敗と、今年も不振に終わりそうだが、アスレチックスは松井のバットでポストシーズン進出を狙っている。昨季のアスレチックスはチャンスで打てなかったが「マツイが打線の中軸に座ってくれたので、前後の打者も楽に打席に入れる」とスズキ捕手は期待する。先発投手のジオ・ゴンザレスも「投手陣にかかるプレッシャーが少なくなった。少しは点を取られても大丈夫だと思って投げられるのは、すごいプラスだ」という。

 ふたりの日本人野手が残すだろうものについて訊かれた松井は「イチローさんが達成したものは本当にすごくて、きっとすべての選手が目標にするだろう」と述べた。「将来、一緒になにかをすることになるかどうかは、まだわからないけれど、野球をよくしたいと思っていて、アメリカと日本野球の架け橋となりたいという願いは共通だ」