【サムライ通信】厳しさの中に優しさ。オシム監督の決断は?

写真拡大

 日本代表がパレンバンに到着したのは、27日の夜9時だった。ちなみに私は代表よりも数時間もあとに出発し、数時間も前にパレンバンについていた。それでも3回のフライトでの移動に強い疲労感を感じていた。

 代表は26日にハノイを発って、クアラルンプールで乗り換えて、ジャカルタに到着した時点で飛行機の遅れもあり、12時間かかり、26日深夜になっていたという。そして、睡眠時間と座席の確保の結果、27日夜、パレンバン行きの飛行機に乗り込んだ。その飛行機も1時間あまり遅れたという。

 そのうえ、パレンバンのホテルの部屋の確保も不十分と、様々なアクシデントが日本代表選手を襲ったが、遠藤は「しょうがない。日程的に厳しいことは最初から分かっていた。今後も、もしかしたらこういう状況があるかもしれない」と語っている。他の選手も同様の反応だった。もちろん、試合を翌日に控え、文句を言っても始まらない。与えられた環境の中でできうる最高の準備をするだけだ。そして、それは監督も同様である。

 練習後に行なわれた会見が始まったのは23時を過ぎていた。その中で、監督は韓国戦のメンバー選考への悩みをもらしている。「我々にハンディキャップがあるとすれば疲労である。明日の試合では、こちらが動き回って、こちらの方がフレッシュだと思わせられる状況でプレーしたい。それができないようであれば、日本は不利になるといわざるを得ない。

 私はジレンマに立たされている。選手はみんな出場したがっている。立派なことだが、1人1人がどこまでできるかを私はまだ判断していない。どうか理解してほしい、選手が人間であることを。みんな試合には出たい。疲れていても『できる』と言う。その気持ちを否定することはできないが、実際に出て動けない、力がでないということがあるかもしれない。その結果、試合に負ける。もちろん、その選手を使った監督に責任がある。

 明日が“日韓戦”ということは、もちろん承知している。しかし、私の選手は人間である。人間として『活躍したい』、『出たい』と思うのは、自然な気持ちだ。しかし監督の仕事として、選手の気持ちを単純に満足させるべきなのか。監督として何を選択すべきなのか。監督は、よくそうした選択を誤ることがある。だから誤らないように、私は考えている最中だ。その際、選手を何かの部品でなく、人間として考えるようにしている。人間性を大事にしたいということだ」

 会見中、記者とのやり取りでは怒ったような素振りも見せていたオシム監督。しかし、最後のその言葉に彼の中にあふれる優しさを感じてしまった。「勝つか負けるかで、アジアカップの意味合いが変わってくる」と坪井。さらに「相手は韓国。向こうも強い気持ちで来る。こっちも強い気持ちで行きたい」と遠藤。

 選手たちの「強さ」に期待したい。

―― text by Noriko TERANO from Indonesia ――

サムライ通信
"自滅"と"日本の徹底分析"。重なった二つの敗因
中村と高原に見る"組織"と"個"のバランス
長丁場の戦い。コンディションとの付き合い方
オーストラリアに勝利。W杯のリベンジではない。
W杯の惨敗から1年。オシムの"自信"
オーストラリア戦におけるディフェンスの意識

もっと見る