当然のことながら、こうした事業拡大を支えるのはエンジニアたちだ。排ガス4次規制に対応した開発を強化するため、設計技術者を中心にエンジニアの中途採用が活発化している。

 高井氏は小型エンジン設計課における仕事の魅力をこう語る。
「同じエンジンでも乗用車用エンジンなど分業化が進む事業に比べると、私たちの部署は小さいかもしれない。でも逆にいえば、設計者自身が、顧客のニーズの把握から、設計、試運転まで全工程に関与できる面白さがある。もちろん、ボルトひとつから専用部品まで、エンジンを構成する部品のすべてを知っておく必要はあり、幅広い知識が求められるが、それだけに、『このエンジンは私が作った』と言い切れる醍醐味がある」

 もう一方で、エンジンの生産では、サプライヤーとの関係は重要。鋳造、鍛造、板金などの専門加工会社や各種パーツのサプライヤーとのつきあいは当然深くなる。
「たとえば木型を作る協力会社に足を運び、型屋さんに直接自分の設計の思いを伝え、その通りの型を作ってもらうということもする。サプライヤーが供給する標準部品では顧客の要求が満たせないとなったら、サプライヤーと共同で新しい部品を開発するなど、協業のなかで新製品を開発する面白さも味わえるはず」

 高井氏が中途採用エンジニアに求めるのは、なによりもエンジンの供給で世界中の産業や市民生活を豊かにするという思い、そして技術者としての「前向きな姿勢だ」。性能はもとより、環境対応、低燃費、騒音・振動対策など、エンジン開発にはさまざまな条件が課せられるが、そうした課題を突破するためには「プラス思考が欠かせない」というのだ。

「機械工学の基礎知識があり、何らかのエンジン開発に携わった人というのがベスト。しかしエンジン開発経験のない人でも、ものづくりにおいてたえず論理的な思考を失わず、筋道立てて考えることのできる資質があれば、それだけでも十分に適応できる」と、高井氏はエンジン技術部が求める人材像を語っている。


【Part2】耐久試験を耐え抜いたエンジンを、撫でてやりたくなる
 ディーゼルエンジンは、温暖化の原因となるCO2の排出がガソリンエンジンよりも少ない代わりに、大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)や粒子状物質を排出します。そのため、以前から厳しい排ガス規制が行われていますが、私は今、2012年、2015年の4次規制基準を満たす小型ディーゼルエンジンの設計・開発を担当しています。

 新たな規制をクリアするためには、今まで使っていなかったコンポーネントや制御技術を採用する必要があります。具体的には、EGR(排ガス再循環)装置などがあります。当社の小型ディーゼルエンジンでは3次規制まではそれを使っていなかったのですが、4次規制対応では採用することになりました。そうなると、エンジン性能をチューニングする方法や、信頼性の評価点も変わります。

 また、4次規制では排ガス測定の方法も変わります。それに対応するためにも、これからは産業用エンジンでも、電子制御技術のより一層の高度化が必須です。また燃費や使い勝手の改善も重要な課題です。

 学生時代から、ディーゼルエンジンの熱機関としての優れた性能に惹かれ、それを仕事にしたいと思っていました。ただ、学生時代はCADシステムが専門のソフトウェア系だったので、エンジンは素人。不安はありましたが、まさに今思い通りの部署で仕事ができています。

 もちろん、学生時代に想像していた以上の難題がありました。一人ではなかなか解決できない問題もたくさん。しかし、三菱重工にはあらゆる工学分野のトップレベルの専門家が揃っていて、すぐ隣に座っている人に聞けば、問題がたちどころに解決するということがよくあります。