『予告in』は根本的解決になっていない?:トレビアンニュース

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2ちゃんねる等のネット掲示板で「○○を殺す」という書きこみを見かけたことがないでしょうか。こういったネット上での犯行予告が社会問題として世の中を騒がせています。
増え続ける犯行予告の防止対策として開設された「予告.in」にも賛否両論があり、ますます事態は混迷しているようです。

まずは、増え続ける犯行予告と「予告.in」の経緯についてみていきます。


■増殖する「犯行予告」
2008年6月8日に発生した秋葉原通り魔事件で注目されたのが、加藤容疑者が事件を起こす前にネット掲示板で犯行予告ともとれる書きこみを行っていたことです。
犯行予告それ自体は、「2ちゃんねる」を始めとするネット掲示板などでは以前から発生していましたが、マスコミに取りあげられたことを皮切りに社会的に注目を集めることになりました。マスコミによる報道以後は、小学生による犯行予告など、罪の意識が薄いまま冗談で犯行予告を投稿する例も明らかにされ、事態は深刻化しています。
犯行予告が増加した原因の一つとして、「2ちゃんねる」管理人の西村博之氏は、初めから失うべき社会的信用がないことから社会的制裁を恐れない層の存在を指摘し、そうした層を「無敵の人」と表現しています。

参考:近年起こった、主な犯行予告
予告.in通報で逮捕相次ぐ 平井堅さんコンサート事件の犯行予告?も - ITmedia
小学校4年生がネットで殺人犯行予告、問われるインターネット使用の管理。 - Techinsight Japan
ネット犯行予告有名人に拡大 太田光さん「殺害」書きこみ - J-CASTニュース

■犯行予告をするとどうなるのか?
ちなみに、ネット掲示板で犯行予告を行うとどういう罪で裁かれるのでしょうか。
ネット関連の法律に詳しい弁護士・落合洋司さんがR25.jpのインタビューに対して行った回答によると、威力業務妨害と脅迫罪に問われることが多いようです。

威力業務妨害とは、直接的な暴力や言葉の暴力などを用いて人の業務を妨害する行為です。また、脅迫罪は人の生命・身体・自由・名誉や財産に対して、これから害を与えるぞと脅迫することだけで成立する罪状です。つまり、全く実行する気がない完全な愉快犯による犯行予告でも、罪に問われることに変わりはないのです。

ネットの犯行予告にはどんな刑罰が適用されるの? - R25.jp

■犯行予告と戦うサイト「予告.in」の登場
犯罪予告が増加してきたネット社会を危惧し、政府も対策を講じるべく動きはじめました。6月12日、総務相はインターネット接続業者やサーバー管理会社などに対し、ネット上で殺人などの犯罪予告を確認した場合、速やかに110番通報するよう要請を始めるとともに犯行予告の書きこみを自動的に検知できる新技術の開発を行う方針を発表しました。総務相は、新技術の開発費として数億円を見積もったのですが、これを受けて無料同然の値段で作られたのがベンチャー企業・ロケットスタートの矢野さとるさんによる「予告.in」です。政府が長い時間と莫大な費用をかけてシステムを構築しようとしたのに対し、迅速にアイディアを実行に移した矢野さんの行動は、ネット上で賞賛を浴びました。

■「予告.in」の機能
それでは、「予告.in」にはどのような機能が存在するのでしょうか。

予告.inは、ネット上の犯行予告を収集して共有するサイトです。サイトにアクセスした一般の投稿者から犯行予告情報の通報を募るとともに、2ちゃんねる、はてなブックマーク、ブログから「殺す」などのキーワードを検索して犯行予告をサイト閲覧者と管理人とで共有するのが基本的な作りです。

犯行予告のURLと内容、種類(殺害、放火、傷害、自殺、爆破、テロなど)を通報できる投稿フォームだけではなく、すでに投稿された犯行予告情報をみて、サイト閲覧者が「悪質」「セーフ」かを投票する機能や、犯行予告の文面に対してコメントを投稿する機能など、ほかのネットユーザーの意見が自由にみられる機能も実装しています。さらに犯行予告を共有できるメーリングリスト、犯行予告についてまとめたWiki「犯行予告ペディア」などのサービスを行い、Twitterにも展開しています。

警視庁への同時通報を導入して警察との連携をはかったり、NEWS23の特集にも取りあげられたりするなど、既存の権力やメディアも「予告.in」に対して好反応を示しているようです。

■「予告.in」の問題点
順調に運営されているかのように見える「予告.in」ですが、ネット社会の一部では問題視する声もあります。

「予告.in」の投稿フォームから犯罪予告を投稿する際に、ユーザー認証もユーザー登録が不要なことが問題とされています。正当な法律の知識を持った人間が通報しているとは限らないため、言葉狩りや言論弾圧になる危険性があるからです。また、「予告.in」の存在を知ったネット利用者が、通報されるかされないか試すような書きこみをする危険性もあり、「かえって犯行予告を煽っているのではないか」と逆効果を指摘する声もあがっています。

管理人である矢野さとるさんの開発日記では「アウトかセーフか以前に、そんな発言を不特定多数がみる場所で試す行為そのものが不謹慎だし迷惑行為」と断言していますが、「予告.in」が純粋に抑止力として機能することが難しい状況も発生しているようです。

「人を投す」「埼京線の上野駅」 悪ふざけ「殺害予告」が横行 - J-CASTニュース
殺人予告情報収集サイト管理人 自身も「殺害予告」されていた - J-CASTニュース
「太田光を殺します」と犯行予告の男「ユーモアだった」 - Techinsight Japan

こうした「予告.in」の機能面のほか、プログラムの不備につけこまれ、「予告.in」のトップページにアクセスしただけでネットユーザーが2ちゃんねるに犯行予告を投稿してしまう事件が発生しました。「予告.in」自体が犯行予告の発信元になってしまうという皮肉な事態となってしまったわけですが、個人が短期間で作ったプログラムにおける不具合による問題も明らかになりました。


批判を受けることもある「予告.in」ですが、そもそも犯行予告対策として政府が提示した予算のムダ使いに対して解決策を示したという成り立ちを考えてみると、増加するサイバー犯罪に対し民間のひとりの技術者と政府が協力して解決する姿勢を提示したという点からしても「予告.in」の存在は意義深いものがあるといえるのではないでしょうか。

まだネットでの犯行予告防止への対策は開始されたばかりです。今後の官民を問わない対策に期待したいところです。

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